【銅悠】いつだって、どこだって

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銅橋(高校2年)×悠人(高校1年)の銅悠です。

・タイトルは2015/05/15に開催された銅悠ワンドロ、『デート』より。
・つき合っている銅悠です。

「わーったよ! じゃあどっか考えとけ」

 散々「デートしたい」と言いまくり、ようやく返事を貰えたのが4日前のこと。投げやりな返事だったが、それでも悠人にはガッツポーズものだった。
 銅橋は普段からデートを嫌がる。会話の中にデの字がでようものなら悠人が言う前に察して「ダメだ」と言葉を被せてしまう。「ダメだ」「イヤだ」「ムリ」今までに幾度となく拒否られ、その果てにようやく貰えた「わーったよ」だった。
「どーしよっかなぁ。あー、ランドも行きたいし、でも絶対嫌がるよなぁ」
 ベッドに寝転び、頬づえをつきながらページをめくる。銅橋がネズミのカチューシャをつけたところを想像してプフッと笑った。

『デートスポットならこの本におまかせ!』

と謳われている雑誌には、たくさんの花柄の付箋が貼られている。銅橋に約束を取り付けたその足で本屋に向かい、選びに選んで購入した情報誌だった。付箋は悠人が行きたい場所と、クラスの女子に聞いたおすすめのデートスポットに貼りつけられている。何ヶ所か候補は決めたがどうしても決めきれず、仰向けになって雑誌とにらめっこをしていると強目のノック音がして銅橋が顔を覗かせた。
「よぉ、コンビニ行くけど」
 どうする?と訊かれ、間髪入れずに「行く!」と答えて悠人はベッドから飛び降りた。

*
 日中の気温が高かったこの日は、まだ5月も半ばだというのに夜もまだ蒸し暑いままだった。
 寮から一番近いコンビニまでは徒歩で約20分。自転車があればすぐの距離だが夜間は使用許可が必要で、おまけに部室の鍵は部長が持っている。許可書をもらうのも面倒で、街灯の少ない夜道をふたりで横並びに歩いていた。
「まだ暑いっすね」
「だなぁ。まぁ今日はクソみたいに暑かったからな」
「コンビニ、何買いに行くんすか?」
「あー……色々」
「色々?」
 歯切れの悪い銅橋が気になったが、ずんずん歩いていくので慌てて歩調を合わせる。
「なぁ悠人、場所どこか決めたのか?」
「場所、っすか?」
「どっか行きたいとこでもあんじゃねーのか? 最近なんか雑誌見てんだろ」
 雑誌、という単語でピンときた。きっと銅橋が聞きたいのはデートのことなのだろう。
「いや、いくつか候補はあるんすけどね。なんか決めらんないんだよなぁ」
 小さく溜息をつきながら頭の後ろで腕を組む。
「銅橋さん、デ◯ズニーランドとか好きですか?」
「……好きだと思うのか?」
「……いや、ごめんなさい。オモワナイデス。銅橋さんがデ◯ズニーにいるとこなんて全然想像つかないし、どっちかっていうとプロレス会場の方が似合う気がする……」
「おめーなぁ。ま、だろーな。つーか行ったこともねぇし、悪いが興味もねぇ」
「……ですよね」
 これで候補が一つ減ったことになる。基本的に悠人の行きたい場所に銅橋が一緒に行ってくれる気がしなかった。それに、高校生がデートで使える金額は限られるのでますますどこがいいのかわからなくなる。
「いくつか決めたって言ってたよな? とりあえず言ってみろよ」
「え、でもまだ悩んでて……それに銅橋さんが好きそうじゃないし」
「いいから。聞いてやるよ」
「じゃあ言いますけど、ヤダとかムリとか言わないでくださいね」
 銅橋に念を押してから候補をいくつか挙げた。芦ノ湖、遊園地、原宿、横浜……銅橋の顔をチラリと覗きみると明らかにげんなりした表情を浮かべていたが、口には出さないようになんとか堪らえているようだった。そして悠人が言い終えると「要検討、だな」とだけ呟く。
(だからまだ悩んでるって言ったのに。あーあ、また考え直さなきゃ)
 はぁ、と深く息を吐きだし、銅橋の後ろに続いてコンビニへ踏み入った。

**
 コンビニを出ると「おら」と言って銅橋がパックのイチゴオレを差し出した。冗談のつもりでおねだりしてみたのだが珍しく銅橋が買ってくれたのだ。それを受け取って何気なく袋の中を覗く。
「あれ? 結局買ったのポカリだけっすか?」
「ちっげぇよ。水も買った」
「え? どっちも寮の自販機にありますよ?」
「んなこたぁ言われなくたって知ってんだよ」
 チッと舌打ちして銅橋が先に歩き出す。イチゴオレに付属のストローを指して悠人もその後を追った。
 コンビニから寮のある学校までは延々と上り坂が続いている。いつも部の練習中に真波と競い合っているこの坂も、徒歩だとうんざりするほど距離を感じてしまう。
「歩くのおっせーんだけど」
「銅橋さんが速いんすよ」
「それでもクライマーかぁ? おめぇの大好きな上り坂だぜ?」
「自転車と歩くのじゃ全然違うんすよ! 自転車さえあればこんな坂、どうってこともないのに」
「……ほんとクライマーってやつはチャリがねぇとダメなヤツらばっかだよなぁ」
 あまりにもしみじみと言うのでムッとして銅橋の背中を叩いた。
「今の真波さんに言ってやろーっと」
「別に構わねぇけど。もっとヒデーこといつも言ってるし。つーかアイツは何言っても全くこたえねぇからな」
 うっ……と言葉が詰まって反論ができず、何も言えずにストローを噛む。
「ハァ……学校遠いなぁ。やっぱり坂は自転車で上りたいな」
「まだ半分も来てねぇってのに。しょうがねぇヤツだな」
 ぐい、と銅橋に腕を引かれて一気に身体が前のめりになる。それを支えるように銅橋が悠人の手をとる。
「しょうがねぇから引いてやる」
 そう言って悠人の手をぎゅっと握った。突然の出来事に反応ができずにいたが、ようやく今いる場所を思い出して銅橋を見上げる。
「え?ちょ、ここ外っすよ? 誰かに見られたら――
 慌てて振りほどこうとしたが銅橋の力に敵う筈もなく、銅橋も離そうとしない。
「こんな時間に誰も通んねぇだろ。それに暗いし、ぱっと見は手ぇ繋いでるなんてわかんねぇよ」
「……うん。そっすね……」
 急な展開に鼓動が高鳴る。銅橋の真意が分からず何も声をかえられずにいたが、銅橋の大きな手に包まれる自分の右手が嬉しくてじっと感触を噛みしめていた。
 銅橋の方から手を握ってくれるなんて今までなかった。ましてここは外なのに。でも、確かにこの夜道ならバレないかもしれない。人に言えない恋をしている自分たちは、こうやって隠れて密会するしかないのだ。
(もしかして、ただ誘ってくれたのかな)
 銅橋の右側で揺れるビニール袋に視線を落とした。寮で買えるものをわざわざコンビニで買う理由が他に見当たらない。自分に都合のいい解釈でしかないが、それでも充分嬉しくて顔がにやける。
「これって、つまりはデートっすよね」
 振り向いた銅橋ににこりと笑いかける。一瞬だけ目を見開いた銅橋は照れたような怒ったような複雑な表情を見せたが、すぐにまた前を向いた。
「んなわけねーだろ。寮の自販機が売り切れだったんだよ」
と素っ気ないことを言う。スポーツドリンクと水は売り切れることがないようにロビーをはじめ、各階の自販機に設置されているはずなのに――。
「銅橋さん、デートのことなんすけどやっぱり出かけるのやめます」
「んあ? 急にどうかしたか?」
「だって……」
 銅橋に見えないようにフッと小さく笑い、彼の手をぎゅっと握り返す。
「外じゃ手、繋げないでしょ? ずっとくっついていたいから、やっぱり銅橋さんの部屋に行きますね」

 いつもと変わらない休日になりそうだが、それでも構わない。無理に行き先を考えなくても、こうやってただのコンビニへの往復でもふたりにとっては幸せなデートだ。

***END***

-ペダル:銅悠
-,

int(1) int(1)