【新荒】帰り際の攻防戦

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・遠距離恋愛中な大学生の新荒です。静岡にお泊りしていた新開さんが帰るときの話。
※話を書くリハビリ中のため、とっても短いです。

 
「……なぁ、マジで帰んの?」
「んー? マジも何も、そろそろ出ないと電車の時間に間に合わないからな」
「明日も空いてンだろ?」
「まあ、そうなんだけど。春休みが終わっちまう前に家の掃除もしたくてね。最近は土日も遠征で出かけてばっかりだったし、そろそろ片付けないとヤバくてさ」
「あと一泊したらァ?」
「いや、でも」
「まだいりゃいーじゃん」
「なんだよ、おめさん今日はどうしたんだ? あ、もしかして急に寂しくなっちまった? なんてな、ハハハ」
「そーだヨ。だから帰ンな」
「え」
「まだ帰るな」

 付き合って3年目で、遠距離になって2年目。帰るなと向こうから言われたのはこれが初めてだった。
「掃除なんかあと1日くらい延ばしても平気だろ。オメーの“ヤバイ”は昔っから大したことねーから」
「そうかなあ」
「マジで」
 伸びてきた手が肩に乗ってうなじをさする。「な?」と首を傾げて見つめてくる目も、首を撫でる指先も、いつも以上に優しくてズルイ。しばしの別れに覚悟を決めて、家に帰るぞって気持ちを無理やり作って、もう靴だって履いちまった後だってのに。
 らしくなくて驚いたとか、なんでもっと早く言ってくれないんだとか、たまに引き止めるこっちの気持ちをやっとわかってくれたかとか、言いたいことはたくさんある。いや、おめさんは引き止めるなんてできないタイプだってわかってるし、オレが靴を履いて家を出るギリギリまで躊躇してようやく言えたんだろうってこともわかってるけど、だけど。
「……ズルいぜ、おめさんは」
「あ? なにがだよ」
 目の前の彼氏がおどけた顔をしてニヤリと笑う。『帰るな』の一言をこの2年の間にどれだけ待っていたか知ってるくせに。

『まだ帰るなよ、靖友』
『……バイトあるって先に言ったろ?』
『そうだけど。たまには一泊以上してけばいいのに』
『そのためには金稼がなきゃなんねェの。こっちとあっちの移動費だってバカになんねーんだ。オメーだってそうだろ。ただでさえ部費とか遠征費だけでも大変だっつーのに』
『じゃあたまにはオレのことも引き止めてくれていいんだぜ?』
『……あ? なんの「じゃあ」だヨ。脈絡なさすぎだろ。なんも繋がってねーじゃねェか』
『オレがおめさんちに泊まって帰る時、たまには「帰るな」とか「帰したくない」とか言ってくれよ』
『はぁ? なんだそりゃ』
『いつも言うのはオレばっかりだろ? オレだって一度くらいは言われてみたいって思ってるぜ?』
『……バカ言ってんナ。そんじゃーな』

 断られたのは一度や二度じゃないが、これまでの仕返しをしようだなんてそんな性格の悪いことはしない。ただ、素直に「じゃあもう一泊だけ」って言ってやるのもシャクだから、形だけだがせめてもの抵抗に背負ったバッグだけは下ろさないし、自分からは靴も脱がない。
「靖友、マジでそろそろ出ないとまずいから」
 自然に見えるよう気をつけながら腕時計を確認する。もちろんフリだ。けど効果はあったようで靖友の片眉毛がピクリと反応した。
「……帰るつもりかよ」
 返事として頷いてみせると首筋を撫でる指先が止まった。
「ダメっつったら?」
「うーん、困るかな」
「じゃあ勝手に困ってろ」
 勝手なことを平然と言ってのけた唇が一気に距離を詰めてくる。顔を逸らす暇も抗議する間も与えられずにキスで塞がれて、ずいぶんと長い間舌先を弄ばれた。
 靖友が暮らすアパートは学生の住人が多いせいか人の出入りも多く、共用廊下を何度も何度も通り過ぎて行った。足音が響くたびに舌が絡んで、笑い声が聞こえるたびに襟足に指先が潜り込んでくる。金属製の扉一枚隔てた玄関先で男2人が息を乱しているだなんて、いったい誰が想像できるだろうか。
「……コレじゃすぐには帰れねーよなァ?」
 唾液で濡れた口元を拭いながら靖友が下半身を押し付ける。互いのソコは興奮して熱く、硬い。
「おめさん、わざとやったな」
「ったりめーだ。いい加減観念しろ」
 自分の唇をペロッと舐めた靖友がゆっくりその場にしゃがんでいく。ベルトを外したりジッパーをおろしたりする手つきは慣れたものだ。
「わかったよ。あと一泊な?」
 しゃがみ込む恋人の頭を撫でつつ立ち上がるように促す。そしてキスを返しながら、おもむろに靴を脱いだ。
 

***END***

-新荒
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