【新荒】戻れない。

◆◆ caption ◆◆
・高校3年のつきあっていない新荒がAVを一緒に見ながらこすり合いっこする話。【R-18】

《注意》
・AVの中ですがセックス中の男女の会話があります。女優のセリフにところどころ♡が付いています。
・荒北さんが積極的です。
・不穏な感じのタイトルと表紙ですが、中身はエロしかありません。
・待宮くんの方言がふんわりしています…。

※2/24 続きをアップしました。→『戻らない。』

 
「後悔しないな?」

 後悔するわけがないと決めつけたような言い方がじつに新開らしいと思った。
「バーカ。後から悔やむから後悔って言うンだろーが。今訊くことじゃねーだろ」
 精一杯の虚勢を張って返しても、肋骨の内側では心臓が痛いほどに早鐘を打っている。心なしか語尾が震えてしまったが荒北はそれをごまかすために軽く咳払いして、必要もないのにあぐらをかき直した。
「いーから萎える前にさっさと済まそうぜ」
「それじゃあ……」
 恐るおそる伸ばされた手が触れる直前でピタリと止まる。「おめさんも」と催促する声には緊張と興奮がわかりやすいほど込められていて、感化された荒北の身体は体温をさらに上昇させた。
 熱に病んだように身体が火照る。顔に血の気が上ってくるせいか耳鳴りがうるさい。ゴクッと唾を飲む音が重なる中で、互いの手が相手の性器に伸びた。
 

*
 運動部が盛んな私立箱根学園は各種競技のインターハイ常連校である。授業以外の時間の多くは部活動で占められ、土日になれば朝から晩まで練習に明け暮れることもしばしば。学業においてもそれなりの成績を求められるので、勉強と部活以外のことは二の次になりがちだった。
 とはいえ学生も血の通った人間、それも、思春期真っ盛りで若い。男子はなにかと下ネタで盛り上がるし、女子は恋愛関連の噂話で忙しい。寮内でもいかがわしいDVDや雑誌が回ってくるのはしょっちゅうで、荒北靖友もそういったことに興味がないわけでもなかった。
「靖友、いるか?」
 ノックと同時にドアが開く。隙間から顔を覗かせた人物は新開隼人だった。荒北の返事も待たずに当たり前の顔をして室内に入ってくる。
「いるかって聞きながら開けたらノックの意味ねーだろーが」
「ん? 結果としていたんだからいいだろ?」
「オレがなんかしてたらどーすんだって話だよ」
「なんかって?」
「……わかってるくせに訊いてくんなよ。白々しい」
 荒北が何を言いたいのか本当はわかっている。新開はそんな顔をして、答える代わりに口元に笑みを浮かべた。
「で? 何しにきやがったんだ?」
「コレ、一緒にどう?」
 新開がかざした右手にはDVDのパッケージが握られていた。派手に装飾された文字と肌色多めの写真を見れば中味が何なのか一目でわかる。
「一緒にって、AVじゃねーか」
「ああ。今日オレんとこに回ってきたんだ」
「はぁ? だったらひとりで見ろよ」
「笑える内容らしくてね。ひとりじゃもったいないかなと思って」
「……もったいねぇの意味がわかんねェ。つーかなんでオレなんだよ。他にもいンだろ」
「寿一は見ないって言うし、尽八は今から電話らしいし、それじゃあ靖友かなって」
「ちょっ、てめェ福ちゃんに変なもん見せてんじゃねーよ!」
「寿一はまだ見てないよ」
「いいから、二度と誘うな! 絶対だぞ!? 福ちゃんにちょっとでも変なもん見せてみやがれ。ぜってー許さねェからな!」
「だからまだ見せてないって。まったく、おめさんは過保護なんだよなぁ。AVのひとつやふたつで騒ぐなよ。アイツだって年頃なんだぜ? こんなものとっくに見て――
「るっせ! いいから見せんな。代わりにオレが見てやっから」
 仕方なしにそう告げると新開は満足げに頷いた。
「……なんだそのニヤケづらはァ」
「おめさんならそう言うと思ってね。だから誘いに来たんだよ。準備してあるからオレの部屋に行こうか」
 すべては新開の想定内――。うまくのせられたことに気づいた荒北は、ため息をついて新開の背中を追った。
 

**
『男子調教シリーズ第4弾! 立場逆転、圧倒的攻められ放題』

「うわ……調教ものかよ」
「な? もうすでにタイトルで笑えるだろ?」
「第4弾って……シリーズ化されるほど需要あんのか?」
「あるから第4弾なんじゃないか?」
「……んなこたァわかってんだ。マジに返してくんな」
「ハハ、わざとだぜ。それじゃあ見てみようか。あ、靖友、電気消してくれ」
「あぁ? 電気ィ? ったく、てめェの部屋だろ」
「おめさんのがスイッチ近いだろ?」
「……へーへー」
 渋々立ち上がって照明のスイッチを落とす。真っ暗になった室内でポータブルDVDプレイヤーの画面だけが眩しい。それを目印に新開の隣りに腰をおろすと、イヤホンの片側を差し出された。
「開始5分くらいはドラマパートらしいんだけど、靖友はこういうのも全部見る口かい? オレはどっちでもいいぜ」
「オレもどっちでもいい。好きにしろ」
「じゃあ飛ばしちまおうか」
「おー」
 ふたりが無言で見つめる中、ディスプレイ上では2倍速でストーリーが進んでいく。
 人影がない放課後の教室で赤点の補習授業が行われていた。プリントに書かれた設問を解く男子生徒と、教壇に置いた椅子に座る女教師が映る。タイトスカートの裾がやけに短くて、彼女が何度も足を組み直すせいで生徒はプリントに集中できない。
「赤点って誰かさんと一緒だな」
「……うっせー。黙って見てろ」
「次の補修のときにコレ思い出したりしてな」
「なんで次があるって決めてんだ。次なんかあってたまるかヨ。つーか今はいいだろ」
 小声でたしなめると新開はニッと口角を上げてから再び視線を前に戻した。
(……なんでコイツとこんなの見てんだ? どー考えてもおかしいだろ)
 断らなかった自分に対して今更ながらため息がでる。新開がちらりと視線を寄越してきたが、気にするそぶりを見せただけで特には何も言わなかった。
 足ばかり見ていたことを注意されて、“罰”という名目で男子生徒は椅子に拘束されることになった。どこから取り出したのかわからない縄で後ろ手に腕を縛られ、女教師が彼の腿にまたがる。“開始”の雰囲気が漂ってきたところで、新開が「そろそろかな」と再生を通常倍速に戻した。
 
『足ばかり見てイケない子ね』
『みっ、見てません……』
『嘘。それじゃあなんでココが膨らんでるの?』
 
 細い指がスラックスの上から生徒の股間を乱暴に握る。教職員らしくない派手すぎるネイルが照明を反射してギラギラ光った。
 生徒のネクタイを乱暴に引っ張り、強制的に引き寄せた唇に教師が舌先を這わせる。ゆっくり丁寧に舐めながらネクタイを外して、外し終わると同時に深いキスをした。下唇を甘噛みし、唇の合わせ目に舌先をねじこんで唾液をからめる。わざとらしく音を立てて舌を吸いこみ、生徒の顎に唾液が垂れてもやめない。

『先生……』
『こうして欲しいって思ってたんでしょ? そういう目で見てたの、先生ちゃんと気づいてたんだから』
『……はい。ごめんなさい』
『ふふ。素直ないい子。いい子にはご褒美をあげないとね?』

 生徒の顎に伝う唾液を教師が右手の人差し指で掬い取った。その指と親指で輪を作り、掬った唾液を生徒に見せつけるようにして指の腹に塗り拡げていく。

『この指で先生が何するかわかる?』
『……い、いいえ。わかりません』
『そう? ほんとかなぁ?』

 教師はねっとりした種類の笑みを浮かべると、『舐めて』と言って指の輪を生徒の唇に押し当てた。生徒は少しだけ戸惑っていたが、『ほら、早く』と急かされるとたどたどしい動きで指を口に含んだ。上目遣いで教師を伺いつつ、じゅるじゅると音を立てて素直にしゃぶる。

『そろそろいいわ。よくできました』

 口内から引き抜かれた指の輪は唾液でべとべとに濡れていた。それを生徒の眼前にかざして、指の合わせ目を開いたり閉じたりしてみせる。そのたびに唾液の細い糸が指の間でいやらしく光り、紅潮した顔で大人しく待つ生徒はごくりと喉を鳴らした。
 教師は生徒の肩に乗せていた左手を滑らせてブレザーのボタンに触れた。それを左手のみで器用に外し、ワイシャツのボタンも外し始める。たっぷり時間をかけてボタンホールをくぐらせ、布の合わせ目に指先を差し入れてシャツをはだけさせる。露わになった乳首は愛撫を受けるまでもなく、すでに芯を持って立ち上がっている。

『この指はね、こうするの』

 2本の濡れた指がツンと立った乳首を挟んだ。それだけで生徒は上半身をくねらせ、喉奥で『う……』と呻く。教師はその反応に満足して微笑むと、挟んだ乳首を指の腹でこね始めた。
 つまんで、指先で弾いて、指を押しつけて潰す。生徒は徐々に呼吸を荒くしていき、耐えきれないような声を漏らしたあとはひっきりなしに喉を反らして喘いだ。

『気持ちいい?』
『はい……すごく』
『ふふ、よかった。ねえ、可愛い乳首が君のヌルヌルで濡れちゃったね。自分の唾で気持ちよくなっちゃうのって、どう? 恥ずかしい?』
『……は、恥ずかしいです』
『そうだよねぇ、恥ずかしいよねぇ。それじゃあ先生がもっともっとイジメてあげる』

 そこからは乳首を愛撫するシーンが長々と続いた。指でつまんだり、舌先で嬲ったり、口に含んで歯を立てたり。散々いじられた乳首はぷっくり腫れ、触れば指先に熱が伝わってくるのだろうとたやすく想像できるほど赤みを帯びている。痛そうに見えるが生徒役の男優は甘い声を漏らし続け、『先生、早く触って』ともじもじと腰を揺らして哀願していた。
「……乳首ってそんなに気持ちいいもんなのかな」
 突然聞こえてきた声でハッと我に返る。気まずさや恥ずかしさを忘れてしまうほど、いつしか画面に見入っていたらしい。「え? ナニィ?」と慌てて応えた声がうわずってしまった。
「乳首はそんなに気持ちいいのかなって」
「そ、そんなもん人によるに決まってンだろ」
「だよなあ。なあ、試しにちょっとオレの触ってみてくれないか?」
「え……え!? はぁ!? オメーのを!?」
「ああ。少しでいいから」
 ふざけているのかと思ったが、モニターのバックライトに照らされている新開の顔はいつになく真剣だった。好奇心に満ちた目がジッと荒北を見つめてくる。
「……マジでやんのォ?」
「頼む」
「……勘弁しろヨ」
 顔をしかめてみても新開は「気になるだろ?」と言って譲らない。実際に触って確かめるまでは諦めそうにもなく、これ見よがしに舌打ちした荒北は触りやすいように体勢を変えた。
「いくぞ。マジで触るからナ」
「ああ」
 おずおずと目の前のTシャツに手を伸ばす。意を決して胸を鷲づかみにし、胸筋を雑な手つきで揉んでみる。
「いててっ……! そうじゃない。乳首だって」
「うっせーな、わーってるっつーの! 今やろうとしたんだよ、今ァ。流れってもんがあんだろーが……つーか、なんでオレがこんなことしなきゃなんねーんだ」
 ブツブツと文句を言いつつ乳首をつまむ。
(ムカついたから思いっきりつねってやろーかァ!? ったくよぉ……)
 もちろんそれを実行することはなく、加減がわからないなりに指先でキュッとつまんでみた。DVDの真似をして指の腹でソフトにこねてみる。
「……ど、どうだ?」
「うーん……」
「オメーなぁヒトにやらせといてその反応はねーだろ!? イイのかワリィのかハッキリしろ!」
「そうだなあ……強いて言えばくすぐったいかな。よくわからないけど、勃つってほどでもない気がする。まあ、オレの場合はってことだけど」
 不意に伸びてきた手が荒北の胸元をまさぐった。拒否するより先に指先が乳首をかすめる。その瞬間に感じたことのない刺激が胸にはしって、「はっ、ぁんッ……!」と初めて出す種類の声が荒北の口から漏れていた。
「え……?」
 ぎょっとした顔で新開が手を止めた。その表情が自分が発したらしい声をまざまざと意識させ、これでもかと羞恥心を煽ってくる。新開の視線があまりにも居たたまれなくて、荒北は「ちげェ、違うって」と何も言われていないのに大きくかぶりを振った。
「靖友、今の声って……」
「いっ、今のはちげェ! なんかの間違いだ!」
「間違い? ほんとに?」
 新開の手のひらが胸を包んで軽く握る。荒北は反射的に自分の口を手で覆ったが、塞ぐのがひと足遅かった。指先がわずかに食いこんできただけで、甘い声と共に荒北は背筋をピンと伸ばしていた。
 揉まれるたびに手のひらで乳首が押しつぶされ、その刺激で徐々にツンと勃ってくる。Tシャツの下で存在を主張し始めた小さな塊を新開の親指が何度もこする。
「うぅ、んっ……ふっ、う」
「……おめさん、もしかして気持ちいい?」
「うっせ! やめ、ろッ……こすん、じゃっ……ねェッ」
「なあ、どうなんだ?」
「ンなわけあるかッ!」
「……そうは見えないぜ?」
「てっ、てめェ、っざけんな!」
 裾をまくろうとする手を慌てて掴む。しかし思った以上に力が入らず、服の中への侵入を完全に阻止することができない。新開もわずかばかり戸惑った顔を見せたが、荒北に手首を掴ませたまま服の中へ手を入れてきた。
 腹筋に触れる他人の体温が熱い。登ってくる指をどうにか避けようとして身体をよじったがそれでも新開は手を止めず、硬くなっている乳首を直につまんだ。
「あッ……!?」
 直接触られるのと布越しとでは受け取る刺激が全然違う。指先の感触や体温がさっきとは段違いで、荒北は掴んでいた新開の手首に思わず爪を立ててしまった。
 
『先生……乳首、熱い……』
『気持ちいい?』
『きもち、いい……です』

 とっくに見るのをやめているが、AVの音声だけは着けっぱなしのイヤホンに流れてくる。教師による乳首への愛撫はまだ続いているらしく、男優の喘ぎ声と荒い息遣い、ぴちゃぴちゃ舐める卑猥な水音が絶え間なく鼓膜を犯してくる。AVに影響されて始まったのだから当然なのだが、状況も相まって荒北は男優に自分自身を重ねてしまい、新開もそれに気づいているのか乳首への愛撫をやめない。
「靖友、気持ちいい?」
「んぐっ、うっ……ざけんな、いいわけねーだろ!」
 虚勢を張っても声が震える。気づかないフリをしたかったが、妙な昂ぶりが身体の奥底にじわじわと溜まり始めていた。気を抜いたらおかしな声が出てしまいそうなのに、荒北が必死にこらえればこらえるほど勝手に漏れる声が震える。
「……濡らしたらどうなるかな」
 ぽつりと新開が呟く。荒北がその意味を理解したときにはすでに指先を咥えさせられていた。人差し指が舌の表面と頬の内側に無遠慮に触れる。驚きと防衛本能が咄嗟に口を閉じさせ、指を齧られた新開は慌てて指を引き抜いた。
「てめェッ、なっ、ナニしやがんだ!」
 怒鳴って睨んでも新開は怯まない。荒北のTシャツを強引にたくしあげて、露わになった乳首に濡れた指を押しつけてきた。
「てめェ何やって――
 初めての感触が荒北の言葉を遮った。
 唾液で滑らかになった指先が乳首を巻きこんで円を描く。濡れた乳首をいじられると、あまりの気持ちよさに全身に鳥肌が立った。下腹部に熱が集中し始めて、ヒクつく性器は半勃ち状態になっている。
 唾液を塗りたくられた乳首は刺激を受けたせいで益々ぷっくりと立っていた。爪先で軽く弾かれても、押しつぶされても、クニクニとこねくり回されてもすぐにピンと張った状態に戻る。薄皮の下にトロ火に似た熱を灯して、新開の指が与える快感を何でも貪欲に吸収してしまう。
「……可愛い乳首が靖友のヌルヌルで濡れてるぜ。自分の唾で気持ちよくなっちまうのってどう? 恥ずかしい?」
「え……ハァ!? なにをっ……!?」
「だから、可愛い乳首が――
「うっせー! 聞こえてる! 繰り返すンじゃねェ!」
 先ほど聞いたAVの台詞だった。しかし、よく見ると新開は自分から言いだしたくせに少しだけ照れくさそうな顔をしている。なぜか荒北もつられて恥ずかしくなってしまい、慣れない言葉責めに気分が冷めるどころか余計に身体が熱くなった。
(こっ、ここはツッコむとこか!? でもなんて言やあいいんだ!? クソッ、変なこと言いだしやがって! つーかマジでなんか言わねェと、このままじゃオレがもたねェ……!)
 どう答えたらいいのかわからないが、無言の時間が耐えられない。羞恥心と闘いながら言葉を探して頭をフル回転させていると、新開が「なあ、どう? 恥ずかしい?」と目を覗きこんできた。
「ふっ……ざけんなッ」
「そこは『恥ずかしい』って答えるところだろ?」
「は!? だっ、誰が言うかっ!」
「……素直じゃないよな、靖友は」
 不意に身を屈めた新開は荒北の胸元に顔を近づけると、ツンと尖った乳首に吸いついた。
「ゔっ……!? 新っ、か……あッ!?」
 ぢゅうっという音と共に乳首が前に引っ張られ、唇の内側の柔らかい感触に包まれて荒北の全身がゾクゾク震えた。未知の強い快感から身を守ろうとして自然と背中が丸くなる。だが新開は胸に吸いついたまま離れず、荒北がどこにも逃げないよう背中に両腕を回して抱きついてくる。
「待っ……新開ッ、てめェ吸うな! 一回離せ!」
 胸元の頭を押しのけようともがいてもビクともしない。唇で乳首を挟んだり、乳輪ごと舐めるようにして舌先を押しつけたり、ときに歯を立てて甘噛みしたりと、数分前に見た愛撫をそっくりそのまま真似てくる。
「マジでっ……いい加減、にっ……しろ! あ……は、離せっつーの! ふっ、うぅっ、はぁっ、あッ……てめっ、ぶん殴るぞ!」
 掠れ声のせいで脅し文句がキマらない。所々に吐息が混じるせいで迫力は皆無だった。
「ハッ、う……うぐっ、はぁ、あ、新開っやめっ……ふうっ、うっ……」
 最初は遠慮がちだった愛撫も、荒北が喘ぐせいか段々と手加減なしになっていた。強めに舌を押しつけられると声の抑えが効かなくなり、やや高めの声が喉の奥から漏れてしまう。自分はこんなにも感じやすいのかと、そんなウィークポイントは知りたくもなかった。だが、それを嘆いてもすでに遅い。拒んではいるが新開の頭を押さえる手に力が入らず、形ばかりの抵抗になっている。
 乳輪ごと乳首を口に含んだ新開がゆっくり歯を立てた。
「んんっ!?」
 思わず荒北は上半身をのけぞらせてしまい、そのせいで噛まれた部分を自分で引っ張る形になった。歯はそれほど食いこんでいなかったのか痛みは少ない。代わりにジンとした快感が噛まれた箇所から湧いてきて、「しんっ、かい……」と意図せず甘い声で呼んでいた。
 ちゅ、と軽めのリップ音が胸元で鳴る。反っていた上半身をゆっくり戻すと、困惑した表情の新開と目が合った。
「……っだよ、その目はァ。オメーのせいだろ」
「……ああ。正直まいってる。まさかこんな……」
 何かを言いかけた新開が言葉の代わりにため息をついた。ごくりと唾を飲みこんだあとに眉尻を下げて曖昧な笑みを浮かべる。
「……オメーがため息つくなヨ。こっちがつきてェっつーの。で? 何を言いかけたんだ?」
「いや……言ったら怒るだろ?」
「あ? なんなんだよ。気になンじゃねーか」
「怒らないって約束してくれるんなら話すよ」
「あァ!? めんっどくせーなァ。さっさと言えヨ」
 状況が状況なだけに普段よりも棘のある声が出てしまった。乳首が丸出しの状態は恥ずかしくてどうしようもない。
 新開は数回咳払いしたあとで、いかにも言いにくそうに口を開いた。
「……まさかこんなに反応がいいと思ってなかったんだよ。完全に予想外でまいった。なんか……勃っちまった」
「え……えぇ!? 勃ったってお前マジかよ!?」
「なんでおめさんが驚くんだ? そっちだって」
 新開がやんわりと荒北のスエットパンツに触れる。すでに充分硬くなっている性器が手を押し返すように脈打ち、「……すごいな」と呟いて新開がそれを握る。
「うっ……オイ、なに気軽に触ってんだ。触んじゃねーよ!」
「よかった。ちゃんと気持ちよかったんだな。まあ、見てればわかったけどさ」
「ばっ、バァカ! んなわけあるかっ」
「それじゃあなんでここが膨らんでるんだ?」
「……てめェ、さっきからわざとだろ。真似すんのやめろ」
「ん? 真似?」
「え、えーぶいの……センコウのセリフだヨ」
「ああ、『なんでここが膨らんでるの?』ってやつ? おかしな話だけど、靖友を見てると教師側に感情移入しちゃってね。反応いいし、もっといじめたくなっちまう。それにおめさん、やめろって割りには萎えてないんだけど……なあ、なんで?」
 手の中のものを新開が服の上から上下にこする。布越しのもどかしさはあるが、脳を痺れさせるような甘い刺激が陰茎から腰に広がった。
「てめっ……はぁ、あ、こすんなっつーの!」
「そんな目で言われてもなあ」
「あぁ!? っざけんなよ、あっ、うぅ、っんでオレばっかり……! おい、てめェのも握らせろ!」
「えっ!? オレの!?」
「ったりめーだ。やられたまんまでいられっかよ」
「……靖友ってほんと律儀なくらい負けず嫌いだよな」
「うっせ! オメーにだけは言われたくねェんだよ。オラッ、いいからさっさと出しやがれ!」
 新開のハーフパンツに掴みかかり、ウエスト部分を無理やり引っ張る。ふたりの耳から抜けたイヤホンが床の上に転がった。どうにかしてハーフパンツをずり下げようとする荒北と、おろされまいとして必死に抵抗する新開。息を荒くしながらの攻防がしばらく続き、下着が半分ほど見えてきたところで「わかったよ、わかったから」と先に新開が諦めた。
「まったく……このままだと破られちまいそうだ」
「ハッ! 最初っから素直にしときゃーいいんだよ」
「……とりあえず脱ぐけど、もちろんおめさんも脱ぐんだよな?」
「あ? なんでオレが」
「じゃないと不公平だ」
「はあ!? そっちが先に手ェだしてきたんだろ!?」
 語気を荒くしてなじると、新開は口をつぐんでうなじをかいた。ハァと意味深なため息をついて荒北を見つめる。
「まーたため息か。だからなんでてめェが――
 彼の瞳の中に何かが見えた。今までに見たことがない、欲情した知らない顔……目の前の新開と同じ顔の自分が映っていた。
「……そうだな。出すつもりはなかったのに、つい手がでちまったんだ。だって、あんな声を聞かされて、そんな顔を見せられたら……誰だって同じようにしたと思うぜ?」
 新開は勢いよくハーフパンツを脱ぎ捨てると、「おめさんも」と顎をしゃくって催促した。床の上にあぐらをかいた彼の股間は内側から下着を押し上げている。それを隠しもしない堂々とした態度に一瞬だけ感心してしまったが、荒北はすぐに気を取り直して負けじとスエットパンツを脱ぎ捨てた。
「ヒュウ。さすがだな」
「……何がだヨ」
「いい脱ぎっぷりだ」
「負けてらんねーからナ」
「……勝ち負けじゃないんだけどなあ」
「うっせー、ブツブツ言うな」
 新開と同様にあぐらをかいて、彼の正面に腰をおろす。すると新開が膝が触れあう場所までにじり寄ってきた。
「……ちょっと近すぎンじゃねェか?」
「触るんだろ? ならこのくらい近寄らねぇと」
「……そうだけどよォ……グイグイ来られっと調子狂うぜ」
「オレも靖友のを触っても?」
「あぁ? なんでだよ、オレのはもういいだろ!?」
「なんでって……理由なんかない。触りたいんだよ」 
 新開の手が荒北の右の膝頭を包む。たったそれだけの行為にもフワフワした快感がこみ上げてくる。
「うッ……! またっ、てめェは勝手に……!」
「ほら、そんな顔するから触りたくなっちまうんだぜ?」
「顔!? 顔なんか知るかッ! さっさとオレにも触らせろ!」
「触らせろって……すげぇこと言ってるけど、おめさんちゃんと意味わかってる?」
「あァ!? メンドクセーなぁ。わーってるっつーの。じゃなきゃ脱いでねーヨ」
「そうなんだけど……でも、この状況なんだぜ?」
「状況もクソもあるか。つーか、てめェが先に始めたんだろーが。どうせならどっちが先にイクか勝負でもするか?」
 フンっと鼻で笑って茶化してみる。もちろん冗談のつもりだったが、意外にも新開はまんざらでもない顔をした。そして「うーん」と唸って顎をさすると、急に真剣な顔つきになって荒北を見た。
「後悔しないな?」
「バーカ。後から悔やむから後悔って言うンだろーが。今訊くことじゃねーだろ。いーから萎える前にさっさと済まそうぜ」
「それじゃあ……」
 恐るおそる伸ばされた手が触れる直前でピタリと止まる。「おめさんも」と催促する声には緊張と興奮がわかりやすいほど込められていて、感化された荒北の身体は体温をさらに上昇させた。
 熱に病んだように身体が火照る。顔に血の気が上ってくるせいか耳鳴りがうるさい。ゴクッと唾を飲む音が重なる中で、互いの手が相手の性器に伸びた。
 

***
「そうだ、イヤホン」
 思い出したように新開が床に落ちているイヤホンを拾った。片側を自分の耳に着け、もう片方を荒北の耳に入れる。

『あっ……先生ッ』
『なあに? もっと奥まで挿れたい?』
『おっ、お願いします……』
『どうしようかなぁ。ねぇ、ちゃんとおねだりできる?』

 新開と荒北があれこれやっているうちにAV内ではすでに挿入を済ませていた。主導権は教師が握ったまま変わらず、床に寝そべる生徒の上にまたがっている。
「コレ、今さらいるかァ? もう見てねーのに」
「聞いてたほうが萎えないかもしれないだろ?」
 イヤホンは新開なりの気遣いらしい。この状況で今さら萎えるとは思わないが、特に断る理由もないので着けたままにした。
 下着の上から握った陰茎はこするたびにヒクヒクと反応し、興奮具合を荒北の手に伝えてきた。加減がわからず、強めに握ってしまったがそれでも反応は変わらない。チラッと視線を投げると気づいた新開が「大丈夫」と頷いて応え、「オレのも平気?」と問いかけてくる。
「……もっと……もっと強めに握ってもいいぜ」
「そう? じゃあ、これくらい?」
「うっ……そんぐらいでいい」
 お互いの指に力がこもる。陰茎の形に沿って指を動かせば、新開も同じ動きで荒北の性器をこすった。布越しに受ける刺激はもどかしいなりに気持ちがいい。無意識に腰を動かしてしまい、気がつけば新開の手のひらに陰茎をこすりつけていた。亀頭から漏れた先走りが下着ににじんで染みをつくっている。
「……なあ靖友。直接触るけど、いいよな?」
「え」
 答えるより先に新開の手が下着の中に潜りこんできた。躊躇なく陰毛を分け入ってくる手がくすぐったい。あっという間にカリ首を握られて、それだけで微弱な電気に似た刺激がはしった。
「うッ、はぁ、あっ……!」
「……ぬるぬるだな」
 下着の中から引っ張りだされた陰茎が新開の視線を受けてヒクついた。先走りが溢れる鈴口を親指で塞がれ、そのままグリグリと指を押しつけられて、たまらず荒北は歯を食いしばって声をこらえる。
「……てめェ」
 新開を睨んでも彼は指を止めない。先走りを亀頭に塗り広げながら、もう片方の手で自らの下着をおろし始めた。そして下着から片足だけ外すと、荒北の手を取って再び自分の陰茎を握らせた。
「う……直接だとまた違うんだな」
 荒北の指に反応して性器がヒクンっと小さく動く。手のひらに直接伝わってくる熱や吸いついてくる皮膚の感触、下着の中で蒸れていた匂いなど、自分と同じはずの物が他人というだけで性欲を煽る燃料になる。
 新開の真似をして先走りを亀頭に塗りつける。自分の性器をしごくときのように上下に荒く手を動かすと、「うぅっ」と新開が控えめに声を漏らした。
「……そんなに見ないでくれよ。恥ずかしいだろ?」
 手でしごきながら新開を見つめすぎていたらしい。照れくさそうに顔を伏せた新開は、自分の顔を隠そうとして荒北の肩に頭を乗せてきた。
「はぁっ、う、ふうっ、あ……靖友……」
 首筋にかかる息が熱い。荒北も真似をして新開の肩に頭を預ける。手の中の陰茎が脈打つたびに頬の下で肩がビクつき、それに伴って荒北の視界も揺れた。

『あっ、あっ、イイ! 気持ちいい……♡』
『先生、僕もっ……ああ……チンコ溶けそ……』
『先生の中でピクピクしてる♡ そんなに気持ちいい?』
『うっ、はぁ、あぁッ、気持ちッ……いいッ……』 

 聞えてくる喘ぎ声が派手になるたび、手の中の陰茎がピクッと跳ねる。しばらくはそれを聞きつつ、ふたりとも無言で手を動かしていた。
 鼻先に汗の匂いが漂ってくる。その匂いに誘われた荒北は目の前のうなじに唇を押し当てた。汗の匂いをかいで甘噛みし、舌を這わせて肌を舐める。
「んッ!? う、んんッ……!」
 勢いで耳まで舐めると新開が慌てて上半身を起こした。身震いして首をすくめ、「やめてくれよ」と力のない声で非難する。もしかして、と今度はハッキリした意思を持って耳たぶを噛んでみる。すると、思った通りに新開は今までに聞いたことがない濡れた声を漏らした。
「くッ……んんっ……!」
「ハッ! なんだ、オメーは耳か。ココ、弱ェんだな」
 ニヤリと笑った荒北は左手で新開のうなじを捕まえると、彼の耳にフッと息を吹きかけた。
「あッ……おめさん、さては遊んでるな?」
「遊んでねーヨ」
「嘘だ。絶対わざとに決まってる」
 顔を背けようとする新開の耳元で「さっきまでの仕返しだ」と囁く。しかし、新開は我慢しているのか低い声で呻くばかりで声をださず、さっきまで散々喘がされていた身としてはまったく面白くない。意地でも声を出させてやろうと、荒北は新開の耳に齧りついた。
 新開がどんなに頭を振って抵抗しても、荒北は彼の耳を追いかけた。舌先でべろりと耳輪を舐め、耳たぶを甘噛みして口に含み、ちゅ、ちゅ、と音を立てて軽く吸う。鼻先を髪の中にもぐらせるとシャンプーと体臭が混じった濃い匂いがして、その香りが荒北の性衝動をより一層強く掻きたててくる。
(やべェ……興奮する)
 耳への愛撫を執拗に繰り返していると、徐々に新開が声を漏らし始めた。
「んうっ……はぁ、あ、やすっ、とも……耳はっ、うっ……ほんとに……手ぇ止まっちまう、から……!」
 余裕のない声が荒北の陰茎を硬くする。荒北は自分が新開のその声に興奮していることに気がついた。
(……顔、見てェ)
 耳をひと舐めしてから、ゆっくり身体を離す。すると、見慣れた同級生ではなく、見たことのない顔の男が目の前にいた。赤らんだ顔、性欲に濡れた瞳、嗅いだことのない濃い雄の匂い。乱れつつある呼吸が半開きの唇から絶え間なく漏れている。
「……やってくれるじゃないか、靖友」
 渇いた唇をぺろりと舐める舌先が赤い。濡れていく唇を見ているうちにたまらない感情に襲われて、荒北は吸い寄せられるように顔を近づけていた。
「……新開」
 場の雰囲気に流されたのかもしれない。新開も荒北に顔を寄せ、ふたりの唇が重なった。
 互いの唇を夢中になって塞ぐ。とにかく押しつけあい、息継ぎで唇を離してもすぐにまた吸いついた。唇を噛み、舌をすり合わせ、甘いムードも順序もなく、ただただ貪るようにキスを交わす。
 キスの長さに比例して汗と精液の青臭い匂いが濃さを増した。陰茎は何度も脈打ち、手を上下に動かすたびに粘りのあるぐちゃぐちゃした音が鼓膜を犯す。握った陰茎は今にも射精してしまいそうなほど張りつめていて、新開の手でこすられる自分のそれも同じく熱い。
「靖友……」
 唇を離した新開が荒北の下着を引っ張って脱ぐように催促した。荒北が言われた通りに従うと、新開はふたりの陰茎がくっつく位置まで距離を詰め、座り直して2本をまとめていっぺんに握る。
「……おめさんも一緒に」
 それだけ言って新開が手を上下に一往復させる。裏筋にぴったり触れている陰茎の感触が慣れないが、手でしごかれると気持ち良すぎてどうでもよくなってしまう。荒北も新開の手ごと陰茎を握った。

『んッ、イイッ、あ……あんっ、そう、そこっ。もっと突いてッ』
『あぁ……気持ちいい、先生の中ぐちゃぐちゃでッ……気持ちいい、ですっ……』
『んっ……あんっ、んふふ。先生もすごぉく気持ちいい♡』

 AVの音声の中に新開と荒北の乱れた呼吸が混じる。新開はときおり手を止めると、
「う……気持ちいい……おめさんは? オレ、ちゃんとできてるか?」
と声をひそめて問いかけ、荒北は息を弾ませながら壊れたおもちゃのように何度も頷いた。

『せんせ……はぁ、あ……せんせいっ、せんせっ』
『ねぇ、奥ぐりぐりして? ん……うん、上手♡』
『そんなに締められたらっ……やばい、イキそ……』
『あっ、それ好きぃ、もっともっと! あ、んんっ、先生もうイッちゃいそう♡』
『お、おれも……もうイキそうですっ』
『うふふ、勝手にイッちゃダメよ?』

「靖友……はぁ、あっ、やす、ともっ……」

『あ、あ、でるっ……せんっ、せッ、イキたいですっ……! 出させてくだ……もっ、もう……出させてくださいっ』
『だしてっ、先生の中に全部だしてっ』

「靖友、やっばい、よすぎる……気持ちいい」
 吐き出す息も、手で握ったそこも、とにかく全身が熱くてたまらない。こんな状態は初めての経験で、イヤホンから聞こえてくる音声に興奮しているのか、それとも新開の声に興奮しているのか、もう判断がつかなかった。
 体内で膨れ上がった快感が手の動きを速めていく。歯を食いしばってこらえても、これ以上はもちそうにない。
「しんかいっ、あっ……もっ、ヤベェって」
「オレももう……やばっ、でそっ……!」
「新開、しんかいっ、イク、イク、でるっ」
「ハァ、あっ、靖友っ……!」
 二人が手を止めてすぐ、下半身に溜まっていた熱が一気に流れた。身体が硬直してガクガクと膝が震える。途端に青臭い匂いが鼻をついて、あぐらをかいた足の上に精液がぼたぼたと落ちてきた。精液のなまぬるい熱が冷えた足に吸われて消えていく。
 達したあとの虚脱感が抜けないが、恐るおそる目線を落として足元の惨状を確認した。足どころかTシャツも見事に汚れている。
「おい……すげーベトベトなんですケド……」
「あー……だな。オレもだ」
 新開は着ていたTシャツを慎重に脱ぐと、精液がこぼれないようグシャグシャに丸めた。手を伸ばしてティッシュを掴み、床と自分の足を雑に拭いていく。だいたい拭き終わったところで荒北にティッシュの箱をパスすると、立ち上がってクローゼットを開け、2枚のTシャツを取り出して片方を荒北のそばに置いた。
「オレの貸すから着替えてけよ」
「おー。ワリィな」
「Tシャツ……すぐに洗えばどうにかなるか。おめさんはどうする?」
「オレは捨てる。着るたびに思い出しそうだからナ。つーことでもう部屋戻るわ」 
「そう? それじゃ、また明日な」
「……おー」 
 自室に戻った荒北は汚れたTシャツをゴミ箱につっこむと、勢いよくベッドにうつ伏せに倒れこんだ。
「……バカなことしちまった」
 このまま溶けて消えてしまいたいと思うほど、後悔の念が次から次へと押し寄せてくる。

『新開、しんかいっ、イク、イク、でるっ』
『ハァ、あっ、靖友っ……!』

 油断するとふたりの痴態が容赦なく色鮮やかに浮かんでくる。荒北は衝動的に膝を抱えて丸くなり「……死にてェ」と心の底から呻いた。
 身に着けているTシャツのせいか、そこら中に新開の匂いが漂っている。身体の内側でたぎっていた熱はまだ冷めていない。彼の匂いを吸いこむたびに下半身がじわじわと熱を帯びていく。
 唇の感触。手の熱さ。手のひらで感じた脈動。青臭い匂い。初めて見る表情。声。吐息。あんな経験をしてしまったら、今までと同じ態度でいられるわけがない。
「クソッ……! あの野郎……」
 荒北は勃起し始めた陰茎を再び握った。
 

****
 あれからも度々DVDは回ってきたが、新開も荒北も互いを誘うことはなかった。ふたりだけの秘密を共有したまま時間だけが流れ、3月のよく晴れた日、何事もなかったかのように箱根学園を卒業した。
 
 
 月日が流れ、大学生になって2回目の春休み。3年への進級が決まってホッと胸を撫でおろしていた荒北は、晴ればれした気分で上富士市内の居酒屋にいた。
 テーブルの向かいには新開と福富が、荒北の右側には金城と待宮の順で座っている。この奇妙な飲み会はインカレの最終日に「たまには一緒に打ち上げでもどうだ」と金城が福富を誘ったことが発端だった。
 単位がとれたことで胸のつっかえがなくなり、荒北がビールを注文するペースが上がる。他の4人もそのペースにつられたのか、全員が1軒目にしてそれなりの酒量を飲んでいた。
「のう、福富、新開。お前ら、コイツのAVの趣味知っとるか?」
 トイレに立っていた荒北が席に戻ると、突然待宮が荒北を指さしてそんなことを言い出した。待宮の笑顔に荒北の第六感が嫌な気配を察知した。
「ん? 靖友のAVの趣味?」
「そうじゃ。ハコガクでもAVの貸し借りくらいはあったじゃろ? だいたいはそれで個人の趣味がバレるもんじゃけぇのう」
「ちょっ、待宮てめェ!」
 荒北がやめさせようとしても待宮は「まあまあ」と目を細めるばかりで聞こうとしない。
「昔はどうだったか知らんが、今はずいぶん変わった趣味を持っとる。名前はど忘れして思いだせんが、女に攻められるもんばっかり見よるんじゃ。妙なシリーズもんでのう、こないだなんかケツの開発の――
「うるっせーぞ待宮ァ! 嘘ばっか言ってんじゃねェヨ! てめェ、ぶっ殺されてェのか!? あァ!?」
「なんじゃ、ワシは本当のことしか言っとらんぞ。3日前にレンタルしたのが部屋にあったじゃろ」
「うるせー! 黙れ! それ以上喋ったらマジでぶん殴ってやる!」
「図星じゃからよう吠えるワ。エェ?」
「……マジでぶっ殺されてェみてーだな。よし、わかった。遠慮なくいかせてもらうぜ」
 待宮の胸ぐらに掴みかかった荒北が拳を大きく振りかぶる。慌てて金城がふたりの間に割って入り、いつものパターンでその場は終わった。

 1軒目の居酒屋をあとにして街中に繰り出す。2軒目の選択は金城と待宮に任せることにして、荒北は最後尾をダラダラと歩いていた。
「靖友」
 避けていたはずなのに気がつけば新開が隣りに並んでいる。彼と一緒にいた福富は前方で待宮に絡まれていた。
「……なんだよ」 
「さっきの……待宮くんが言ってたAVって、おめさんと一緒に見たあのシリーズだよな?」
 やはり来たか、と思った。先ほどの居酒屋でその話題になったとき、新開の表情だけが明らかに違っていた。まだ彼も覚えている――それに気づいてから荒北は落ち着かず、どことなく上の空になっている。
「……だったらどーなんだ。つーか蒸し返してんじゃねーよ。ほっとけ」
「もしかして前みたいに誰かと一緒に見たりしてるのか? 友達とか……彼女……とか」
「はぁ!? んなわけねーだろ! あんなんあの一回きりだ! つーかオレにオンナがいると思うのか!? 明早がどうかは知らねーけど、そっちと一緒にすんじゃねーよ! 生憎こっちはなァオンナはクラスに数人しかいねェし、喋ったことなんか入学してから数えるほどしかねェんだ! 虚しくなっから言わせんな、ボケナスがァ!」
「そうか、よかった……」
「あぁ? なんもよくねーんだよ。ったく、高校時代の黒歴史を思い出しちまったじゃねーか。てめェのせいでオレはあれからなぁ……」
「あれから?」
 話題を逸らしたいのに新開は追求をやめない。どうせ彼はすべてを察したうえで訊いているのだろう。そう思うと余計に腹立たしくなってくる。
「……なんでもねーヨ。つーか、さっさと行くぞ。ずいぶん離れちまってる」
 荒北が歩調を速めても新開は速度を変えず、それどころか荒北の腕を掴んで引き留める。道の途中でふたりの足が止まってしまい、先を歩く3人の背中が離れていく。
「あ!? なんだよ、置いてかれんぞ」
「……もしかして……忘れられなかったとか?」
「あ?」
「オレは忘れられなかったよ。あの日のことも……おめさんのことも。だって、あれから何を見てもヌクたびに思い出しちまうんだぜ? 最初はなんとか頭の中をごまかせても、ヌク瞬間はおめさんのことを考えてる。いつまでもこんな状態なんだよ。忘れられると思うか?」
 突然何を言い出すのかと、荒北は困惑して周囲を素早く見回した。往来が激しい交差点のせいか幸いなことに誰もふたりを見ていない。それでも荒北は新開の腕を振り払って、
「……オメーこんなとこでなんの話してんだよ」
と低い声でたしなめた。
「靖友は? 違う?」
「……いいから黙れって」
「頼むよ、靖友。おめさんがどう思ってるのか、ちゃんと教えてくれ」
「てめェ、しつけーぞ!」
「頼む」
 正面から見据えられてしまっては簡単に目を逸らすことができない。
 この日の飲み会が決まる前から荒北の中には何かがあった。おそらくそれはあの夜に種が撒かれ、じわじわと時間をかけて根を伸ばし、芽吹いたあとは花も実もつけないまま淡々と成長だけを続けている。見ないように、意識しないようにして心の奥底にひっそりと抱えて生きてきた。
(コレを言ったら関係が変わる。今度こそ確実に変わっちまう。コイツを今日、ここで、今、オレんちに呼んだら確実に何かが変わっちまう……それでもオレはコイツが欲しいのか?)
 正直に話すか、それともシラを切り通すべきか。
 ここで考えても答えが出そうにない。それならば、と荒北はゆっくり口を開けた。
「……おい、新開」
「ん?」
 まっすぐに見つめてくる瞳にはある種の期待が込められていた。同時にドロドロした光が目の奥に灯り始めている。欲情しているのだと彼の匂いが告げていた。
「……今、オレんちに第8弾がある……見にくるか?」
 緊張して声が掠れる。喉をおりていく唾の音がうるさい。この誘いには下心しかないのだが、少しでも正当化させるために「今日の宿も決めてねーんだろ?」と、それらしい言葉をつけ足した。
「……そうだな」
 静かな声が鼓膜に沁みる。その先を待つ荒北の心臓はドキドキと鼓動を速め、懐かしい熱が下半身に溜まり始める。震える手を握って拳をつくり、上着のポケットにつっこんで隠した。
「見に行くよ」
 新開が荒北を見ながら目を細めた。誘いに乗ればすべてが変わることをとっくに受け入れているような、むしろそれを望んで待っていたようなそんな顔をしていた。
(おいおい、もしかして今回も想定内だったんじゃねーだろーな……)
「おーい、お前ら。こんなとこで何突っ立っとんじゃ? 喧嘩か?」
 待宮の声にハッとして前方に視線を投げる。待宮を先頭にして福富と金城の3人がこちらに戻って来ようとしていた。
 彼らと目が合いそうになった荒北はなぜか顔を伏せてしまった。胸のうちに秘めてきた後ろめたい感情も、欲情し始めている顔も、今はうまく隠し通せる気がしない。
「すまない、今行くよ」
 荒北の心情を察したのか、それとも偶然か。反応できずにいる荒北の代わりに新開が手を挙げて応えた。
「オレが先に行くから、しばらく後ろに隠れといたほうがいいぜ」
「え……?」
「おめさんの顔がさ……今は他のやつに見せたくない顔なんだよ」
 それだけ告げると新開は先に歩きだして、前方で待つ3人に合流した。
「寿一、ちょっといいか? お言葉に甘えてさ、今日は金城くんの家に泊めてもらったらどうだ? オレは靖友のとこに泊めてもらうよ。で、また明日集合しよう」
「む……しかし――
 提案された福富がチラリと金城に視線を投げる。
「ん? さっきも言ったがオレは構わないぞ。お前との自転車談義もまだ足りないからな。こないだ話した袖ヶ浦エンデューロのDVDもうちに戻ってきたばかりだ。見たかったんだろう?」
「今日はワシも金城の家に泊まるつもりじゃけぇの。福富クン、たまにはワシと語り明かしてもエエじゃろ?」
「待宮はたまには遠慮してほしいところだが、お前は遠慮するな福富。うちに来るといい。1人も2人も変わらんからな」
「ほら、金城くんもこう言ってくれてることだしさ」
「そうだな……すまない金城。一晩やっかいになる。それにしても荒北はいいのか? さっきはかなり渋っていたようだが」
「大丈夫だって。泊めてくれるんだよな、靖友?」
 新開が振り向いてニッと歯を見せる。荒北を見るときだけ、誰にも気づかれずに彼は欲の匂いを漂わせる。
 手の熱さ。唇の感触。手のひらで感じた脈動。青臭い匂い。切羽詰まった声。熱い吐息。あの日のすべては2年たった今でも忘れられず、今夜を境にしてふたりの関係が確実に変わろうとしている。そうなってしまったらきっともう元には戻れない。

(それでも……オレはコイツが欲しい)

「ああ。構わねーヨ」
 身体の内側に熱をたぎらせて、荒北は薄く笑った。
 

***END***
※2/24 続きをアップしました。→『戻らない。』

-ペダル:新荒
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int(1) int(1)