【新荒】体格差

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10/5のワンライに参加できなかったので、お題を借りて書きました。
・高校3年の新荒です。(新←荒)
・女子に告白される新開さんにモヤモヤする荒北さんの話。 

 
「あのっ……新開先輩っ」
 背後からかけられた声に足が止まる。振り向いた先には2人組みの女子が立っていた。真っ赤な顔をしたロングヘアーの女子と、その半歩後ろに立つショートカットの女子。どちらも小柄な体型だったが、ロングヘアーの女子はより華奢で、いかにも女子らしい可愛らしさがあった。
「ほら、がんばって」
 ショートカットに背中を押されたロングヘアーが自身のブレザーの裾を握りしめる。それを目にした荒北は、胸の辺りが不快にざわつき始めたのをハッキリ感じとった。
「話があって……ちょっと、いいですか?」
「話? 何?」
「えっと、その……」
 ロングヘアーの女子が窺うような視線を荒北に向ける。目が合った瞬間に逸らされたが、その一瞬で荒北は嗅ぎ取ってしまった。この女子は自分と同じ匂いがしている。
 空気を読んだ荒北は先に中庭へ行くことにした。
「んじゃーオレは先行ってっからァ。いつもンとこな」
「え、ああ。わかった。すぐに行くよ」
 新開の返事に女子2名が目を丸くする。しかし、平静さを保とうとしていた荒北だけはそれに気がつく余裕もなく、新開の肩をポンと叩くと足早にその場を離れてしまった。
 

*
「あー……スゲーいい天気じゃねーか……クソッ」
 すぐに行くと言っていた新開がなかなか来ない。中庭のベンチに座って待つ荒北は、背もたれに深く寄りかかって秋空を見上げていた。
 右手に持ったメロンパンはひとくち齧っただけで進んでいない。考え事をすればするほど無意識に握りしめてしまい、袋の中でぺちゃんこに形を崩している。
(アレって、ぜってーアレだよなァ……)
 同じような光景を何度か目にしてきた荒北は「またかよ」と呟いて舌打ちした。
「……あの野郎、やけにモテるからな。ハッ! 大飯食らいとチャリしか取り柄がねぇのに、あんなヤツのどこがいいんだか。何考えてんのか読めねーし、人の顔見りゃパワーバー食うかってうるせーし、そもそもだなァ、ウサギとチャリしか頭ん中にねぇんだぜ!? んなヤツに惚れたって、どう考えても報われるわけねぇだろ。……想うだけ無駄なんだヨ」
 新開が来るだろう方向に視線を動かす。しかし、やって来る気配はまだない。
 女生徒からの告白を断り切れず、会話が長引いているのだろうか。それとも、ついに今回は新開がオーケーして、ふたりで盛り上がったまま昼食を食べに行ってしまったのだろうか。ブレザーのポケットから携帯電話を取り出してみたが、メッセージも着信も届いていない。荒北は無意識にため息をついて携帯電話をポケットに戻した。
 

『なぁ、新開ってどんな子がタイプなわけ?』
『ん? 急になんの話だ?』
『単純に知りてーだけ。ほら、こん中から選んでみてよ』
『ずいぶん突然だなあ。何? ファッションスナップ?』
『ほらほら、早く』
『ええっと……この子、とか? いいんじゃないかな』
『へー。んじゃーこっちのページは?』
『……まだやんの? そうだな……この子、かな』
 

 寮の談話室で見た新開と彼のクラスメイトのやり取り。新開が指さした女子はどれも似たようなタイプばかりだった。長い髪、華奢で細い身体、抱きしめたら腕の中にすっぽり納まってしまいそうな低めの身長。
(……さっきの女子もアイツのタイプだったかもな)
 今回ばかりはダメかもしれない――。思わず弱気になってしまうほど、先ほど声をかけてきた女子は、荒北が知る“新開のタイプ”そのものだった。
 メロンパンを握る手に視線を落とす。
 日焼け跡が残っている手の大きさは新開とほぼ変わらない。体重は1キロ負けているが、身長は1センチ差で荒北が大きい。筋肉量の差があったとしても骨格も体型も新開と荒北は似たようなものだ。つまり荒北は、新開の理想のタイプからは程遠いということになる。
 新開が指さしていたスナップ写真の女子も、『新開先輩』と呼び止めてきた後輩も、彼と並んだところを想像すると体格差がちょうどいい。彼女らのようになりたいわけではないが、羨ましくないと言えば嘘になる。
「……惚れたって報われるわけねーだろ。想うだけ無駄なんだぞ……マジでわけわかんねェ」
 新開に対する嫉妬や憧れを拗らせた結果、何をどう間違えたのかそれらは全部恋心に変わっていった。近すぎるゆえに己の感情に気がつかず、気がついたときにはどうしようもなく惚れていた。友人、戦友、チームメイト……どれかに納まるだけでは物足りないと、荒北の中の何かが飢え始めている。
(って言っても、どうにかできるわけねーんだけど)
 ザッザッと近づいてくる靴音に気がついて顔を上げる。校舎の陰から現れた新開は、さっきは持っていなかったベプシ缶を握っていた。
「わるいな、遅くなっちまった。はい、コレ。靖友にあげるよ」
「あ? なんでベプシ?」
「おめさんへの貢物だ」
「貢物ォ?」
「そう。時間潰しちまったお詫びに」
 お詫びも何も、ふたりは昼食の約束をしていたわけではない。たまたま購買で顔を合わせたので、どうせなら一緒に食べようかと話していただけだった。それなのに、新開は律儀に購買まで戻って買ってきた。
「……どーも」
 顔の前に差し出された缶を素直に受け取ると、満足そうな笑みを浮かべて新開が荒北の隣りに腰を下ろす。
「さっきの子、告白だったよ」
 訊いてもいないのにパンの袋を開けながら新開が先に口を開いた。
「……だろうな」
「ああ。断ってきた」
「……あっそ。つーか、なんでオレに言うんだよ」
「なんでって、行きがかり上? おめさんも気になってるかと思って」
「あ? ふざけんな。べつに何とも思ってねーっつーの」
「なんだ。それは残念」
「はぁ? 自意識過剰すぎンだろ」
「そうかな? それにしては不機嫌じゃないか。ああ、もしかして妬いてくれてんの?」
「なっ……だっ、誰が誰に妬くんだコラァ!」
 クスクス笑う新開が大きなひとくちでパンに齧りついた。咀嚼して牛乳で流し込み、「うまい」と言ってまた齧りつく。見ていて気持ちがいいくらい、パンがどんどん口の中に消えていく。
「靖友は食べないのか? ってどうなってんだ、それ。ぺしゃんこだぜ?」
「あ?」
 新開につられて視線を落とすと手の中のメロンパンがひどい有様になっていた。
「あァ!? なんだこれ!?」
「自分でやったんだろ? ふっくらが売りだって書いてあったのに。もったいないなあ」
「うっせーなァ、まだ食えんだろーが!」
 ぼろぼろになったメロンパンに意地になって齧りつく。しかし、思った以上に脆くなっていたらしく、齧ったそばからパンの欠片がスラックスの上に零れていった。
「あーあ、何やってんだよ」
 荒北が拾うより先に新開が欠片をつまんで、そのまま自分の口へ放り込む。
「メロンパンもうまいな。外側が思った以上にサクサクしてる」
 うんうんと1人で頷いていた新開は突然荒北の手首を掴むと、腕ごとメロンパンを引き寄せてガブッと大きなひとくちで齧りついた。
「あっ! てめェ何やってんだ!」
 掴まれている手を振り払おうとしても新開の手は離れない。荒北の手を掴んだまま喉を鳴らしてパンを飲み込み、「ついてるぜ」と言って顔を一気に寄せてきた。
 唇のギリギリ横を掠めていく生暖かいもの。舐められたと気づいた瞬間、新開の顔が視界一杯まで迫ってくる。
「なんっ――!」
 反射的に目を閉じていた。
 唇に押しつけられた柔らかい肉感と、パンの表面を覆っていた砂糖のざらつき。バターのような甘い匂いや、新開の制服から漂う洗剤の匂い。
 驚きすぎたせいで身動きすらできなかった。フリーズしたままの荒北を新開の大きな瞳が覗き込んでくる。
「さっき断ったって言ったろ? オレさ、好きなやつがいるって断ったんだ」
「なっ……!? え……え!?」 
「誰だかわかってるんだろ?」
「はぁ!? んなもん知るかよ!」
「本当に?」
「知るわけねーだろ! つーかナニしてくれてんだテメーは! 人をからかうのもいい加減にしろ!」
 新開を突き飛ばして無理やり身体を離す。距離を取ろうとして立ち上がったが、再び新開に腕を掴まれてしまった。
「ざっけんな、離せ!」
「からかってなんかない。なあ靖友、さっきなんで機嫌悪かったんだ?」
「だからァ、悪かねぇっつーの。そっちの見間違いだろ」
「ほんとに? オレが呼ばれて何とも思わなかった?」
「うるせーなァ。何でもねぇって言ってんだろーが」
「オレは妬くよ。オレの目の前で靖友がさっきみたいに声をかけられたら。明らかに告白だってわかったら、オレは妬く」
「はぁ!? 何バカ言ってんだてめェは。つーか、さっきのはモロにオメーのタイプだったんじゃねーのかよ。なんで断ってんだよ」
「ん? オレのタイプ?」
「髪が長くて、細くて、背がちっせー女ァ! こないだ寮で言ってたじゃねーか」
「寮で?」と呟いて新開が首を傾げる。何のことかすぐに思い当たったらしく、「ああ、あれか」と荒北を見上げた。
「真逆を言っておけば本命はバレないだろ?」
「あぁ? 真逆ゥ?」
「そう。オレのタイプ、いや、オレが好きなヤツは全部真逆なんだ」
 髪が長く、細く、背が低い。その真逆。
 肘の辺りを掴んでいた新開の指先が制服を伝って下りてくる。手首をすぎ、手のひらを撫で、荒北の指先をそっと握る。新開の体温がこんなにも熱いのだと初めて知った。
「髪が短くて、がっしりしてて、身長は高い。ファーストキスもさっきソイツにあげたばっかりだ」
「ん? え……え!? お、オレェ!? はぁ!? 嘘だろ!?」
「嘘じゃない。靖友に嘘なんかつくもんか」
「え……いや、だって……はぁ!? なんっ、で?」
「なんでかなんて、そんなのわからない。好きになってたんだから仕方ないだろ? それにしてもおめさんはちょっと驚きすぎじゃないか? とっくにバレてるもんだと思ってたのに、靖友は自分のことになると意外と鈍感なのかもな。オレ、結構アピールしてきたつもりなんだぜ?」
 苦笑いのような複雑な笑みを浮かべて新開が頬を緩める。しかし、すぐに真剣な表情に戻って荒北をじっと見つめてきた。
「なあ、オレのことどう思ってる?」
 問いかけてくる瞳の奥に鬼の気配がチラついている。
(仕留めるっつーわけか……)
 言われるまでもなく、荒北はとっくに仕留められているというのに。
「おい新開、これだけは言っとくぞ。オレはなァ、とっくにてめェに惚れてんだ。その辺のオンナとは年季がちげーんだよ、年季がァ」
 荒北の告白に新開が目を見開き、ゆっくり細め、垂れた目尻をさらに下げる。照れ臭そうにうなじを掻く新開に満足して荒北はニヤリと笑った。
 

***END***

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int(1) int(1)