【荒新】A day before your Birthday.【2014新誕】

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大学1年の荒新です。【R-18】
新開さんの誕生日に合わせてサプライズでやってきた荒北さん。
いい雰囲気の中、ある出来事をきっかけにして嫉妬や不安が爆発してしまった新開さんは…。
・性行為描写があります。
・新開さんがちょっと女々しいです。
・洋南大に待宮くんがいる設定です。
(※2014/07/15 新開さん誕生日用)

 
 都内某所に建つ明早大学。その正門前でロードバイクを停車させたのは荒北靖友だった。
 静岡県上富士市から県道と国道を走り継ぎ、およそ140kmの距離を走破した。街灯に照らされたチェレステカラーのロードバイクも心なしかくたびれて見える。時刻は午後10時半。最高気温が32℃だったこの日は夜になっても気温が下がらず、このまま熱帯夜になりそうだった。
「あー、あっちぃ……ったく。汗かいちまったじゃねーか」
 ロードバイクを降りて軽く屈伸した荒北はバイクを押しながら近くの自販機に向かった。ボトルに入れていたスポーツドリンクはとっくに空になっていて、水分補給ができないままずいぶん時間が経っている。急ぐことを優先したせいだったがさすがにカラカラの喉がキツイ。補給のためにはスポーツドリンクが最適なのだが、荒北が選択したのはもちろんベプシだった。ひとくち飲めば炭酸の刺激が渇き切った喉に痛いが、飲み干したあとの爽快感は何物にも代えがたい。
 頬を伝う汗を無造作にぬぐった荒北は、背負ったバックパックの中から携帯電話を取り出した。通話履歴から名前を選択してダイヤルボタンを押す。コール音が1回、2回、3回と続いたが10回鳴っても相手は出ず、結局そのまま留守番電話に繋がった。
(出ねぇな……もう寝てんのか? )
 電話の相手は部活を終えてとっくに家にいるはずの時間だし、今晩は何の予定も入れていないことを福富にも確認している。ベプシを半分まで一気に飲んで再度ダイヤルボタンを押した。またコール音が続いたが、今度は6コール目で通話表示になった。
『……もしも』
「オメーなァ、出んのおっせぇンだヨ。まさかもう寝てんじゃねーだろうなァ」
『え……靖友、か?』
 電話口から聞こえてくる、少しだけ嗄れた眠そうな声。まさに起き抜けの声の持ち主は新開隼人だった。
「今からオメーんち行くからァ。で、こっからどーやって行きゃぁいんだ?」
 新開が大学の近くに住んでいることは知っている。住所も聞いたような気がしたが覚えていなかった荒北は、勢いでなんとでもなるだろうととりあえずここまで来てみたわけだった。
『え、うち? 靖友、おめさん今どこなんだ? 静岡じゃないのか?』
「ハッ! 静岡だァ? ちげーよ、オメーんとこの大学の前」
『えっ? 大学って明早か?』
 電話口の向こうでバサバサと音がするのは布団から出た音だろうか。
「やっぱり寝てやがったか。で、どーやって行くんだァ?」
『え、冗談じゃないよな? おめさん本当に――
「だーかーらァ、いるっつってんだろ!? 今はなァ正門前。左側にコンビニ、その先に……あれは歯医者かァ?」
 目につくものを列挙しながらベプシの残りを飲み干してロードバイクに跨る。汗で張りついたTシャツの襟ぐりを伸ばして扇いだが風がない。一刻も早く涼しい場所で汗をぬぐいたかった。
『とりあえずそこにいてくれよ。すぐ迎えに行くから』
「あー、待ってんのもダリィからさァ、お前んちの近くまで行くわ。このまま誘導してくんない?」
『じゃ、じゃあそのままコンビニの前通過して、つきあたりを左に曲がって――
 道案内しながらも電話の向こうでは相変わらずバタバタと音がしていて、新開は慌てて部屋の片づけでもしているのかもしれない。それを聞いてニヤニヤと笑いながら荒北はゆっくりペダルを漕ぎだした。
「なぁ新開。んな慌てて片づけなんてさぁ、なんか変なモンでも隠してんのォ? 部屋行ったらオレが抜き打ちチェックしてやんヨ」
『ばっ……へ、変な物なんてあるわけないだろ。で、今はどの辺なんだ?』
「今ァ? 曲がって2個目の信号着いたトコ」
『お、近いな。すぐ迎えに行くからそのままそこにいてくれるか』
 電話を切ったあとで見つかりやすいように街灯の下に停車する。しばらくするとどこからか名前を呼ぶ声がした。
「靖友! こっちだ、こっち!」
 声の主を探すと10メートルほど先のマンションの2階、共用廊下から大きく手を振っている人物が見えた。
(アイツ大声で……恥ずかしっつーの)
 再びペダルを踏んでマンションに向かう。新開はすでに1階に降りていて、彼のタレ目に厚い唇、寝ぐせのはねる赤茶色の髪が懐かしい。Tシャツにハーフパンツなんてラフな服装なのに、こうも着こなしてしまうのは新開だからだろう。
「オメーなぁ、大声で呼ぶなっつーんだヨ。こっちが恥ずかしいっての! このボケナスがァ」
「すまねぇ。でもいつも大声のおめさんには言われたくないな」
 微笑んでウインクする顔は相変わらず元気そうだった。
 荒北の誕生日以来、約三か月ぶりの再会。本当はもっと違う言葉をかけたいのに、照れ隠しでついつい声を荒げてしまう。それに直接顔を見るのはメールや電話と違って気恥ずかしく、なんだかくすぐったくてたまらない。
「とりあえずさァ、シャワー貸してくんない? もーベトベトで気持ちワリィ」
「まさか静岡から乗ってきた……わけないよな?」
「ハッ! そのまさかだヨ。おかげでこんな時間になっちまったけどなァ」
 かなりとばしたつもりだったが予想よりも遅い時間になってしまっていた。やはり部活の練習後に走るような距離ではない。ロードバイクから降りようとクリートを外したとき、膝が震えて身体が傾いた。ヤバイと思ったが身構える余裕もなく、しかし倒れるよりも先に肩を抱かれて支えられる。新開の厚い胸板が目の前で、「ワリィな」と見上げた瞬間に不意うちで唇が重なった。あっという間の軽いキスだったが唇の柔らかい感触はまだ消えず、驚きで余計に変な汗が吹き出してくる。
「こっ……ここ、外だぞ! 誰かに見られたらどォすんだバァカ!」
「ヒュウ! おめさん、顔真っ赤だぜ? この辺はこんな時間じゃ誰も通らないから大丈夫だよ」
「誰もいないったって、万が一ってことが――
「靖友、とりあえず中に入ろうか。シャワー使うんだよな?」
 荒北の言葉を笑顔で遮った新開は、荒北のロードバイクを抱えるとさっさとエントランスに向かって歩き出した。
「お、おう。ってかヒュウじゃねー! うっぜ!」
 悪態をついても新開は振り返らず、荒北は動揺しながらも彼の背中を追った。
 
*
 散らかっていると勝手に想像していた室内は思っていたよりもきれいなものだったが、相変わらず自転車関連のもので溢れていた。
 パネルに飾られたcerveloのポスター。工具箱の上に積まれた自転車雑誌。磨き途中のホイールは壁に立てかけられ、シューズやヘルメット、グローブが銀色のエレクターに綺麗に並べられている。その横のテレビボードには部活の引退行事だったファンライドの集合写真と、3年生だけで撮った写真が飾られていた。
「へぇ、結構キレイにしてんじゃねーか」
「寿一や大学のやつらもよく来るからな。まぁ、靖友よりはきれいにしてるんじゃないか?」
「るっせ! ってかさっき慌てて片づけてたんじゃナァイ?」
 変なモノは……と呟きながらベッドの下やエレクターの下段に視線を向ける。何もないだろうと承知のうえでわざとジロジロ眺めていたのだが、部屋の片隅に集められたピンクや赤の袋が目についてしまった。明らかに男は選ばないであろう、やたらとラッピングに凝った袋や箱。大学にも存在するらしい“ファンクラブ”からのプレゼントだとは思ったが、高校時代よりも数が増えているように見えるのは気のせいだろうか。
「……福ちゃんに聞いてたけどヨ……相変わらずスゲェな」
 男としての羨望や恋人としての嫉妬など、複雑な感情を込めながら新開をじっとり見つめる。
「ハハ、まいったな……ほら、シャワーはこっちだよ。タオル持ってるか? なかったらこれ使っていいからな」
 荒北の様子に慌てた新開が強引に腕を引っぱり、押しこまれるようにして浴室に案内された。
「別に疑ったりはしてねぇけどさぁ……そこで慌てられっとなんか怪しく見えるナ」
「いや、何もないよ。靖友を裏切るようなことはなにもない」
「ふぅん……ま、今さらだし、お前が誰に何を貰おうがどうでもいーけどォ」
 そう呟きながらカバンの中から着替えを取り出そうとしたが、出掛けに慌てたせいか準備したはずの服が入っていない。
「あ……急いだからパンツ以外持ってくんの忘れた」
「大丈夫、あとで着替え置いとくな。今着てるのは洗濯するから脱いでそこのカゴに入れといてくれ」
 説明しながらなぜか服を脱がそうとしてくる新開の手を慌てて振りほどく。
「いいよ、自分で脱げっからァ! もう風呂入るから出てけヨ!」
「え、一緒に入るんじゃねえのか?」
「はぁ? なんでだよ」
「どうせオレもシャワー浴びるし、一緒に入っちまったほうが早くすむだろ?」
「狭いしムリ」
 無理やりドアの向こうに新開を押しやると彼は「そんなあ」と言いながらも、渋々出ていく顔は嬉しそうだった。
 扉を閉じてドアに凭れる。正面の鏡にはにやけた顔の自分が映っていて、浮かれている気分を隠すように口元を手で覆った。
 普段から入浴時間が短い荒北は、サッと汗を流すと3分後には着替えを済ませていた。タオルを首に提げて浴室を出ようとしたが、ハッと思い出してカバンを探る。荒北が取り出した物は茶色のメガネケースで、度が入っていない黒縁のダテメガネをつまむとそれを装着した。このメガネは待宮との会話の中から生まれたアイディアだった。

 何かの延長で恋人の誕生日の話題になったとき、ノリノリになった待宮はたくさんのアドバイスをくれた。
「せっかくだからスーツでも着たらどうじゃ? 女子はサプライズが好きな生き物じゃけぇ、突然ビシッとした格好でバラの花束でも持って行ったらええ。荒北は普段の態度がアレそうじゃけぇ、ギャップっちゅうもんで彼女もイチコロじゃ」
「態度がアレっつーのがなんかひっかかるんだけどォ!? つーかこのクソ暑いのにスーツなんてぜってームリ。それに花束なんて貰ってもアイツは嬉しくねーヨ。それより食いもんのほうが喜ぶな。焼肉食べ放題でも行っとくかァ」
「焼肉ぅ!? 荒北の彼女は変わっとるのぉ。そんなもんで喜ぶんか……でも、普段とは違うとこを見せんとだめじゃ。彼女の誕生日なんじゃけぇ」
 その後も“彼女”と勘違いしたまま話が進み、「何もしなくていい」と断る荒北に「せめて普段とは違う自分を演出しとけ」と待宮が譲らず、なぜかメガネで知的さをプラスするという案をゴリ押しされたのだ。

「知的……になんてなってんのかァ?」
 半信半疑でメガネをかけ、鏡を覗いてみたが自分自身ではなんとも判断しがたい。
(わかんねェ……けど、まぁいっかァ)
 効果があるのかないのかは新開の反応を見たらわかるだろうと、荒北は髪を拭くのもそこそこにしてバスルームを後にした。
 
**
 荒北が部屋に戻ると新開はソファに身体を預けながら雑誌を眺めていた。
「なぁ、ジャージかスエットか、なんか穿くモン貸して」
 後ろから覗き込んだページの上に髪の毛から垂れた雫がポタリと乗る。
「あ、わりィ」
「おいおい、またちゃんと乾かしてな――
 顔をあげた新開の大きな目がさらに大きく見開かれ、口からこぼれたパワーバーが雑誌に落ちた。いつもなら落下寸前に器用に受け止めるはずなのに、珍しく落ちたことにも気がついていないらしい。
「靖友……何、そのメガネ」
「あ、これ? どォ? 知的に見えるゥ?」
 腰に手を当ててポーズを取り、メガネのフレームを指でクイっとあげてみせる。
「視力悪くなったのか? ずっと動物並みに良かったのに」
「あぁ!? 誰が動物だコラァ」
 反射的に声を荒げてしまい慌てて口を押さえる。
(っとあぶねぇ。今日は知的に。知的に…… )
「あー、コレはな、いつもと違う自分をエンシュツみたいなァ?」
「どうしたんだ? おめさんはいつも通りで充分なのに」
「そ、そォか?」
 最初の反応は良かったがそれ以外はいつも通りの新開で、荒北は少しだけ拍子抜けしてしまった。落ちた補給食を一口で食べきった新開は雑誌を閉じると、自分の足元を指さして手招きする。
「ほら、ここ座りなよ。髪を濡らしたまんまじゃ風邪ひくぞ。おめさんはただでさえ風邪を引きやすいんだからしっかり乾かさねぇと」
 言われるままに新開の足元に腰を下ろす。荒北が首に提げたタオルを取ると、それを受け取った新開は濡れた黒髪をそっとつまんで鼻を寄せた。
「髪、オレと同じ匂いだ」
「ったりめーだろ。お前の使ったんだから」
「なんか、同じって……嬉しいもんだな」
 荒北の後ろで照れくさそうな声がしたかと思えば、突然肩を掴まれてそのまま後ろを振り向かされる。「なんだよ」と言う前に新開の両手が荒北の頬を挟み、そのまま強引に唇を奪われた。柔らかくて、懐かしい厚い唇の感触。頬を覆う手のひらが熱い。
 唇が離れ、ゆっくり瞼を開けた先には新開の大きな瞳があった。穴が開きそうなほどにじっと見つめて動かない。
「ずっとおめさんに会いたかったんだぜ」
「……んなまじまじと見てんじゃねーヨ」
 視線を遮ろうと腕で顔を隠そうとしたが、その手を掴まれてまた唇が塞がれた。歯を割って侵入してくる舌は甘く、いつもは不味いはずなのに今日は特別甘いチョコレートの味がした。
「靖友、チョコレートの味がする……うまいな」
「オレじゃねーよ。さっき食ってた味だろーが。オレは甘いのはキライなんだヨ」
 自らの下半身の膨張に気がついた。ボクサーパンツを押し上げるキツさが苦しく、Tシャツの裾を伸ばしてバレないように隠したつもりだったが、床に降りた新開が隠した部分の裾を捲ろうと手を伸ばしてくる。
「それで隠したつもりかい?」
「なっ、おいっ、触んなって!」
 裾から潜り込んだ指が腹部を滑り、胸に触れる。
「うぁっ」
「相変わらず靖友の肌はサラサラだな。もっと触りたくなる」
 新開の空いた手が首筋を撫で、引き寄せられてうなじに歯が立てられた。
「しんかっ……それやめろ……あっ」
「靖友って首弱いよな。その反応、結構クるよ」
「バカ言うなっ……!」
 首筋から耳にかけてゆっくりと優しく唇が触れる。
「ぅあっ……んんっ」
 突然耳たぶを噛まれたせいで不意に高い声が漏れた。慌てて口を手で塞ぐと新開がニヤリと意地悪く微笑む。
「我慢しなくていいだろ。久しぶりなんだからもっと声聞きせてくれよ」
「っんだよオメー、がっつきすぎだろ」
 貶す声も震えてしまい、恥ずかしくてまともに新開の顔が見られない。
「そりゃあね、がっつきたくもなるさ。久しぶりなうえにこんなアイテムを用意してくるなんて反則だよ」
 わざとため息をついて見せた新開は荒北を抱えるとそのままベッドに運んで横たえた。Tシャツを脱ぎ捨て、腰に跨り、荒北を見下ろしながら厚い唇をゆっくりと舐める。
「今日はメガネかけたままでしてみようか。外しちゃだめだぜ」
「ハッ! この変態がァ」
 覆い被さってくる新開の首に腕を絡め、引き寄せてキスを求める。一瞬驚いたのか目を見開いたが、新開は素直に唇を重ねた。
「今日はずいぶん協力的だな」
「だろォ? 今日は特別だからナ」
「特別?」
「いいから……もう喋んな」
 赤茶色の髪の毛を掴んで逃げないように拘束し、もう一度引き寄せて唇にゆっくり歯を立てる。甘噛みして感触を楽しむと無理やり口を開けさせて舌をねじ込んだ。彼の口の中は熱くてまだ甘い。
「靖友……オレ、やばいかも……」
「あ? 何がヤベーんだ。まだなんもしてねェヨ、新開チャン?」
 新開の余裕のなさそうな声に思わず口角がキュッとあがる。
「くそっ……メガネがこんなにクるとは思わなかったよ。一体こんなのどこで覚えてきたんだ?」
「ハハッ! もしかしてお前、メガネフェチってヤツゥ? これは待宮がなァ普段とは違うオレを見せろって――
そう言いながらTシャツを脱ぎかけたがふと手を止めて新開を見た。
「……新開?」
 新開は呼びかけにも反応せず、ハーフパンツを脱ごうとウエスト部分に手をかけたまま固まっている。その様子を訝しんだ荒北は上体を起こすと新開の肩を揺すった。
「おーい。新開チャン? 起きてますかァ?」
――よな」
「あ? 何ィ?」
「……靖友は待宮くんと仲がいいよな、って」
そう呟いて新開が顔をあげた。荒北を見据える彼の目はすわっていて、身体を包む匂いや雰囲気に暗い重みが増していく。こうなった場合はとりあえず彼の気が収まるまで待つしかなく、荒北の経験上それが一番の有効策だった。
「待宮くんって呉南のエースだったよな。インハイで寿一に因縁つけてきた。おめさん、いつ掴みかかってもおかしくない態度だったのに、いつの間に彼と仲良くなったんだか……。オレが知らないうちにいつの間にか連絡取るようになってたよな。まさかおめさんらふたりが大学も一緒になるとは思わなかったよ……ずいぶんと仲が良いよな」
「ハァ? 仲ァ? 別にフツーだろ。まー、アイツもベプシの旨さがわかるオトコっつーか、オレに似てるとこもあるしな。ほら、シンキンカンっつーの? そんなやつ」
 待宮とはインターハイのあとで約束通りにベプシを奢ったことがきっかけだった。
 荒北から連絡を取ることはなかったが、意外にも待宮はマメな性格らしく、ちょくちょくメールや電話をよこした。正直なところ出会いと印象はサイアクだったが、話せばわかるイイヤツだと今はそう思っている。
「へぇ……親近感ね。靖友に電話してもよく隣りにいるし、靖友の話の中で彼の話題が多いって気がついてるか? おめさん、やたらと楽しそうに話すんだよなあ。やっぱりさぁ……」
 続く言葉を飲み込んだのか、一瞬間が空いて新開が口をつぐんだ。
「なんだよ。言いたいことがあンならさっさと言えヨ」
 荒北の言葉にも応えず新開はしばらく無言のまま俯いていたが、意を決したのか顔をあげるとゆっくり微笑んでみせた。彼の口元は笑っているが目の奥はまったく笑っていない。
「靖友は……やっぱりあれか? エースが好きなのかな……寿一みたいなさ」
「あ? なんだそりゃ。テメー今なんて言ったァ?」
 思わぬ新開の言葉に頭にカッと血がのぼる。
「おめさん、寿一には頻繁に連絡してるって知ってるぜ? ここ一週間は特に。オレには電話もメールもまったくよこさねぇのにさ。でもまぁ……寿一はわかるよ。アイツの凄さはオレが一番良く知ってる。寿一とは長いつき合いだからな」
 そこまで言うといったん天井を見上げ、何かを吐き出すように深くため息をついた。
「……寿一ならしょうがないかなって……まだ我慢もできる。おめさんが寿一を慕ってるのは誰よりもオレが一番近くで見てきたからな。……でもな、近くで見てきたからこそ考えちまうんだよ」
「おい、一体なんの話だヨ。今福ちゃんは関係ねェだろーが」
 掴みかかってしまいそうな衝動を拳をきつく握りしめて必死にこらえる。そんな気も知らずに荒北を見た新開はギュッと眉を顰めた。
「寿一の次は待宮か……彼に寿一を重ねてるんじゃないよな? やっぱり寿一がいいってことじゃないよな? オレは……靖友の中にオレはいるのか不安なんだよ」
「……はぁ? お前、何言ってんだ?」
 堰を切ったように話し続ける新開の目は虚ろだった。荒北を見ているはずなのに視線が合っていない。
「だいたい今まで靖友が会いたいって言ってくれたことがあるか? いつもそれを口にするのはオレだけで、会いたいって思ってたのもオレだけなんだろ? まぁ、好きだって伝えたときも靖友の気持ちはちゃんと聞いてなかったよな。そのまま……オレはつき合ってるつもりだったけど、どうせおめさんは優しいからオレに合わせてくれてるだけなんだろ?」
 大きな目が潤み始めて涙が溜まっていく。目のふちに沿ってどんどん盛り上がり、留まりきれなくなった一粒が静かにこぼれた。
「オレは……寿一みたいにはなれないよ。いつもおめさんに引っ張ってもらうしかなくて、かっこいいとこなんて何も見せられなくてさ。でも靖友はこんなダメなオレと一緒にいてくれて……だからオレだってかっこいいところを見せたかった。頼りになる男でいたかった。だから卒業して離れても大丈夫って……」
 流れる涙を拭おうともせずに新開は話し続ける。
「なのによ、いざ離れてみると不安でしょうがねぇんだ。靖友がオレをどう思ってるのか考えちまう。オレのいない所で何をして誰を想っているんだって、苦しくてしょうがねぇんだ。オレは……オレは弱いよ……オレは寿一にはなれないんだ」
 泣きながら笑った新開は額に手を当てて目を隠すと、うな垂れてそのまま黙り込んだ。
(ったく、このバカは…… )
 新開の言葉を聞いている間に殴りたいほどの怒りはだいぶ収まっていたが、まだムカつきは残っていた。
「……テメーの言いたいことはそれだけか?」
 返答を待ったが応えはなく、それが肯定であると勝手に解釈する。
「黙って聞いてりゃあワケわかんねぇことばっか言いやがって。ハッ! 福ちゃんにはなれねェだ? ったりめぇだろ、そんなもん」
 馬乗りのまま動かない新開をどけると、その正面に胡座をかいて頬杖をついた。呆れて思わずため息がでてしまい、ため息の音に目の前の新開がビクッと身体を揺らす。
「いいか、福ちゃんとテメーは違って当たり前なんだよ。福ちゃんは福ちゃんで、新開は新開。誰がいつ福ちゃんの代わりを頼んだ? オレがそう言ったのか? あぁ? んなこたぁひとことも言ってねぇよなァ。離れて不安だァ!? さっさと進路決めやがったのはどこのどいつだヨ」
(ロクに相談もしねぇで決めたくせに……。オレの気持ちも知らねぇで……)
「待宮がどーだとか言ってっけどよォ……それって、つまりはオレを信用してねェってことだよなァ?」
 新開の肩を掴んでベッドに押し倒し、今度は荒北が彼の身体に跨ると困惑する顔をじっと見下ろした。
「勝手にゴチャゴチャ考えた挙句に決めつけでウダウダ言いやがって。そういうの、死ぬほどうぜぇって知ってたァ?」
 散々なことを言われてもそれでもキレなかった自分を誉めてやりたかった。ここでキレてふたりの関係を終わりにしては意味がないし、そのために来たわけでもない。
「お前ってさぁ、案外オレのことをなんもわかってねぇよな。だからわからせてやんヨ」
 虚ろな表情で見上げる新開の頬を両手で挟んで顔を寄せた。
「おら、口開けろ。舌だせ」
「やす、と――
「いいから舌だせっての」
 無理やり口に指をつっこんで舌を引っ張る。引きずりだした舌を噛んで吸い、唇を重ねてそのまま口内をかき回した。
「んんっ……ん!」
 抵抗して暴れる新開の手を掴む。勢いで唇を噛まれてしまい、血の味が薄く口の中に広がった。
「くそっ、いてぇナ……邪魔すんじゃねぇよ」
 何かないかと室内を見渡してベッド脇に転がったテーピングを拾うと、新開の両手首に巻きつけてグルグルと縛っていく。
「靖友……なに、すんだ?」
「ハッ! 見てわかんだろ」
 ずり落ちてくるメガネが鬱陶しくて外して投げる。痛みと怯えで歪んだ新開の表情を見ながら、荒北は自分の中で嗜虐的な気分が高まっていくのを感じていた。
 テーピングが外れないのを確認し、逃れようとのけ反る首筋に噛みつく。歯型をつけたあとで皮膚を強く吸うと吸われた部分が赤く色づいた。
「痛っ……」
「そんなに不安ならなァ、オレの印でもつけてやるよ。ジャージのジッパーも下げらんねぇくらいにな」
 肩、鎖骨、喉、と同じように吸いついて皮膚に印をつけていく。気がつけば新開の日焼けした肌にたくさんの赤い花を咲かせていた。
 胸に舌を這わせて乳首を舐める。軽くキスをしてから口に含むとそこにも容赦なく歯を立てた。わざと大きな音を立てて吸いつき、唾液を塗り込むように舌先を押しつける。もう片方の乳首を指で摘むと新開の顔が淫らに歪んだ。
 空いた手をハーフパンツの裾から侵入させて探る。そこはすでに硬く芯を持ち始めていて、ちらりと新開に目線を送ったが見られたことに気がついた彼はすぐに顔を背けた。
「舐めてやっから、ちょっと腰あげろ」
「えっ、待っ……」
 新開が拒もうと身体を捻った瞬間に強引にハーフパンツを引っ張る。下着ごと一気にずり下げると露出した陰茎に顔を寄せた。
「なぁ、ちゃんと見とけ。オレがどんな顔でどんなふうにテメーに奉仕してんのか。こんなのなァオメーにしか見せてねェんだよ」
 陰茎の根元から亀頭までゆっくりと舐めあげて、そのまま喉奥まで頬張る。陰茎を吸いながら頭を上下させると、唾液の音とふたりの荒い息遣いが室内に響いた。
「あ、靖友……やばいって。もう、離しっ……ダメだって! 靖友!」
 懇願を無視してそのまま咥え続けると、新開は体をのけ反らせた瞬間に射精した。ドクドクと遠慮なしに発射される精液を受け止める。すべて出し切ったところで口を離し、見せつけながら飲み干したあとで唇の端に残る精液を指でぬぐった。
「じゃあ次はオレの番な。うえ乗っかって舐めて。手ぇ使いづらいと思うけどガマンできんだろ?」
 息が整わないままの新開を抱えてシックスナインの形で跨がせる。新開が陰茎を咥えたのを見届けてから荒北も目の前のすぼみにそっと触れた。指を口に含んで唾液を載せ、一本ずつゆっくり挿入し、慣れてきたら指を増やして挿入しやすいようにほぐしていく。
 だが、3本目の指が入ったところでもう我慢ができなくなった。
「もームリ」
 起き上がりながら新開を組み敷き、指を引き抜いた後孔に亀頭を押し当てる。すっかりほぐされてひくつく部分に先端を埋めては引き抜き、焦らすように何度か遊んだあとでゆっくり挿入した。
「あっ……あ、靖友っ」
 久しぶりの圧迫感は刺激が強すぎてすぐに果ててしまいそうだった。新開も体内に埋められる感覚が嬉しいのか自分を犯す陰茎をきつく締めつけてくる。荒北は挿れたまま新開に覆いかぶさって彼を抱くと、そのまま動かずに射精感が過ぎ去るのをじっと待った。
「お前、あんま締めんなヨ。すぐ出ちまうだろ」
「はぁっ……好きなんだ……ただおめさんが、好き、なっ……あ……だけなんだ」
「好きだァ? さっきまで不安で泣いてたじゃねーかヨ。信用してねーヤツによく好きだなんて言えるよなァ」
 陰茎を締めつける圧迫感にもようやく慣れて、余裕がでてきたところでゆっくりと抜き差しを開始する。
「あっあっ……ご、ごめっ……やす、ともっ……ごめ、んっ」
「オレは好きでもねーヤツとこんなこたァしねーんだヨ! 何とも思ってねーヤツのためにわざわざここまで走ってきたりもしねェ。どーでもいいヤツ相手に疲れることなんかしてられっか! ナメんのもいい加減にしとけよ」
 ふつふつと湧きあがる衝動を抑え切れず、荒北は動くスピードをあげた。新開の顎を掴んで振り向かせ、涙に濡れた彼の目尻を舐めとる。
「なぁ新開、んな泣くなよ……ナ?」
「んっ……ごめっ、ごめんな、やすともっ……んんっ」
 喘ぐ口を手で塞ぎつつ目一杯奥まで突きあげる。このままめちゃくちゃにして、自分以外の余計なことは何も考えられないようにしてやりたかった。
「ったく、オメーのカッコワリィとこなんて充分すぎるほど知ってンだヨ。それも全部ひっくるめてわかってっからオレが今ここにいるんだろーが。今までオレの何を見てたんだよ、テメーは!」
 肩に噛りついてわざと痕を残した。消えないように繰り返し歯を立てる。
「最強最速のエーススプリンターは名前だけかァ? ちげぇだろーが。挫折しても這いあがってきたんじゃねェのかよ。ったく、カッコワルくてもがむしゃらに走って勝ち獲るのがテメーのはずだろォ? くだらねぇことばっか考えてねーで黙ってまっすぐ前向いてりゃいんだヨ。ったくめんどくせェ野郎だぜ」
 何度も強く奥まで打ちつけてそのまま中に放った。息を荒くした新開の頭を撫で、柔らかい髪の毛をくしゃくしゃにしながらベッドに崩れた背中を後ろから抱く。
「なァ、少しはわかったかヨ、バカ新開」
 新開は答える代わりに無言で頷く。
「おら、こっち向け。テープとってやっから」
 テーピングを外すと手首には赤く痛々しい痕が残っていた。頭を撫でながら顔を覗き込むとすでに涙はなく、泣き腫らした目をしているがさっきまでの暗さはない。
「ワリィな……痛かったか?」
「……だいじょうぶ……ごめんな」
「うっぜぇなァ、もう謝んじゃねェっての。いつも通りに飄々としてりゃァいんだよ」
 手首の痕を撫でたあとで新開を思いきり抱きしめ、子供をあやすように彼の背中をさする。
「靖友……ありがとな」
「もう泣くんじゃねぇぞ。オメーはガキかよ」
「……靖友はまるで母親みてぇだ」
「ハッ! テメーみてぇなメンドクセー息子なんてごめんだぜ」
「悪かったよ……」
 甘えるように新開が荒北の首筋に顔をうずめる。鼻先をこすりつけてそのまま肩に頭を預けた。
「でもよ、おめさんが何も言ってくれないのも悪いんだぜ? 尽八にもよく言われてただろ? 思ってるだけじゃ伝わらない、気持ちは伝えてなんぼだって」
「あぁ? アイツの場合は色々と伝えすぎなんだヨ」
(まぁ、少しくらいは言ってやんねぇとなァ )
 ベッドサイドの時計をちらりと見る。午前0時までは残りわずかしかなく、秒針をみつめながらその瞬間まで心の中でカウントする。
 
30秒……20秒……15秒……10秒……
 
3、2、1……
 
「誕生日だぞ、は、隼人チャン」
 肝心なところで震えた声が情けない。チャンづけしてごまかしたがそれでもやっぱり照れくさい。
「え!? 靖友、おめさん今……」
 覗き込んでくる新開の顔を全力で押し返して抵抗する。
「痛いって、靖友」
「うっぜぇ! こっちくんじゃねぇ! 見るなっ、触んなっ!」
「なぁ、もう一回言ってくれよ今の。なぁ」
「じゃれんな! 乗るな!」
 新開の腕から逃れようともがいていると室内に携帯電話の着信音が響いた。新開の気が逸れた隙を見てベッドを抜け出し、
「おら、鳴ってんぞ! 携帯出ろよ!」
と携帯電話を放り投げるとディスプレイを確認した新開がフッと頬を緩ませた。
「噂をすれば尽八じゃないか。もしもし? 尽八聞いてくれよ。今な、靖友がオレのことをなま――
「新開っ、言うんじゃねぇヨ!」
 新開が何を言おうとしているのか察した荒北はダッシュで携帯電話を奪いとった。
『やぁ新開、誕生日おめでとう! 元気にしているか? 荒北がどうしたって?』
「っせぇんだよ! テメーは巻チャンにでも電話してろっ!」
『む? 荒北!? あー! お前らふたりしてずるいぞ! この美形を忘れては――
 終了ボタンを押して強制的に通話を切り、再び新開に携帯を投げる。
「あーあ、切っちまった。尽八に教えたかったのに」
「うっせぇんだよ。あーあ、また汗かいちまったじゃねーか。風呂入ってコンビニいくぞ、コンビニィ。ベプシとアイスだ。あぁーアイス喰いてェ」
 Tシャツを脱いで放り投げながら浴室に向かうと、その後ろから新開が抱きついてきた。
「一緒に入ろうぜ。なんなら2ラウンド目でもしとくか?」
 荒北の頬に押し当てる指はいつもの決めポーズだ。
「……今日はもうしねぇ。オレはロードとテメーのせいでくたくたなんだヨ」
そう言って肩に寄りかかるフリをしてキスをした。
「いつもおめさんからこうしてくれたら嬉しいんだけどな」
「やだヨ……今日だけだっつーの」
 フン、と鼻を鳴らして新開の襟足を撫でる。そのまま引き寄せて今度は長いキスをした。まぁ、たまにはこうしてやるのも悪くないと思いながら。
 
***END***

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