【銅悠】お姫様

◆◆ caption ◆◆
銅橋(高校2年)×悠人(高校1年)の銅悠です。

・タイトルは2015/05/09に開催された銅悠ワンドロ、『お姫様』より。
・つき合っていない銅悠です。(銅→→←悠くらいの関係)

「おい、入るぞ」

 夕食後、ノックとともにドアを開け、隙間から顔を覗かせたのは1年先輩の銅橋正清だった。「おい」「てめぇ」「お前」「1年」「お面ヤロウ」「クソガキ」「新開弟」そして「悠人」。
 様々に変遷した挙句、ようやく「悠人」となった呼び方がまた「おい」に戻っている。銅橋がこう呼ぶときは照れ隠しの時か不機嫌なとき。ドアを閉めた銅橋の表情を見てこれは後者だなと何も聞かずに察した。
 どしどしと足音を立てて近づき、ベッドに座る悠人の鼻先に何かを差し出す。顔を反らし、焦点を合わせて確認したそれは2通の手紙だった。銅橋の雰囲気に似つかわしくないピンクと黄色の封筒。封筒に貼られたスマイルマークが、銅橋の太い指に摘ままれながらも悠人に笑いかけている。
「ん? なんすかコレ。あ、もしかして銅橋さんからオレにラブレター? いやあ、2通もくれるなんて嬉しいな」
 不機嫌な銅橋をなんとかなだめようと笑顔で迎える。だがそれは逆効果だったようで、銅橋はチッと舌打ちしながら手に持っていた手紙を悠人の膝へ放った。
(ヤベ……余計に怒らせちゃったかな)
 銅橋が無言のままドカッと悠人の隣に腰掛けたので、その反動で悠人も揺れた。落ちそうになった膝上の手紙を慌てて掴み、何気なく封筒の裏を確認してみたが「悠人くんへ♡」の文字以外は差出人の名前も何も書かれていない。
「それ、うちのクラスの女子から」
「あー……そうすか。わざわざさーせん」
「……お前って人気あるんだってな。女子が騒いでた」
 まぁ、あの人の弟だもんな、と言って大きく息を吐き出す。ため息なんて珍しいなと思ったが口には出さず悠人は言葉を飲み込んだ。
「知ってるか? お前、チャリ部の王子様2号って呼ばれてるらしいぜ」
「ははっ、なんすかソレ。王子様? 2号? 聞いたことないや。ちなみに1号は誰なんすか?」
「……マナミだよ」
「え、真波さんが!?」
「アイツ、去年のインハイのあとでなんか知らねぇけどファンができたらしくってな。まぁ東堂さんが卒業したからそれでだと思うんだけど。……つっても当の本人にその自覚はねぇし興味もなさそうだし。で、オメーらチャリ部のクライマーは”のぼれる王子様”なんだとよ。3年の女子が言い始めたらしいけどな」
「ふーん……のぼれる王子様ね」
 オレも特に興味はないんだけどな、と手の中の封筒に視線を落とした。
 自分のファンクラブの存在はクラスの女子に聞かされて知っていた。しかし、それもどうせ兄の影響なのだと思うと特別嬉しくもなんともない。
 兄の隼人には密かにファンクラブがあったのだと3年の泉田から聞いたことがある。今の2年と3年にもまだ会員は残っているだろうし、おそらく悠人について騒いでいる人たちは兄のファンだ。彼女たちがターゲットを隼人から悠人に変えただけなのだろう。それほどまでに自分と兄はよく似ているからだ。
 はぁ、と今度は悠人が深いため息をついた。
「どうせ隼人くんの後釜っすよ、オレは。王子様だなんて……みんなオレのことを何も知らないのに。どうせ兄貴に似てるからってだけっすよ。そうやって勝手にアレコレ想像して、理想像を作って、楽しく遊んでたいだけなんだ。王子なんて言われても何も嬉しくない」
 吐き捨てるように言ってしまい、慌てて口を押さえる。誰かの前でこんなふうに愚痴なんて言ったことがなかったのだ。
「ブハッ! 珍しいな、オメーのその顔。ふくれっ面じゃあせっかくの王子様も台無しだぜ」
「だから、オレは王子じゃないっすよ」
 キッと銅橋を睨んでみたが銅橋はニヤリと笑って、膨らませた悠人の頬を指で押した。プッと悠人の唇から息が漏れて、銅橋がクックッと肩を揺らしながら笑う。そのままベッドに倒れ込むと両腕を挙げて大きく伸びをした。
「気にしてた自分がバカみてぇ」
「ん? 何か気にしてたんすか?」
「……まぁな」
「何? 教えて下さいよ」
 悠人が銅橋の胸の上にふざけて倒れ込む。大きな手が悠人の髪をぐしゃぐしゃと掻き乱し、そして「ぜってー教えねぇ」と呟いた。
「あー、慣れねぇことは考えるもんじゃねぇな。肩がこる。なぁ新開、お前揉んでくれよ」
「教えてくれたらやりますよ?」
 そう銅橋に笑いかけたが、「じゃいいわ」と言って彼は身体を起こした。
「つれないなぁ、銅橋さんは」
「っせえ。じゃーなクソ王子」
「だから王子って言うのやめてくださいよ」
 枕を掴んで銅橋の背中に投げつけたがうまくキャッチされてしまい、今度は悠人に向けてポイッと投げ返された。
「もうっ……」
 受け取った枕に顔をうずめて拗ねるような仕草をみせると、銅橋が笑いながら手を伸ばした。先ほどぐしゃぐしゃにした悠人の頭を、今度は慰めるようにごしごし撫でる。
「機嫌なおせよ。んじゃ、確かに渡したからな」
 そう告げた銅橋はドアに向かい、廊下に消えた。
 銅橋の手の感触が消えなくて、それをなぞるように髪を整える。あの大きな手に気兼ねなく触れられるような関係になりたかった。
(みんなの王子なんて興味ない。オレはどっちかっていうと銅橋さんだけのお姫様になりたいのに……)
 想いを伝えたいような、しかし知られるのは怖いような妙な気持ちがむず痒い。もうちょっとだけアピールしてみようかな、と悠人は顔をうずめながら枕をぎゅっと抱きしめた。

***END***

-ペダル:銅悠
-,

int(1) int(1)