【新荒】そして新荒になる③

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高校3年のつき合っていない新荒です。
『そして新荒になる②』の続き。

《注意》
③に登場する荒北さんは先輩で洋南大学1年の荒北さんと、後輩で幼馴染な荒北さんです。(後輩くんは新開さんを「隼人クン」と呼んでいます)

 
5.
「……かい、新開っ」
 名前を呼ばれて我に返る。右隣りにいた今井が心配そうに顔を覗き込んでいた。
「大丈夫か? さっきからボーッとしてるけど、具合悪いんじゃないよな?」
「今井……あれ……部室? そうだ、首、首は!?」
 慌てて首をさすったが痛みも息苦しさも何もない。だが、食い込んでくる指の感触を思い出した途端に嫌な寒気が全身を冷やした。
(確かに絞められたはずなのに……ここはまた別の世界ってことなのか?)
 荒北の姿はなく、寮の自室にいたはずが自転車競技部の部室に変わっている。新開は額に浮いた脂汗を手の甲でぬぐうと、「なぁ今井、オレはいつからここにいる?」と声をひそめて問いかけた。
「はあ? いつからってずっといただろ。おいおい、まさか寝ぼけてるんじゃないよな? ミーティング中に寝るのはさすがにヤバイって」
「ミーティング……」
 周囲を探るように視線を動かすと、向かいに立っていた福富と目が合った。
「何かあるのか、新開」
「いや、何も」
「意見じゃないなら私語は慎め。ミーティング中だ」
「ああ。すまない。続けてくれ」
 隣りでは今井が顔の前で手を合わせて謝罪のポーズをとっている。福富は軽くため息をついた後で言葉を続けた。
「今日は先輩方が指導に来てくださっている。貴重な時間だ。全員しっかり励むように」
 福富の言葉を合図にして部室の扉が開き、数名の卒業生が入ってきた。
 OB訪問は珍しいことではない。それよりも4人目に興味がある新開はOBに頭を下げて挨拶しつつ、荒北がどこにいるのか視線を彷徨わせて探し始めた。しかし、整列している部員たちの中には彼の姿が見当たらない。おかしいなと首を傾げたところで「うーっス」と聞き慣れた声がした。
「ん? え……え!?」
 最後に登場した人物に目が留まる。がに股で猫背気味の背中、不敵な笑みと気だるそうな歩き方。
「や、靖友!?」
 驚きすぎたせいで予想外に大きな声が出てしまった。名前に反応した荒北が「あぁ? 誰だ今の」と睨みを効かせ、部員たちが一斉に息をのんで新開を見る。
「今のはオメーか、新開。呼び捨てたァいい度胸してンじゃねーか」
「おめさんそこで何してんだ? なんで私服?」
 荒北が着ているものは制服でもなく、箱根学園のサイクルジャージでもない。なぜ彼は私服でいるのか。なぜOBと一緒に並んでいるのか。なぜ彼は洋南大学と書かれたスポーツバッグを持っているのか。
 事態を飲み込めない新開がまじまじと荒北を見つめていると、彼はゆっくりした足取りで近づいてきた。視線がふたりに集中し、部室内に緊迫した空気が満ちる。新開の前に立った荒北は「てめェ、さっきなんつった?」と低い声ですごんできた。
「え……?」
「オレが入ってきたときだヨ。なんて呼んだ?」
「なんてって、靖友って……」
 二度目の名前呼びに部員たちがもう一度息をのんだ。視界外のどこかから「ヤバイって」「アイツ殴られるぞ」と囁く声が聞こえてきて、室内が静かにざわつき始める。荒北も片眉をピクリとさせて「ヘェ」と呟いたが、
「靖友先輩、だろ? ったく、相変わらず馴れ馴れしい野郎だな」
と、不意に表情を崩した。
「先輩!? 靖友が!?」
「だからァ呼び捨てすんなっての。てめェ、覚悟しとけよ。今日は立てねェくらいしごいてやる。って、先言っとくけど下ネタじゃねーからな」
 荒北が茶化したおかげか部室内の空気が一気に緩んだ。ホッとした空気が流れて、今井が「先輩、相変わらずっスね〜。マジでビビったぁ」と胸をなでおろす。
「演技だヨ、演技ィ。ったく、どいつもこいつも騙されてんじゃねーよ」
「いやー、アレは騙されますって」
 呆気にとられている新開をよそに荒北を中心にして部室内が沸いている。荒北が先輩だということも、後輩にいじられていることも、彼がそれを受け入れているらしいことも、何もかもが衝撃的で、新鮮で、有り得ない。新開は言葉を失ったまま、目の前で交わされているやり取りをただただ眺めていた。
  
 
*
 ひとつ上の先輩で元エースアシスト。現在は洋南大学工学部に在籍し、大学近くのアパートで一人暮らしをしている。不良っぽさはそのままだが性格は人懐っこく、下ネタや冗談を好んで言い、後輩とも仲がいい。これが部活中に知り得た4人目の荒北の情報だった。
 
「おい新開、待てって。どこ行くンだよ」
 部活を終えて正門に向かっていると、追いかけてきたらしい荒北に呼び止められた。
「ん? 靖友? あ、ええとそうじゃなくて、靖友先輩お疲れ様です。今日はありがとうございました」
「オメーは何帰ろうとしてんだヨ。ほら、行くぞ。あっち停めてあっから」
「え、あっち? うわっ、急に何すん――
「いーからいーから」
 強引に肩を組んできた荒北が「行くぞ」と告げて歩き出す。がっしりと肩を掴まれてしまっては逃げようがなく、素直に従うしかない。連れていかれる理由も目的地もわからなかったが、どうやら向かっている先は学園内の駐車場のようだった。
「えっと……どこに行くんですか?」
「どこってオレんちだけどォ」
「オレんちって……確か靖友先輩って今は静岡ですよね!? なんでオレが? それに外泊届も出してないし」
「ちゃんと出したって昨日メールで言ってたろ。お前なんか今日は変だぞ。大丈夫かヨ」
「……はい」
「『はい』だァ!? 笑える。スゲー他人行儀じゃねーか」
「……」
「まーいいけど。おい、見えるか、あの黒いやつ。あれが前に話したオレの車ァ。いいだろ。あ、荷物は後ろな」
 荒北が指差した先には『アウトドアに強い!』を売りにしたCMが話題のミニバンが停まっていた。
「オレの車ってことは、おめさん免許持ってんの!? すげぇなあ。かっこいいなあ」
「だろ? って、車は残念ながら中古だけどな」
 目を輝かせる新開に荒北は車の鍵をチラつかせて得意げに笑う。
「靖友……さん、は」
「ハッ! もう靖友でいいぜ。つーかオメーなぁ、ふたりんとき以外で名前で呼ぶなって言ったろ?」
「ん? あー……すいません。つい癖で」
「癖って……オレがいねーとこでそう呼んでンのかよ?」
 少しだけ目を見開いて驚いた後、なぜか荒北は満更でもない顔をして自身のうなじを手のひらで2回さすった。新開が知っている方の荒北は照れたときにこの仕草をする癖がついている。もしかしたらこの荒北も似たような癖を持っているのかもしれない。目の前の荒北に元の荒北がダブって見えて、新開は訳もなく無性に彼に会いたいと思ってしまった。
「まぁなんだ。オレらの関係がバレたらマジィだろ。だからこれからは気をつけろよ」
「……はい。すみません」
「ったく、急に呼ぶから焦ったぜ。まぁ、ちょっとテンション上がったけどな」
 へへ、と照れくさそうにはにかんだ後で荒北が「乗れよ」と助手席を指差す。少しだけ躊躇したがとにかくここは流れに身を任せるしかない。新開は車に乗り込み、荒北と共に箱根学園を後にした。
 
 
 小田原から西へ下り、沼津インターチェンジで東名高速に乗る。約1時間ほどのドライブは順調に進んでいて、運転席に座る荒北は大学生活のアレコレを話してくれた。
(大学生か……靖友が進学したならこんな感じになるのかな。いや、そもそも進学するのか? 将来の話なんて一度もしたことなかったし……そうか、卒業と同時に離れちまう可能性もあるんだよな)
 正直なところ、夏のインターハイのことで頭がいっぱいで、その後のことはまだまだ先の話だと思っていた。
 まだなんとなくでしかないが、新開は明早大学を目指すつもりでいた。荒北が地方の大学に進学したり、関東圏外の企業に就職したりするなら、高校を卒業した時点で彼とは離れることになる。
(卒業したらみんなと……靖友と、離れる……)
 それは少なからずショックだった。
 入学の先には卒業が控えているし、出会いがあれば別れもある。小学校、中学校と同じように繰り返してきたからこそ今は箱根学園に在籍している。意識すらしてこなかった『卒業』という社会的通過儀礼が、今はなぜか受け止めきれない。
 黙り込んでしまった新開を茶化そうとしたのか、
「お前、 オレがいねェからって浮気なんかしてねーだろーなァ?」
と荒北がニヤつきながら問いかけてきた。
「え、浮気?」
「まぁ、べつにしてもいいンだけどよォ。でも、バレたらどうなるかわかってンだろーな?」
「ど、どうなるかって……?」
「ハッ! うそうそ、冗談だっつーの。そんなにビビんなよ。いつものお返しだ」
「いつものお返し?」
「浮気してねぇかとか、合コン行ってねぇかとか、オメーいっつもうるせェだろ? してねェって言ってんのに、いい加減信用しろっての。今は盛りのついたガキの相手だけで手いっぱいだぜ」
「そのガキってのはオレのこと?」
「ったりめーだろ」
「……ひとつしか歳が離れてねぇくせによく言うよ」
「あぁ? なんか言ったかァ?」
「いや? 何も。空耳じゃないか?」
「あっそ。可愛くねーガキだぜ」
 可愛くないと言うくせに荒北の表情は柔らかい。こんなにも優しく笑う荒北は見たことがなくて、動揺した新開はあからさまに視線を逸らしてしまった。
「なんだよ、久しぶりだってのに冷てェなぁ」
「……おめさんのせいだろ」
「あ? オレの? おいおい、まだなんもしてねーけどォ? あー、まだなんもしてねぇからか。ハッ! 家着くまで我慢な」
「なっ……! べつに……そういうんじゃない」
「今日はオメーも部活で頑張ってたし、オレも気分がいい。ご褒美に好きにしていいぜ? めちゃくちゃにさせてやるよ。どうだ? 嬉しいだろ」
 暗に何かを含ませた言い方がドキッとさせる。にわかにドキドキし始めた鼓動を落ち着かせたくて、新開は火照り始めた顔を隠すように窓の外を眺めるフリをした。窓ガラスに映る顔が赤い。
 顔の火照りが収まるまで、隣りから聞こえてくる鼻歌をBGMに景色ばかり眺めていた。きっとこの世界の自分はとても大事にされているのだろう。そう思わせるほどに荒北の運転は丁寧で慎重で穏やかだった。
(なんだろう、安心する……)
 車の揺れが眠気を誘う。部活の疲労も相まって、瞼がどんどん重くなってきた。
「どうした、ねみィのか?」
「ああ……ちょっとだけ」
「ハッ! どこがちょっとだよ。もう寝落ち寸前の声じゃねーか。寝てていいぜ。着いたら起こしてやるヨ」
「う、ん……」
 瞼が落ちきる前に運転席の荒北を見る。ハンドルを握っている彼はとても大人びて見えた。
「靖友、かっこいいなおめさんは……」
「ハッ! そーかよ」
 伸びて来た左手が頭に触れる。ポンポンと撫でてくる手の感触が心地よくて、「オレはオレが羨ましいよ」と無意識に呟きながら新開は夢の世界へ意識を落とした。
 

6.
 揺れているのか、それとも宙に浮いているのか。身体がフワフワした感覚に包まれていた。
「おい、起きろよ」
(……そうだ。ついうとうとしちまって)
「なぁ、起きろって」
(……うん、わかってるよ靖友さん)
「起きろってば! 隼人クン!」
(ん? 隼人……くん?)
 名前を呼ぶ声に引っ張られて意識が浮上していく。まだ重たい瞼をこじ開けると、視線の先に荒北の顔があった。目が合った途端に眉間にシワが寄り、あからさまに不機嫌な顔をして新開の肩を揺さぶる。
「やっと目ェ開いた! ったく、今日は一緒に走る約束だろ?」
「ん……? もう着いた?」
「着いたってどこにだヨ。寝ぼけてないでちゃんと起きろっての」
「……どこって……静岡だろ?」
「はぁ? マジで何言ってんだヨ」
 芝居がかったため息をついて荒北が新開の顔を両手で挟む。頬をぐりぐりと揉んだ後で「もうすぐ昼メシの時間なンだけど」と口を尖らせた。
「隼人クンなんで二度寝してンだよ。ぜんっぜんロビー来ねェからさァ、おかしいなと思って見に来たらコレだもんなァ……ったく、昼メシ奢って貰うだけじゃ足りねェって」
「二度寝……? っていうか隼人クンって……」
「なんだヨ、ふたりっきりなんだから今はいいだろ」
「いや、そもそもおめさんはそんな呼び方は一度も――
 噛み合わない会話のおかげで眠気が覚める。目の前の人物に違和感があった。さっきまで一緒にいた荒北に比べて容姿が幼く、髪の毛も短い。1年前の荒北に似ていると気づいた瞬間、新開は荒北をベッドの下に蹴落とす勢いで飛び起きていた。
「ここ……オレの部屋!?」
「っんだよ急にィ。危ねぇなァ」
「お、おめさん何歳だ!?」
「何歳って17だけどォ?」
「17ってことは……2年、だよな!? じゃあオレは!? オレは何年だ?」
「マジでさっきからなんなんだよ。隼人クンは3年だろ? まだ寝ぼけてんの?」
 先輩の荒北がいたのだから後輩の荒北がいてもおかしくはない。そうわかってはいても、こうして実際に目の前に現れるとなかなか理解が追いつかない。
「や、靖友が年下……」
 驚く新開をよそに荒北はなぜかキラキラと目を輝かせ、新開を見つめながらじりじり距離を詰めてくる。
「……ど、どうしたんだ、靖友」
「やっと呼んでくれた……嬉しい」
「え?」
「だって隼人クン、ハコガク入ってからそっけねェんだもん。ハコガクって寮だから長期休暇以外は帰ってこねぇだろ? そのせいであんま会えねぇし、話せなくなっちまったし。オレがハコガク入ってやっと追いついたって思ったのに、今度は『隼人クン』じゃなくて『新開先輩』って呼ばなきゃダメだし、隼人クンも荒北ってしか呼んでくんねーし。だから、靖友って久しぶりに呼ばれんのスゲー嬉しい」
 四つん這いの姿勢で荒北が詰め寄り、新開の上半身に勢いよく抱きついてきた。押し倒される形でふたり一緒にベッドに寝転がる。ぎゅっとしがみついてきた荒北は新開の胸板に頭をすり寄せて、撫でてくれと甘えた声で催促した。
「……起きるんじゃなかったのかい?」
「へへ……ちょっとだけ」
「なんだか調子狂うなあ」
「なんでだよ。あー、隼人クンの匂い久しぶりだナ。3年の部屋ってあんま近寄れねェし」
「おめさん、そんなの気にするタイプだっけ?」
「そりゃーまぁ多少はァ? 一応2年だし。って、いいから早く頭ァ。手ェ止まってる」
「ん? あー、悪い。ちょっと照れくさくてね」
「なんで今さら恥ずかしがってンだよ。昔っからこうしてただろーが」
 荒北は新開の右手首を掴むと、強引に持ち上げて自分の頭に乗せた。「ほら、早く」と言いながら握った手首を動かし、自らの頭を撫でてみせる。仕方なく新開が頭を撫で始めると、荒北は満足したのか手首を離して目を細めた。
「おめさん、こんなに甘えたがりなのか?」
「なんだヨ、ワリィかヨ」
「いや、悪くはないけど……ちょっと意外だったから驚いてる」
「昔はさァ悠人がいたから甘えンの我慢してた。隼人クンが自転車始めてどんどん有名になってって、ガキの頃って足が速ェとか、野球がうまいとか、スポーツできるヤツがモテるだろ? オレの周りでも隼人クンって結構人気あったんだぜ? スゲーヤツと幼馴染ってのはオレの自慢だったけど、でも、傍で見てるだけってのも結構焦るっつーか……だから、今こうやってつき合えてンのが夢みてェなんだ。ぜってーダメだって思ってたから、OK貰えたときはマジでビビったしマジで嬉しかった」
「……そう……なんだ」
 幼馴染で、後輩で、恋人。「属性盛りすぎだな」と思わずフッと頬を緩めてしまい、笑っている理由がわからない荒北がキョトンとした顔で首を傾げる。
「なあ靖友、おめさんは自転車は好きかい? 走りに行く約束してたってことはチャリ部なんだろ?」
「え、なんだよ突然」
「どう? 楽しく走れてる?」
「そりゃー隼人クンと一緒だし、面白くねェわけねーだろ?」
「そうじゃなくてさ。自分のために走れてるかい?」
「自分のためェ? レースで勝ちゃ楽しいぜ? あと、前走ってるヤツを抜かしたときな。追いかけてるときってアドレナリン出まくってんだろーな。メチャクチャ燃えるし、ハンパじゃねーくらい興奮する。あ、そーだ。こないだの真鶴のクリテ、ちゃんと見てくれた? 隼人クンに教えてもらった通りにやったらさァ――
 自転車について無邪気に語る荒北が微笑ましい。慣れない手つきで彼の頭を撫でながら「うん、うん」と何度も相槌を打って話を聞いた。
 新開が知っている荒北は、自転車についてこんなにも楽しそうに語るだろうか。なぜ自転車に乗るんだと訊いたとき、好きだからとは言わなかった。あれからかなりの時間が過ぎたが、今同じように問いかけたとしたら自転車が好きだと答えてくれるだろうか。
「靖友」
「んー?」
「強制するわけじゃないけどさ、この先もずっと自転車に乗っててくれよ。オレ、走ってるおめさんが結構好きなんだぜ。もちろん一緒に走るのもな。急かされながら引いて貰うのも、罵られながら背中叩かれんのも、下手くそすぎる誉め言葉も、全部が好きなんだ。自転車を辞めないでくれて感謝してるし、オレ自身辞めなくてよかったって、今は心の底からそう思えてる」
「……なんの話だ? チャリ部辞めようとしてたのかよ?」
 新開はそれについては何も答えず、荒北の頭を抱きしめて自分の胸に押しつけた。「なっ!? 苦しいって! なんだよ、いきなり!」と、荒北が抜け出そうとしてもがいても離さない。腕の中の黒髪に顔を近づけ、「ありがとよ」と独り言を呟いてから唇をそっと押し当てた。
「隼人クン!?」
 荒北が呼んでいる人物は自分であって自分ではない。
(靖友……おめさんに会いてぇなあ)
 どうしても戻りたいのに、戻り方がわからない。どうしたら戻れるのだろうかと、初めて湧いてきた不安が胸を締めつけて苦しくさせる。
「靖友……」
 頭の中に荒北を思い浮かべながら、目の前の荒北を抱きしめてキツく目を閉じた。
 

***つづく***

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