【新荒】そして新荒になる②

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高校3年のつき合っていない新荒です。
『そして新荒になる①』の続き。

《注意》
②に登場する荒北さんは同級生で積極的(襲い受け)な荒北さんと、同級生でヤンデレ気質な荒北さんです。襲い受け北さんは新開さんの手首をネクタイで縛り、ヤンデレ北さんは首を絞めますので注意してください。

 
3.
 ぬるっとした温かいものが口の中で動いていた。吐息のようなものが肌に触れ、わけもわからず窮屈で、息苦しくて暑い。
「んん!?」
 突然下半身を握られた。防衛本能でとっさに身体が動き、掴んできた誰かを思いきり突き飛ばす。驚いたことに目の前には唇を濡らした荒北がいて、「痛ェなぁ」と不服そうにこちらを睨んでいる。
「や、靖友!? おめさん何してんだ!?」
「なにってナニだろ」
「え、なに? なにってなんだ? ん? ここは? どこにいるんだ?」
「どこって東第一公園の便所だけどォ。てめェが連れ込んだんだろ」
「便所に? オレが!?」
「今日は外でヤろうぜって」
「ソ、ソトデヤロウゼ……?」
 状況を把握できない新開が目を瞬かせる。それを見ながら荒北は「今日はっつーか“今日も”だけどな」とニヤリと笑った。
「待ってくれ。わけがわからない。ええと……ここって個室だよな?」
「だからどうした」
「どうしたって、フツー個室は一人ひとつなわけで――
「っだよ、急にわけわかんねーなァ。ヤるンじゃねーのかよ。あー、もしかして焦らしプレイってやつゥ? 悪かねぇけど、また今度な」
 意地の悪い笑みを浮かべた荒北が再び下半身に手を伸ばしてくる。さっきは突然掴まれて驚いたが、自分のそこが硬く勃起していることにも驚かされた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
 手首を掴んで遮ると、荒北の片眉が再び吊り上がる。
「なんだこの手は」
「状況がわからない」
「……ソレまだやんのかよ。もういいって」
「そうじゃなくて、マジでわかんねぇんだって」
「はぁ? わかんねーもなにも、この状況でヤることっつったらひとつしかねーだろ。なぁ、その焦らしプレイっつーの? 萎えそーだからそろそろやめてくんね? これ以上はつき合わねーぞ」
 短いため息をついて荒北が手を振り払った。新開のネクタイを手荒く引っ張って無理やり距離を詰め、茶色の髪の毛をかきあげて耳に舌を這わせる。
「んっ……! 靖友、待ってくれ!」
 顔を押し返そうとして身じろいだが荒北はびくともしない。それどころか「うるせーぞ」と耳たぶに噛みついてくる。
「痛っ……!?」
「抵抗する割には力入ってねーのな」
「そんなことっ……うっ……なん、でっ」
「耳弱ェもんなァ。ハッ! カーワイイ」
「靖友っ……頼むからこんなことはやめてくれ! 少しはオレの話も聞いてくれよ!」
「あ? 話ィ?」
「ああ。おめさんと話がしたいんだ。だから、ちょっと待ってくれ」
 耳を舐めていた舌の動きが止まる。数秒の沈黙の後で荒北が手と身体を離した。
「わーったよ。しょーがねェからやめてやってもいいけど、その前にちょっと後ろ向け」
「後ろ? 急になんで?」
「いいから。オレの気が変わんねェうちにさっさとしろ」
「一体なんなんだ?」
 渋々ではあったが荒北に背中を向けて立つ。すると背後で布が擦れる音がして、その直後に身体を壁に押しつけられた。自由を奪われた状態で腕を掴まれ、後ろ手にされた両手首に痛みが奔る。
「痛っ! やっ、靖友!?」
「すぐ終わるって」
 縛られたと気づいたときには遅かった。どんなに手を動かしても拘束は緩まず、手首を縛る何かがしっかりと食い込んでいる。振り向いた先では荒北がニヤニヤと笑っていて、彼の首にぶら下がっていたはずのえんじ色のネクタイがない。
「……もしかしてネクタイで縛ったのか? 何のつもりだ!?」
「だからァ、ナニだっつってんだろ」
「騙したんだな!?」
「ワリィな。でも、こういうのも好きだろ?」
 両肩を強く押されたせいで洋式便器の蓋の上に尻もちをついた。すかさず荒北が腿の上に腰を下ろしてきて、目を閉じる間もなく唇が塞がれる。顔を背けようと抵抗しても離してもらえず、どこかに逃げようにも立ち上がれないし逃げ場もない。
 息継ぎのためか荒北の唇がわずかに浮いた。その隙を狙って顔を背け「やめてくれよ!」と荒北を睨む。
「なんだ? まさかマジで嫌がってんのかよ」
「当たり前だろ! なんでおめさんとこんなこと……そもそも、ここって外じゃないか」
「ハッ! 外のが好きなくせしてよく言うぜ」
「そんなわけないだろ!」
「へぇ。じゃあ、コレはなんだ?」
 新開に跨った状態で荒北がわざとらしく腰を振る。彼の股間はすでに硬く、グリグリと押しつけられる自分のそこも同様に硬い。
「うっ……」
「たいして触ってねェのにもうバッキバキじゃねーか。嫌がっといてコレかよ」
「え、嘘だろ!? なんで……!?」
「おい新開、いい加減にしろよ。てめェが風邪ひいたせいでこっちは数日もお預けくらってんだ。カワイソーなカレシをこれ以上待たせる気かァ? さっさとこのぶっといのオレにくれよ」
 言い終わる前に素早く伸びた荒北の手が新開のベルトを掴んだ。上に乗ったまま器用にバックルに指をかけ、カチャカチャと音を立ててあっという間に外してしまう。
「んっ!? おいおい、おめさん正気か!?」
「舐めてやっから暴れんなって。あ、先に一発だしとくか?」
「靖友! まっ――
「待たねェ」
 スラックスのファスナーを下ろし終えた指が、今度はシャツの裾を慌ただしく引っ張り始める。肌を爪で引っかかれたが、驚きのほうが大きくて痛くはなかった。下半身がどんどん露わにされていくというのに、身体の自由が効かないせいで見ていることしかできない。
「靖友……冗談、だよな?」
 問いかける声が震えてしまう。荒北は手を止めて視線を上げると、新開をじっと見つめた。
「……どうした新開」
「え?」
「今日はずいぶんいい顔すんじゃねーか。オメーを縛ンの結構クるぜ。ハハッ……ヤベェな。ハマりそォ」
 自身の唇を舐める荒北の舌が赤い。下着のウエスト部分に指先が潜り込んできた瞬間、新開は「やめてくれ!」と叫びながら目を閉じて顔を背けた。
 

4.
(何かがおかしいんだ。何かが……。だから、今日だってきっと何かがあるはずなんだ)
 寝返りを打って仰向けになる。あと数時間もすれば一日が終わるというのに気持ちがまったく休まらず、新開は身体をこわばらせて身構えていた。
 今回は目が覚めたら自室のベッドにいた。
 いつも通りの朝が始まって、何事もなく一日を過ごし、あと1時間ほどで消灯時間を迎える。普段と違ったことといえば部活が始まる前に女子生徒に呼び出されて手紙を貰ったくらいで、それ以外はいたって普通の一日だった。
 荒北の様子にも変化はなく、寮内でも学校でも荒北はいつも通りの荒北だった。手紙を受け取ったところを目撃されてしまったが、彼は「相変わらずオモテになることで」とからかってきただけで、それ以外は特に何も言わなかった。だからこそ新開はまだ身構えている。
 泣きじゃくっていた荒北と、トイレで手を縛ってきた荒北。見た目は荒北そのものなのに、自分が知る彼とは中身がまるで違っていた。
 新開が知っている荒北は簡単に泣いたりしないし、気安く抱きついてきたりもしない。むやみに人の手を縛ることはないし、そもそも新開と荒北の間には手を縛る理由も関係性もない。
(なのに……)
 新開が出会った荒北たちは“恋人”としか思えないような態度だった。
 
『もうオレのこと好きじゃねーの? なァ、なんとか言えよ!』
『てめェが風邪ひいたせいでこっちは数日もお預けくらってんだ。カワイソーなカレシをこれ以上待たせる気かァ?』

「彼氏」と、言葉に出して呟いてみる。
「……あれってやっぱり、靖友がオレの……ってことだよな……」
 荒北と新開は恋人ではない。告白した覚えはないし、もちろんされた覚えもない。でも彼らは新開を好きだといい、隠れた場所でとても口にはできないことをしている。
(あの様子じゃ、あれが初めてってわけでもなさそうだったしなあ……)
 のしかかってきた荒北は慣れた様子だった。トイレでの一部始終を思い出すとわけもわからず赤面してしまう。新開は居ても立ってもいられず、飛び起きてベッドの上に座り直した。
「靖友とオレが……」
 荒北を気にしていたのは確かだが、それは彼に対して特別な何かがあるわけではなく、友人やチームメイトとしての感情だと思っていた。気がつけば荒北を目で追っていたり、彼の姿が見えなければキョロキョロと探してしまうところはある。だが、それは自分が長男気質なだけで、ひとりを好む荒北をなんとなく放って置けないからつい世話を焼いてしまうのだと思っていた。
 もしかしたら、この世のどこかには荒北とつき合っている別世界が存在するのかもしれない。自分はなんらかの理由でその別世界に飛んでしまい、それぞれの世界の荒北に出会っているのかもしれない。そう考えればすべての辻褄が合うのだが、さすがに非現実的すぎる。
(靖友に知られたら、小説の読みすぎだって言われちまいそうだ)
「でも、やっぱり何かがおかしいんだよなあ……」
 新開が深いため息をついたところでノックもなしに突然ドアが開いた。
「よぉ、入るぜ」
「や、靖友!? ビビった。ノックくらいしてくれよ」
「はぁ? 何言ってんだ。オレはいっつもこうだろ」
「え……そうだっけ?」
 何か嫌な予感がしたが、近づいてくる荒北の勢いにのまれて予感はすぐに消えてしまった。新開の目の前に仁王立ちになった荒北が「出せ」と言って手のひらを差し出す。
「出せ? って、何を?」
「手紙。今日貰ってたろ」
「あー……でも何でおめさんに?」
「そういう約束だろーが」
 きた、と思った。消灯まで残り1時間。何事もなく過ごしてきたが、どうやらこのままでは終われないらしい。
(ってことは、目の前にいる靖友もオレが知らない靖友なのか……オレの推察もあながち間違いじゃないのかもな)
 戸惑いはあるが、思ったよりも落ち着いている自分がいる。3人目の荒北を観察しながら、新開は「約束、って?」ととぼけたフリを装って問いかけてみた。
「見せろって言ったら見せてくれる約束だろ」
「それって手紙を? だとしたらなんだか悪趣味じゃないか?」
「あ?」
「だって、オレが貰った手紙をおめさんも読むってことだろ? ラブレターの類だったらどうするんだ? 相手の想いを弄ぶってことになるんじゃないのか? 回し読みするみたいで好きじゃないな」
 思わずこぼれた本音に荒北の眉毛がピクリと動く。仁王立ちのまま腕組みしてクンクンと鼻を動かした。
「……おい、新開。今日はどうした。別人みたいじゃねーか」
「え」
「オレの勘がよォ、なーんかおかしいって言ってンだよな」
 鋭い指摘にドキッとして新開の心臓が跳ねる。「気のせいだろ」と応えても荒北は腕組みを崩さず、ジロジロと新開を見下ろしていた。
「べつに読ませろって言ってンじゃねぇ。手紙は何通貰ったか、告られたんなら何人に告られたのか、いつもみてェに教えろって言ってんだヨ」
「え、そんなの知ってどうするんだ?」
「はあ? なんだてめェ、やっぱ変だぞ」
 荒北がスッと目を細める。疑っているのは明らかだったがそれ以上の追求はなく、もう一度「手紙」とだけ言った。
(……素直に従うしかないみたいだな)
 観念した新開はベッド脇に置いていたカバンに手を伸ばし、取り出した手紙を荒北に差し出した。
「んだよ、まだ開けてねーじゃねーか。読んだらァ?」
「でも、オレのじゃないしな」
「はぁ? オメー宛だろ。嘘つくな」
「いや、オレ宛なんだけどオレ宛じゃないっていうか……」
「わけわかんねーこと言ってンじゃねーよ。オレの前じゃ読めねぇってことか?」
 見下ろしてくる視線の中に冷ややかなものが含まれている。迫力に気圧されて、仕方なく新開は手紙の封を開けた。
(すまねえオレ。先に読んじまうけど勘弁してくれ)
 心の中で謝罪しつつ、便箋を取り出して目を通す。そこには思った通りに愛を伝える言葉が可愛らしい文字で書かれていた。
「なになにィ? 『新開先輩のことが大好きです』ねェ。オメーを好きになるとは見る目あんじゃねーか。まー、オレには敵わねぇけどォ」
「え?」
「なんで『意外なこと言われました』みてーな顔してんだよ。ったりめーだろ。オレ以上にてめェに惚れてるヤツがいてたまるか!」
 携帯電話を枕元に放り投げて、荒北が新開めがけてダイブする。大きな音を立ててマットレスが軋み、ベッドの上でふたりが弾んだ。驚いている間に荒北が抱きついてきて、新開の首筋に頬をこすりつけてくる。
「急に何するんだ!?」
「うるせー、黙ってオレに抱かれてろ」
 荒北はさらにグリグリと顔を押しつけた。やめろと言っても言うことを聞かず、じゃれているのか鎖骨付近に歯を立てて何度も甘く噛んでくる。
「靖友、マジでくすぐったいって。そんなにオレを噛んでどうする気だ? 旨くないだろ?」
「旨ぇよ。お前のもんなら何でも旨ぇ」
「旨いって……まさか。冗談だろ」
「冗談じゃねーヨ。あー、マジでガブッと食っちまいてぇ。そしたらオレだけのもんになんのによォ」
「ええっと……靖友?」
「オメーがモテんのはしょうがねぇよなァ。だってオレがこんなに惚れちまうンだぜ? 他のヤツが惚れんのも当然だろ。あー、マジでよォ、なんでこんなにいいツラしてんだ? オレの男はこんなにいい男なんだぜって、いろんなヤツに自慢しまくりてぇ。なあ新開、オレさァ好きすぎてやべェんだって。オメーがどうかは知らねぇけど――いや、やっぱオメーもオレだけじゃねーとフェアじゃねェよな。なぁ新開、オメーもそう思うだろ? だからさァ……」
 不意に荒北が身体を離して新開の上に跨った。うっとりした表情で微笑み、舌先で新開の唇を舐めながら両手で頬を包む。手のひらが頬を撫で、顎のラインをなぞり、首筋に滑り落ちていく。
「愛してるぜ新開。でもよォ、そろそろ我慢の限界だ」
「っ!?」
 一気に喉を絞められた。肌に指が食い込んできて呼吸が止まる。おまけに唇も塞がれてしまい、ますます息ができない。涙が滲んで視界が揺らぎ、顔がどんどん熱くなる。荒北の指を引き剥がそうともがいた途端に荒北が手を離した。
「なっ……はぁッ、うっ……やすっ、と……なんでっ」
「オメーはオレのもんだ。なら、そろそろ独り占めにしてもいいと思わねェ? ナァ?」
 ニッと目を弧にして笑う荒北が涙で歪む。咳きこんで目をつむったところで新開の視界が暗転した。
 

***つづく**

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