【新荒】1.『Strawberry sponge cake』

◆◆ caption ◆◆
高校2年生の新荒です。【R-18】
・つき合っているふたりの初・挿入話。
・『Christmasシリーズ』の1作目。

 
 初めて一緒に過ごすクリスマスだった。
 正確には“初めてふたりだけで過ごす”クリスマス。部活の年度内最終日が24日だったので、25日は軽いミーティングを終えたら時間が空く。ダメ元で誘ってみたら意外にもOKが貰えた。
 夕食のおかわりもせずに新開はお椀に残るご飯を一気にかき込んだ。いつもなら白米3杯はいけるほど大好きなハンバーグも、今日は気が急いてそれどころではない。味わうこともそこそこに飲み下し、チラリと荒北に目配せをして席を立った。
「もう終わりか新開? 腹でも痛いのか?」
と、東堂におかしなモノでも見るような目を向けられたが、「今日は運動してねぇからかな」と笑ってごまかす。
 自室に戻って防寒具を掴むと、急いで玄関ホールに向かった。荒北はもう靴を履いていて、「守衛室には言っといたからァ」と新開に告げた。

 時刻は午後7時半。寮の出入り口が施錠されるまでは残り一時間半しかない。だが、一番近くのコンビニまでは歩いて20分ほどかかる。
「どーする? チャリにする?」
 一応提案してみたが、この時間に部室へ自転車を取りに行くのは部長と寮監の許可が必要だった。
「いや、めんどくせーから歩こうぜ。ちょっと速足で行きゃ余裕だろ」
 そう言って荒北は早々と歩き出してしまう。
「だな」と短く返事をした新開は急いで靴紐を結ぶと荒北の背中を追いかけた。
 箱根の夜は冷える。12月のこの時期ならなおさらだった。本格的に雪が降り始めるのはまだ先だが、夜間や早朝は路面が凍結する場所もある。滑って転ばないように下り坂では一歩一歩踏みしめて歩いた。歩けば身体が温まるかと思ったがそうでもなく、ダウンジャケットにマフラー、耳当てに手袋まで、できるだけの準備をしてきたのにそれでも寒い。着込んでいても肌に染みるような冷たさだった。
 一歩先を歩く荒北を見る。彼が身につけている防寒具はコートのみで、何度か振り返っては新開に「雪だるまみてェ」と意地悪く笑った。
「おめさんが薄着なんだよ。そんなんじゃまた風邪ひいちまうぜ?」
 こうして話している間にも寒さに震えて猫背になり、歯がカチカチと鳴る。荒北は冬や季節の変わり目によく風邪を引いて熱を出すが、このままだと自分がそうなってしまいそうだった。身体が丈夫にできているのか、新開は滅多に熱が出たことがない。が、一度罹患すると長引いてしまうのが厄介だった。
 震える新開を見兼ねたのか荒北は歩調を緩めて隣りに並んだ。コートに手を入れたまま「オラ」と肘を上げ、ポケットにスペースを空けて新開の手を呼んでいる。驚いて反応できずにいると、荒北は顔をしかめて肘を下げた。
 荒北は普段なら決してこんなことはしない。必要以上に触れ合うことを嫌がるからだ。新開がふざけてくっつくと「恥ずかしいからやめろ」とすぐに怒るし、ときには手だけでなく足も出る。それなのに、たまにこうして甘い部分を見せてくるからタチが悪いしたまらない。
「こねーんならいンだけどォ……」
と歩調を早めたので慌てて荒北の腕を掴み、自分の手袋を外した。
「へへ。優しいな、おめさんは」
 ありがとな、とポケットに手を入れると中はホッカイロで温められていた。
「あったけぇ。カイロかぁ。準備がいいな」
「……誰かさんが絶対寒がると思ったんだヨ」
と、新開の方にホッカイロを寄せる。
 荒北の顔を見ると薄暗い中でも赤くなっているのがわかる。
「靖友、赤い……」
「うるせぇ。さっ、さみぃからに決まってんだろォ!?」
 追い出すぞと腕を放り出されそうになって、ごめんごめんと謝りながら手を握った。ふと思いついて、指と指とを絡めて手のひらを密着させる。
「これ、恋人繋ぎって言うらしいぜ」
 それはクラスの女子が教えてくれたものだった。「知ってた?」とポケットの中で指を動かすと、
「んなもん知るか」
と新開をひと睨みした荒北は口を一文字に結んでそっぽを向く。それが彼の照れ隠しだとわかっているので、何も言わずそのままにした。
 荒北が黙ってしまったので、自然と新開も無言になる。ふたりの白い呼気が夜道に溶けていくのを歩きながらぼんやり見ていた。夜道はとても静かで寒く、暖かいのは繋いだ手だけで、彼の手を意識してしまうのは当然だった。
 自分と同じくらいのサイズなのに荒北の指は細くて長い。指先がきれいで、いつも触りたいなと密かに思っていた。今たしかに荒北の体温を感じていて、やっと触れたなとむず痒い感覚に襲われる。思えば荒北とこんなふうに手を繋ぐのはこれが初めてかもしれない。それに気づいた途端、鼓動が早くなった。
 女の子と手を繋いだ経験はある。体育のフォークダンスなんてものではなく、意識して繋ぐそれだった。
 中学時代、男女交際の意味もよくわかっていなかった頃、クラスメイトに告白された新開は特に断る理由もみつからず、なんとなくその子との関係が始まった。部活終わりに待ち合わせて短い距離を一緒に帰るという極めて清らかなつき合いだったが、初めてできた「彼女」は照れくさくてむず痒かった。
 何度目かの帰り道。その日も他愛もない話をしながらふたりで歩いていた。新開は自転車を引いて歩き、自転車を挟んで彼女が歩く。
 ふと会話が途切れて、何か話題をと昨晩見たテレビ番組を思い出していたき、ハンドルを握る新開の手に彼女の手が重なった。彼女の手のひらは震えていて、きっと新開にはわからないほどの勇気をだしたのだろう。新開が握り返してもしばらく止まなかったが、彼女の手は小さくて柔らかくて、こんなにも自分とは違うものなのかと初めて異性を意識した瞬間だった。
 高校受験の時期になるとお互い受験勉強で忙しくなった。彼女が塾に通い始めたことで一緒に帰ることもなくなり、清い関係は清いまま、始まりがそうだったようにまたなんとなく終わった。
 
 新開は小さく息を吐いた。自分の心臓の音が荒北に聞こえてしまいそうなほどドキドキして煩い。
 そっと荒北の横顔を盗み見る。彼の耳が赤い理由は寒さのせいか、それとも自分と一緒か。後者だったらと期待しながら視線をズラす。
 白い息を漏らす薄い唇に、この場でキスがしたかった。手を繋いだままでキスがしたい、そう思ったときコンビニの灯りが見えた。反射的に指が緩み、つられるように荒北も指を離す。
「あっ……」
「ん?」
 まだいいだろ、と言いかけて新開は言葉を飲み込んだ。名残惜しいが人に見られては困るし、そうなれば二度と手を繋ぐことはないかもしれない。新開はポケットから手を抜くと、また自分の手袋を嵌めた。
 
*
 コンビニの陳列棚にはクリスマスケーキが大量に残っていた。クリスマス当日、そもそもこんな場所にケーキの需要はあるのだろうか。周囲に民家はないし、いるとしても箱学生かドライブがてらに立ち寄る人くらいだろう。それでも新開にとっては宝の山に見えた。
「オレ、丸いヤツがいいな」
 嬉々としてケーキの箱を手に取ったが、即座に「ダァメ!」と取り上げられて棚に戻される。
「触ってんじゃねーヨったく。っとにオメ―はァ……」
 軽く舌打ちしながらも荒北は「ちょっと待ってろ」と言って自分の財布を開けた。だが、中身を確認すると「コレでいいだろ。食べやすくて」とカットされた2個入りのショートケーキを手に取る。
「オレ、今月はもう小遣い少ねーんだヨ。だからコレで勘弁しろ。デカイのはまた今度買ってやっからァ」
 ワリぃな、と新開の頭をポンと叩いた荒北はケーキを持ったままドリンクコーナーへ行ってしまった。
(買って貰うつもりはなかったんだけどなぁ)
 一緒に食べるものだから半分ずつ支払えばいいと考えていたのだが、どうやら荒北は違ったらしい。お礼を言っても「うぜぇ」と言われるだけなので、今回だけは甘えることにして後を追った。

「あとは……アレだナ」
「あぁ。だな」
 生活用品が置かれた一角を少し離れた場所から見つめ、どれにしようかとアレコレふたりで悩む。
「あのちっこいのでいンじゃねーのォ?」
「うーん、でもアレじゃ足りないんじゃねぇか?」
「ハァ!? オメー何回使う気ィ!?」
「いや、ほら、後々も使うかもしれないだろ。まぁ、それはおめさん次第なん……」
 人の気配を感じて口を噤む。ふたりの背後をカップルが通り過ぎ、仲睦まじげにコンドームを選ぶとそれを堂々と掴んで行った。
「……見たァ?」
「……見た」
「買い慣れてるな。照れも差恥もねぇ」
「ああ。手慣れてた」
 固まってコソコソする男子高生を怪しんだのか、ふたりを見る店員の視線が痛い。このままここにいるわけにもいかず、意を決した新開は棚に近づくと箱を素早く手に取った。途端に荒北の眉が吊りあがる。
「なっ……! 何でけぇの取ってンだよ!」
「いやあ、使うかと思って」
 まあまあと宥めたが荒北は小さく舌打ちし、「っざけんなヨ」と新開の太ももに軽い膝蹴りを入れた。箱を取り上げられるかと思ったが結局そのままだったので、どうやら彼の許可が下りたらしい。「ありがとな」と笑うと「うるせぇ」と今度は脛を蹴られた。

 一番下にコンドーム、その上にコミック雑誌を乗せ、さらにその上にケーキとベプシを乗せる。うまく隠したつもりでいたが当然のようにそれは一瞬で崩された。上から順にバーコードをスキャンしていけば最後にゴムの箱が顔を出す。箱が見えた瞬間に店員がチラリと視線を上げ、新開は心臓が縮む思いで視線を逸らした。慌てて雑誌コーナーを振り返っても荒北の姿はすでになく、彼は店外で笑いながら新開に手を振っていた。
 何か言われるのではと警戒したが店員は何も言わず、流れ作業のように淡々と袋に商品を詰めていって。ただ最後にこれ見よがしにゴムの箱を一番上に置かれたのはきっと嫌がらせか何かだと思った。
 ホッとして店を出ると、「ずいぶん焦ってたんじゃナァイ?」とニヤニヤ笑う荒北が近づいてきた。
「ハイ、ご苦労さん」
と、ケーキとベプシの代金が手渡される。「次はおめさんが買うんだからな」と言っても、聞こえないフリをして荒北は走って逃げた。
 ゴム選びでずいぶんと時間を食ってしまい、帰りはほぼランニングだった。また手を繋げたらなんて思ったがそれも叶わずひたすら走る。なんとか門限前に滑り込み、じゃあ後で、と短く約束をして自室へ戻った。
 
**
 部屋での点呼を終えて消灯時間を迎えた。一日を締めるアナウンスが流れて寮内の照明が落とされる。すぐに動いては誰かに会うかもしれない、と逸る気持ちを押さえて小説を読んでみたが、一文字も頭に入ってはこなかった。
 消灯から30分経過したのを確認して部屋を出た。
 忍び足でこっそりと食堂を抜け、給湯室に入る。自分用に牛乳を温め、荒北用に共同冷蔵庫からベプシを取り出す。薄闇の中に電子レンジの稼働音がやたらと大きく響いて、誰かくるのではと肝を冷やした。
 控えめにドアをノックをするとすぐに扉が開いて、隙間から荒北の顔が覗く。辺りを見回しながら室内へと滑り込んだ。
 荒北が窓を開けてベランダに置かれたケーキを取り出した。冷蔵庫に入れるには名前を書く必要があるので、冷蔵庫には入れず外に置いて冷やしていたのだ。
 ベッドサイドランプの淡い灯りの中、床に置かれたケーキを囲んで座る。秘密を共有しているというスリルがたまらなくて、思わず笑顔がこぼれた。
「何笑ってんだヨ」
「だって、嬉しくて」
 ふたりの関係が始まってからこれが初めてのイベントだったし、まさかこうして一緒に過ごして貰えるとは思ってもいなかった。
「なんか記念にお揃いのモノでも買っとけばよかったな」
「ハァ? 誕生日でもねーのに。たかがクリスマスだぜェ? しかもお揃いって……」
 今時サムイだろ、とケーキにフォークを刺しながら荒北が応える。
(まぁそうなんだけど……)
「でもよ、クリスマスプレゼントにお揃いとかさ、カップルっぽいだろ?」
 自分で発した言葉だが、カップルの響きがくすぐったくて頬を指で掻く。チラリと荒北の顔を見るとケーキを口に運ぶ手が止まっていた。耳まで真っ赤に染めてプルプルと小さく震えている。
「ハァ!? かっ、カップルとか……何言っちゃってんのォ!?」
 恥ずかしいヤツ、と大口を開けてケーキを頬張る姿に思わず頬が緩んだ。「笑ってんじゃねぇヨ」と荒北に睨まれて、ショートケーキのイチゴめがけてフォークが伸びてくる。慌ててガードして自分の口へ運ぶと、口に入れたイチゴは冷たくて、とても甘酸っぱい味がした。
「おい、ココ、クリームついてっけどォ」
 荒北が自身の唇の端を指差した。「ここか?」と同じ箇所を指でぬぐってみたが何もない。
「ちげーヨ」
 反対、と呟いた荒北の顔が一気に近づく。反射的に目を閉じた瞬間、唇の表面を熱いぬめりが右から左へ通り過ぎた。驚いて目を開けると荒北が舌をしまって「うめぇ」と無邪気に笑う。
 その仕草に、その笑顔に、強く煽られた。近づいて彼の肩に触れる。唇を重ねたが、勢いが強すぎたせいで歯がカチンとぶつかってしまった。
「はは、ダセーなオレ」
「ネ」
 笑いあって、ふいに無言になった。見つめた先で荒北が気まずそうな顔で目だけ伏せる。
「靖友……」
「……おう」
 床に置かれた荒北の手に手のひらを重ねて指を絡めた。一瞬ピクリと震えたが、離されることなく絡めた指を握り返してくれた。
 今度は、とゆっくり顔を近づけて軽く押すように唇に触れた。柔らかく反発してくる感触を楽しみ、次いで強く押しつける。すると、ケーキの油分で濡れた互いの唇が吸いついて、ちゅ、と耳にくすぐったい音が鳴った。その音に煽られるように唇を甘噛みし、開いた隙間に舌を差し入れる。
 歯を割り入った先で荒北の舌が遠慮がちに新開の舌先をつつき、もっと、と求めるように荒北の舌を舐め返すと、彼の舌はとても甘い味がした。
 生クリームとイチゴの味。甘い匂いが鼻に抜けてその香りに酔いそうになる。
 もっと味が欲しくなった。一旦唇を離すと指先にクリームをつけて口に含み、荒北の頬を両手で挟んで強引に入れた。荒北は驚いて目を見開いていたが、構わず彼の舌にクリームを押しつけて、塗る。冷たかったクリームはふたりの温度で甘く溶け、唾液に乗り、荒北が飲み下す音が聞こえた。
「こっの……変態がァ……」
 無理やり身体を離した荒北が手の甲で唇を拭う。いつも以上に強い目線で睨まれたが、紅潮した頬と涙の滲む目は彼の迫力を削いでいた。萎えるどころかその表情は新開の下半身に直結して、急速に血を巡らせる。
「ごめん」
 短く一方的に謝ると、荒北の肩を掴んで彼を床に押し倒し、スエットの裾から手を差し入れて胸を探った。小さく尖る突起を指先が見つけた瞬間、「オイ」とスエットの上から手を掴まれた。
「わるい。してもいいか?」
「……もうしてんだろーが」
 呆れたように小さくため息をついて荒北は手を離した。許可が下りたのだと解釈した新開はスエットを捲って突起に唇を近づけたが、なぜか荒北の手のひらがそれを拒む。新開の唇を手のひらで塞いだ荒北は、ゆっくり上半身を起こすと「さみぃから布団はいろーぜ。暖めてくれんだろォ?」と不敵に笑った。
 
 布団の中で額を合わせながら荒北を抱き寄せる。どちらともなく目を伏せると自然と唇が重なって、何度か啄ばむように触れた後でゆっくり離れた。目を閉じたままの荒北の顔をまだ見ていたくて、しばらく何もせずに見つめてみる。すると訝しんだ荒北が片目だけ瞼を開けて「見てんじゃネェヨ」と新開の唇に噛みついた。じゃれるように鼻に噛みつき返して、頬をくっつける。少しひんやりした肌の感触が心地いい。
「靖友、好きだ」
 好きだなぁと思う気持ちが溢れて、言葉だけでは足りず、抱き合う腕に力を込めた。甘い返事を期待していたのだが荒北は「知ってる」としか言わず、返された短い言葉に苦笑しながら「だよな」と耳元にキスをした。鼻先に触れた髪のシャンプーの匂いに性欲を強く刺激され、「ほんとに今日はいいのか?」と顔を覗き込むと荒北は無言で頷いた。
 首筋に舌を這わせて薄い胸板を指で撫でる。元々日に焼けにくい肌は冬の間に白さを取り戻していた。肌を強く吸うとピンク色に色づいて、ワザと襟元に痕を残すとそれに気づいた荒北の手が再び新開の唇を塞いだ。
「ソレ、つけんのやめろ」
「ん? なんで?」
 言い終えると同時に「なんでもだヨ!」と唇を指で引っ張られた。仕返しとばかりに唇を摘まむ指を隙間から舌先で舐めた。驚いて離された指を口に含んで吸うと、荒北が小さく息を飲む。指先、耳たぶ、肩、背中の窪み、膝の裏側。ここ数ヶ月の間に見つけた荒北の弱い部分だった。すぐに手で口を塞いで堪えてしまうが、そこを撫でると吐息混じりの高めの声が漏れる。のけ反った喉に浮く喉仏がキレイだった。
 指先から唇を離して乳首に口をつけた。舌先で押すように唾液を塗りつけると、荒北の身体がぴくりと浮いて「イヤだ」と彼の手が新開の髪を掴む。だが、彼の手の力は弱く、こんなときのイヤは言葉だけだとわかっているので遠慮なく続けた。
 舌で押して、唇で挟み、強く吸う。反対側は指で摘まんでくるくると指先で刺激する。硬さを増してきたところで歯を立てると荒北は掠れた高い声をあげた。
 腹部に熱を感じて目線を落とすと、ボクサーパンツを押し上げる荒北の下腹部が新開に触れていた。乳首を弄る指を胸から腹部、内腿を撫でる。パンツの裾から手を入れて性器に触れないギリギリを撫でた。
「こっち。触って欲しンだけど」
 焦らされた荒北は新開の手首を掴んで裾から抜き取り、自分の性器に下着越しに押しあてた。その仕草に、抑えていた新開の理性が揺らぐ。
 荒北のボクサーパンツを勢い良くズリ下げると、飛び出てきた硬い陰茎を掴んだ。同時に自分の性器も下着の中から引っぱり出し、2本をぴったり合わせて手のひらで包むようにこすり合わせる。手のリズムに合わせて腰を揺すると、カリ首が刺激されて全身に震えが奔った。もっと刺激が欲しくてぐちゃぐちゃと音を立てて強くこする。
「んぁっ……! それ、やべェって」
 のけ反って逃れようとする荒北の腰を抑えた。片手では押さえきれず、彼の腿に跨って足も押さえる。
 自分と荒北を繋ぐ手のひらを支点にして腰の動きを早めた。手の中でふたりの性器が大きく膨らんでいく。
「もォっ、でそ……」
「んっ、オレも……やばい」
 ビクンと大きく脈打って、ふたりの性器から白濁したものが吐き出された。二人分の精液が荒北の腹部に広がって汚していく。
 室内に青臭い匂いと、荒い吐息が漂う。
「つーか出してんじゃねーヨ。今日は挿れんじゃねーのかよ、ったく」
「なんか、一回出しときたくて」
 頭をかいて笑う新開に呆れた顔の荒北が「ティッシュ!」と手を差し出した。「こぼれっからァ」と急ぐように催促されて慌てて床に手を伸ばしかけたが、ふと思いついて止めた。
 荒北の腰を自分の腿に乗せて浮かせると、白くべたつく液体を指ですくい、ベッドとの空間に手を入れて双丘を割る。「おい!」と片眉を吊り上げた顔に微笑んで、指を窄みに挿れた。荒北のそこはローション代わりの精液のおかげで易々と侵入を許し、指を飲み込んでいった。信じらんねぇと紅潮した顔を歪めて呟く荒北をよそに、繰り返し塗り込んで中を探る。
 陰嚢の裏側を押していくと、硬さを感じる部分に指が当たった。
「ん……! はぁっ……」
 荒北の身体が跳ねて背をのけ反らせる。何度も探って、何度も躾けた部分だ。そこを中心に円を描きながら指を動かしていくと次第に荒北の腰が揺れ始めた。一度精を放ってくったりしていた部分も頭をもたげて硬さを取り戻しつつある。
 荒北の陰茎を手のひらで包むように握り、指の腹で裏スジを撫でる。しばらく続けると後孔の緊張もかなり解れたようで、傷つけないようにと小指から始めたが今は中指と人差し指が入るほど緩くなっていた。念のため、と中で指を開いて広がる大きさを確かめた。
「もう入るかな……」
「……い……いれ、っんのォ?」
 新開、と伸ばされた手を握り返すと、彼の手は小さく震えていた。「ちょっと怖ェな」と荒北が眉を下げて笑う。
「……やめとくか?」
 正直新開の身体は止められそうもない状態だったが、無理はさせたくなかった。負担が大きいのは荒北だ。怖い思いも痛い思いも絶対にさせたくない。だが、荒北は小さく笑うと「……怖ェから、一気にイってくんない?」と呟いた。新開の手を離して枕元の箱から小さな包みを取り出し、「オラ」と差し出す。
「……気ぃ変わんねェうちに早めに頼む」
 手渡された袋の封を開ける。逸る気持ちを押さえながら亀頭に被せたが、表面がぬるぬる滑ってうまくつけられない。破かないように、でも急いで根本まで下ろした。
 ひくつく窄みに指を挿し入れ、入りやすいようにゆっくりと広げる。開いた場所へ先端を添えて徐々に腰を押し進めた。先端が埋没すると荒北が息を飲んでのけ反る。今日まで少しずつ慣らしてきたが、挿入するにはまだ早かったのかもしれない。コンドームに付属していたローションでぬめりを足してみてもうまく滑らず、挿入も半ばで腰を止めた。
 喉を逸らして呻き声をあげる荒北の頬に手を添える。
「……やめる?」
 息を大きく吐く荒北の顔を覗き込む。「へーき」と短く呟いた目にはうっすらと涙が滲んでいた。やっぱりやめようと腰を引いて抜こうとしたが、両足を絡められて身動きが取れない。苦痛に歪む表情で笑ってみせた荒北が、「抜かなくていいからァ」と掠れた声で呟く。
「でも……」
と渋ると首に腕を回されて引き寄せられた。繋がったまま荒北の背に手を回して彼を抱く。
「もうちょい……慣れたらたぶん……」
 だからくっついてろと言う荒北に頬を寄せ、ゆっくり背中をさすった。触れ合う場所からお互いの体温が混じり合い、このまま本当にくっついてしまいそうな錯覚に陥る。
 少しでも荒北の痛みを和らげようと、耳に口づけて薄い耳たぶに舌を這わせた。耳の輪郭をなぞるように舐め上げ、たまに息を吹きかけると「あっ」と喘ぐ瞬間だけ荒北の後孔が緩む。
 腹部に手を差し入れて荒北の性器を探ると、予想に反してまだ勃起したままだった。ホッとしながらじっくり時間をかけて上下にしごくと、鈴口から透明な液が少しずつ出始め、親指で亀頭に塗って卑猥な音を立てる。しばらくそうしていると荒北は絶え間なく喘ぎ始め、ひんやりしていた頬が火照って赤く染まっていた。
 身体を起こして腰を前に進めると、少しずつだが荒北の中に埋まっていった。内部は想像していたよりもずっと高温で、体温が低い荒北からは考えられないほど熱い。口の中とはまた違う粘膜の感触に戸惑った。
「っま……だ? ぜんぶっ、はいっ……ったァ?」
「うっ……入った」
 荒北がしゃべるたびに声が中に響いて、吐息を漏らすたびに締めつけられる。手を伸ばしてシーツを掴む荒北の拳に重ね、大丈夫かと様子を伺った。組み敷かれた荒北は小さく震えて苦しげに眉をひそめているのに、彼の性器は新開の手の中で萎えずに起立したままダラダラと垂らし続けている。それを見ただけで達してしまいそうになり、慌てて新開は目を閉じると視覚を遮断してそれをこらえた。
「……動かねぇの?」
「ちょっと……今、ムリ」
 余裕のない声が出てしまい、鼻で笑った荒北が新開の頬を指で撫でる。
「オメーのンな顔、初めて見た」
「はは、やべぇよ。中、すげぇ気持ちいい」
「そーかヨ。よかったネ。こっちはすんげェキツイんですけどォ」
 荒北が笑うたびに彼の内部が新開を締めつけ、我慢していた腰が動いてしまった。その動きに荒北の笑顔が歪む。
「あっ……んな急に動くな……って!」
「わりぃ、もう我慢できねぇかも」
 こらえていたものが溢れて腰が止まらない。傷つけないようにと加減していた余裕はすでになく、思うままに打ちつける。
「しんっ……か……いっ」
「やす、ともっ、ごめんっ」
 逃げる荒北の腰を押さえて何度も「ごめん」と呟く。拒む荒北が新開の腕を掴み、食い込む爪が痛い。それでも止められず、唇を噛みしめる荒北の奥を求める。涙で濡れる目に睨まれながら、頂点に達した。
 靖友、と繰り返し名前を呼んで吐精する。口とも手とも違う、比べものにならない初めての快感に体も心も痺れて溶けた。荒北の胸に身体を預けて、すべて吐き出されるのをじっと待つ。
 新開の耳に届く荒北の鼓動は速く、上下する胸板が熱い。新開はしばらく動くことができず、そのまま荒北の鼓動を聞いていた。
「……てんめェっ……マジで……」
 荒北の掠れる涙声でようやく我に返った。彼はもちろん射精しておらず、萎縮した状態の性器を見て、自分のした行為がどれだけ酷かったのか気がついた。慌てて起き上がり、ゆっくりと引き抜く。「身体……大丈夫か?」と恐るおそる問いかけてみたが「いてぇヨ」と力ない手で叩かれた。
「わりぃ……加減できなくて」
「まぁ……してもいいっつったのはオレだからナ……。にしてもムチャクチャしすぎなんだヨ。ケツ切れるだろ、コレェ」
 自分の尻を手でさする荒北に「ほんとにごめん」と頭を下げると突然頬をつねられた。だが荒北の表情は柔らかなもので、ぐにぐにと引っぱって笑いながら「ったくオメーはよォ」とキスをくれた。
「今日はプレゼント代わりっつーことで、大目に見てやんヨ」
「じゃぁ、また……してもいいか?」
 おずおずと問いかける新開に「……バカみてーに腰振んなきゃナ」と荒北が軽く腰を蹴る。思いがけず許されて、嬉しさのあまり「靖友!」と荒北の身体に抱き付ついた。
「痛てェつってんだろォ! このバァカ!」
 離せ、と腕で押しのけられたが、構わずに「ありがとう」ときつく抱きしめる。荒北は腕の中で片眉を吊り上げ、あからさまに嫌な顔をしながら「……んなにヤリてぇのかよ、テメーは」と呆れたように呟いた。
「だって、すげぇ好きなんだよ。おめさんのことが。好きなヤツがそばにいたらヤリたくなるだろ?」
 おめさんは違うのか?と顔を見ると、荒北は新開の腕を解いて「ケツいてェし、もーねみぃ……」と背を向けた。そして、しばらく無言だったが「まぁ、オレだってそーだけどォ……」と小声で言った。
 向こうを向いている顔がどんな表情をしているのかはわからない。それでも、髪の毛から覗く耳の先端が赤いのを見つけた新開は、フッと笑い声が出た。
 荒北の頭に額を寄せて目を閉じる。
「来年もおめさんと一緒に過ごせたらいいなぁ」
 そんな気持ちが口をついて出る。背を向けていた荒北が寝返りを打ち、新開を見ながら片方の眉を吊り上げて「バァカ」と小声で言う。
「……その前にインハイだろーが。テメーはぜってーゼッケン獲るんだろォ?」
 じゃなきゃ許さねー、とにやりと笑った。
「そうだな……それは絶対獲らねぇとやばいな」
「ったりめーだろォ! 何のために練習つき合ってると思ってんだヨ」
 そう言うと荒北は新開の襟元を掴んで顔を引き寄せ、
「オメーの走り、全国のやつらに見せてやりてェ」
と触れるだけの軽いキスをした。
「靖友……」
「いいか新開、オメーがちゃんとゼッケン獲れたら……ご褒美に来年は丸いケーキでも買ってやるヨ」
 目を輝かせる新開に「ハッ!」と歯を見せた荒北はまた背を向けた。「靖友?」と名前を呼んでも「早く寝ろ」と言うだけでもう振り向かない。
 荒北の言葉も行動も、まったく予想していなかった。込み上げてくる嬉しさに「オレ、絶対に獲るから」と目の前の筋張った身体を抱きしめる。「たりめーだ」と返す声は小さくて、目の前の頭がカクンと揺れると規則正しい呼吸音が聞こえてきた。
 明日になれば閉寮と帰省が始まって、年末年始は離ればなれになる。眠ってしまうのは惜しいが眠気が勝手に瞼を下げた。荒北の少し冷たい足に自分の足を絡め、すでに夢の中にいる恋人を想いながら新開も目を閉じる。
 
 来年も、その次のクリスマスも、ずっと一緒に過ごせますように……

 
***つづく***
 
次→『Give you my word.』

-ペダル:新荒
-, , , ,

int(1) int(1)