【銅悠】眠り姫みたいに

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銅橋(高校2年)×悠人(高校1年)の銅悠です。

・タイトルは2015/05/10に開催された銅悠ワンドロ、『眠り姫』より。
・つき合っている銅悠です。

「銅橋さん、お姫様ごっこしません?」

 突然そう言われた銅橋はずいぶん困惑した様子で、「大丈夫か、コイツ」と言いたげな目を悠人に向けた。それでも悠人は彼のこの目も、「はぁ?」と言う答えになっていない返事もいつも通りなので気にしない。
「じゃ、オレがお姫様で、銅橋さんは王子様ってことで」
 ニッコリ笑った悠人はまだ理解のできていない銅橋を残してさっさとベッドに横になり、そのまま目を閉じた。

 消灯前、悠人はいつも通りに銅橋の部屋にいた。ふたりで何をするわけでもなく、銅橋が筋トレをする横で悠人は漫画を読んだり携帯をいじったりする。たまに悠人が話を振ると銅橋が一言二言応え、一方的に悠人が話すだけの日もあった。それでも優しい恋人は文句も言わずに部屋に入れてくれる。もしかしたらただ聞き流されているのかもしれないが、そばにいられるならそれでもいいかなと思うくらいに悠人は銅橋に恋をしていた。
 そんな悠人にもひとつだけ気がかりなことがあった。
 つき合いだしてもうすぐ半年になる。それなのに手を繋ぐ以外にはふたりの間に何も起こらないのだ。銅橋が自転車に夢中、というのはわかっているし悠人もその気持ちはわかる。部活や自主トレでデートができなくても文句はない。だが、勇気を出して告白した結果見事に報われたのだから、銅橋も悠人に対して好意的な感情を抱いてくれているはずである。おまけにふたりとも思春期まっただ中の男子高校生だ。なにかしらの間違いや興味はあるべきなのに、それでもなにもない。
(銅橋さーん。オレに触りたくないの? それともこんなこと思ってんのはオレだけ?)
 そんなことを思っても嫌われるのが怖くて直接本人に言えるはずもなく、日々悶々と過ごすこと約一ヶ月。やっぱり我慢できないな、と考えた挙句の「お姫様ごっこ」だった。

 ベッドに仰向けに寝て胸の上で手を握り、そして目を閉じる。
「おい、なにやってんだソレ」
 不思議そうな銅橋の声にも応えずに無視を続ける。今度は「悠人」と短く呼ばれ、「オレは今お姫様中なんで」とだけ返した。
「なぁ、マジでわけわかんねぇから。姫だとか王子だとかお得意の少女趣味かぁ? アホかよ。つき合ってらんねぇ」
 銅橋が離れる気配がして、クローゼットを開ける音がした。衣装ケースを引き出す音とともに「オレ風呂行くけど?」と銅橋が言い、その言葉に驚いた悠人がパッと目を開ける。
「銅橋さん! ひどいっすよ。まだお姫様ごっこは終わってないんすけど」
「いや、つーかワケわかんねぇから。筋トレで汗かいたから風呂行きてぇんだけど。おめぇも寝るんなら自分の部屋戻って寝ろよ」
「だから、寝てるんじゃないんだってば」
 また横になって目を閉じる。片目だけ開けて銅橋の様子を伺い、銅橋の背中に向けて「お姫様はキスじゃないと目が覚めないんすよ」と告げた。キスの部分が小さくなってしまったがうまく伝わっただろうかと、チラリとまた銅橋を盗み見ると思いっきり目が合う。心臓が小さく跳ね、恥ずかしさに顔が熱くなってギュッと目を閉じる。
「おめぇなに言ってんの」
 冷静な銅橋の声が胸に痛い。
 やっぱりこんなことをするべきじゃなかったのかもしれない、と後悔しても今さらだった。直接ではないが、キスしてほしいと自分から言ってしまったのだから。
 どうせ応えてくれないだろうと諦めて目を開けると、間近に迫っていた銅橋と目が合って慌ててまた固く目を閉じた。
「ど、ばしさん……なんで?」
「なんでっててめぇがしろって言ったんだろ? つーか急に目ぇ開けてんじゃねぇよ」
 恥ずかしいだろうが、と怒ったような声のあとで悠人の唇に何かが触れた。むに、とムードも何もないただ押しつけるようなキス。あ、と驚いているうちにすぐに離れてしまい、目を開けると銅橋は顔を反らした。
「風呂! 汗が気持ちわりぃんだよ」
 銅橋が立ち上がって背を向けた。
「おめぇもさっさと部屋帰れ。邪魔だ」
と言う彼の髪の毛から覗く耳が赤い。わざと大きな音をたてて扉を開けた銅橋は足音を立てながら廊下に消えた。
(目、合わせてくれなかったな、でも……キスしてくれた)
 閉じたドアを見ながら唇に指で触れる。先ほどの感触はまだそこに残ったままで、キスは味がしないんだと変な感想を抱いた。
 乱暴な王子様の照れた耳を思い出す。どんな顔をしていたのか見れなかったのは残念だが、悠人も顔を見られなくて良かったのかもしれない。きっと自分の顔も銅橋の耳に負けないぐらい赤いのだろう。火照る頬を両手で挟み、ほぅ…とため息をついた。胸の奥がぎゅうっと苦しくて銅橋への柔らかい想いがどんどん溢れてくる。
「銅橋さん、大好き!」
 ピョン、とベッドから降りて叫びたい気持ちを我慢しながら部屋を出た。スキップなんてしてしまうほどに心が跳ねる。
 王子様のキスで目を覚ましたお姫様。その気分はまるで無敵のヒーローのようだった。

***END***

-ペダル:銅悠
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int(1) int(1)