【銅悠】今度はオレが

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銅橋(高校2年)×悠人(高校1年)の銅悠です。

・タイトルは2015/05/16に開催された銅悠ワンドロ、『スプリンター』より。
・お互いを意識し始めた頃の銅悠です。

たぶんこの顔が原因なのだろうと、今までの経験から充分にわかっている。「絶対負けない」と言いたげな強い視線を向けられ、見ず知らずの人にマークされるのはいつものことだった。この日のレースでも何度か強い視線を感じ、参ったな、とその視線を遮るようにタオルを頭から被っていた。
「おい、お前ハコガクの新開だろ?」
 箱根学園のテントから少し離れた場所。スタートラインの整列に向かおうと自転車を押している途中で突然後ろから声をかけられた。嫌な予感がして振り返ると同じように自転車を押す男が悠人を睨んでいる。サイクルジャージに書かれた高校名から、神奈川県南部の高校の生徒だと分かった。
「お前、新開隼人の弟だよなぁ!? 名前もそうだけど、お前の顔を見て一発でわかったぜ」
 フフンと鼻で笑うように言い、つま先から頭のてっぺんまで舐めるように悠人を見る。
(早く行かないとまた黒田さんに怒られちゃうのに……変なのに捕まっちゃったなぁ)
 どうしたものかとため息をつきながら軽く襟足を掻く。
「あの、オレ早く行きたいんすけど……もういっすか?」
 さーせん、と告げてまた自転車を押し始めたが「待てよ!」と大声で呼び止められて思わず足が止まった。
「オレさぁ、お前の兄貴に負けてんだよ。だから絶対お前には勝ってやるからな。浜校のエーススプリンター長谷部。オレの名前、覚えとけよ!」
 兄に負けた人……。
 自分には全く関係のない人にこうして喧嘩を売られることも慣れたものだった。
 兄の隼人は名門箱根学園の中でエーススプリンターと言われるゼッケン4番、最速の称号を背負う選手だった。今悠人を睨んでいる長谷部は、きっと何かのレースで兄に勝てなかったのだろう。だが、それを自分に言われても全くのお門違いで、自分は隼人ではないしおまけにスプリンターではなくクライマーなのだ。 
 困ったなぁとその場に立ちすくんでいると「うちの部員になんか用か?」と悠人の背後から低く凄むような声がした。声のしたほうを振り返ると、そこに腕組みしながら立っていたのは銅橋だった。彼の大きな体躯と強い眼光は相手を容赦なく怯ませる。長谷部も例に漏れずたじろいだ様子で「なんでもねぇよ」と小さく呟いた。
「おめぇと新開さんの間に何があったか知らねぇが、コイツは関係ねぇだろ。スプリント対決ならオレが相手になってやるぜ?」
 悠人を自分の背に隠すようにして長谷部の前に立ち、挑発するようにそう告げると長谷部は驚いた顔で悠人と銅橋を交互に見た。
「えっ……箱学のスプリンターって……」
「オレだ。文句あんのか?」
 不敵な笑みを浮かべながら銅橋が親指で自分を指さす。すると長谷部は「マジかよ」と呟き、引いていた自転車に跨ってふたりの横を逃げるようにすり抜けて行った。その姿を見送って銅橋が小さく溜息をつく。
「おまえなぁ、なかなかこねぇと思ったら……。黒田さん、すっげぇピリピリしてんだぞ」
「だって、さっきの人に急に絡まれたんすよ。オレは悪くないっす」
「おめえがなかなかローラー止めなかったからだろぉ? 自業自得だ」
 軽く頭を叩いて「さっさと行くぞ」と銅橋が背を向ける。頭をさすりながら悠人もその後ろに続いてスタート位置へと急いだ。

*
「銅橋、出ろ」

 泉田の合図が出て、スプリントリザルトの獲得のために銅橋が列を外れる。先頭に出ていく銅橋の背中を叩き「銅橋さん、獲ってくださいね」と鼓舞すると、銅橋が振り向いて「ったりめーだ。見てろよ」と不敵に笑った。ダンシングしながら一気に加速していく大きな背中はみるみるうちに小さくなる。風を切るように走り抜けていく背中はとても頼もしく、そしてとても眩しく見えた。

 先導車に乗った係員が車窓から身を乗り出してボードを掲げ、一番上に記載された名前は期待通りに銅橋の名前だった。2番手に5秒以上の大差をつけてのリザルトポイントの獲得。長谷部の名前は4番目に載っていた。
「悠人、この先で銅橋を回収したらお前がチームを引け。この先は山に入るからな。山岳リザルトは真波に獲らせる。悠人はチームを引いて山を越えるんだ」
 できるな、と泉田に肩を叩かれた悠人は、オーダーを任されたことで一気にテンションが上がった。
 前方に銅橋が見える。小さく見えた背中はやがて目前に迫り、そのままチームに合流した。一列に並ぶトレインの、悠人の後ろに銅橋が入る。
「銅橋さん、さすがっすね」
 そう言ってにっこり微笑むと「きっちり負かしてやったからな」と銅橋もニヤリと笑った。
「お前に売られた喧嘩はオレが返した。ガツンと捻ってやったぜ」
 笑いながらポンとヘルメットを叩かれて、銅橋の勝気な笑顔に悠人の心臓がきゅっと小さく跳ねる。
(やっばいな……きゅんとした)
「銅橋さんてやっぱりかっこいいすよね。オレの中でヒーローはずっと隼人くんなんすけど、銅橋さんもかなり負けてないすよ」
 は?と口を開ける銅橋に「次はオレの番すね」と告げて列の先頭に出た。ここからは上り坂の多い山道、スプリンターの苦手な道で銅橋の苦手な道だ。
(オレ、クライマーを選んだことで兄貴の名前から逃げたような気がして苦しかった……。でもオレにしかできないこともある。こうやって山道でチームを引けるのはクライマーじゃないとダメなんだから)
 光のような速さであっという間に駆けていく兄を羨ましく思ったこともある。兄弟というだけで比べられることにもうんざりしていた。でも、と先ほどの銅橋の笑顔を思い出してフフと頬が緩む。
(今度はオレが力になりたい!)
 ペダルを廻す足に力がみなぎっていく。自分のオーダーを全うして優勝を獲れたらたくさん褒めてもらおう、とパワーバーを咥えてひと噛みし、ハンドルを強く握ってペダルを踏み込んだ。

***END***

-ペダル:銅悠
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int(1) int(1)