【ジョーチェリ】彼を呪う方法

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・SK∞のジョー(南城 虎次郎)×チェリーブロッサム(桜屋敷 薫)です。【R-18】
・お互いへの想いを拗らせたまま成長したふたりの日常話。仲が悪い(風な態度をとってる)けど、やることはやってる関係。

ケンカップルも書いてて楽しいなぁ。新鮮。

 
『ヤだ、初めては薫じゃなきゃヤだ』
『……そんなこと言われても……だって、男同士で?』
『そんなのわかってる! でも薫がいいんだよ……お願い、初めては薫って決めてるんだ。なあ、薫はオレが嫌い? だからヤだ?』
『べ、べつにそういうわけじゃ……』
『じゃあ、お願い! 頼むよ。オレ、初めては薫がいいんだ』

 半べそをかきながら何度も何度も頭を下げられ、困惑しながらも『……わかった』と了承してしまうくらいには幼馴染のことを好いていた。

『薫、痛くない? 大丈夫?』
『……ん……わかんない……けど、痛くはっ、んんっ……ない、かな』
『よかった……オレはすげー気持ちいい……薫、薫っ……気持ちいい……薫、好き、大好き……薫、可愛い……薫。かおるっ』

 いつものふてぶてしいほどの余裕がどこにもない。目に涙をため、首元まで真っ赤に染めて、必死な顔で好きだと言う。初体験は窮屈で息苦しいものでしかなかったが、幼馴染が見せた初めての顔だけは可愛いと思った。
 

1.
 少しずつ意識が浮上して、代わりに懐かしい幼い顔が消えていく。目が覚めて第一声、桜屋敷薫は「……最悪だ」と呟いていた。
 時刻は午前7時。すだれの隙間から漏れる日差しを見るに、天気は良好。今日は屋外でのパフォーマンスがあるので絶好の書道日和といえる。使用する墨の種類と、湿度を考えた配合計算が頭の中で始まりかけ……たのだが、それにしても寝覚が悪い。
 10年以上も前の懐かしい思い出を夢に見ていた。“思い出”と呼べるほど綺麗なものではない。むしろ今の薫にとっては“中学時代の汚点”、もしくは“若気の至り”と呼んだ方がしっくりくる。
 あんな夢を見てしまったのは昨日の取材が影響したのかもしれない。

『髪を伸ばされているのは、何か理由があるとお伺いしましたが?』

 義務教育を終えた辺りからずっとこの髪型なので、『桜屋敷薫=ロングヘアー』が世間一般のイメージになっている。学生時代こそ髪型についてアレコレ批判されたり尋ねられたりもしたのだが、成人してからはさすがになくなった。よって、昨日のあの質問が強く印象に残ってしまったのだろう。

『理由? ええ。ある男を呪うためです』
『え? ええっと……呪い、ですか……?』
『やだなあ、もちろん冗談ですよ。伸ばし始めたきっかけは願掛けのためでしたが……今はもう切るのがただただ面倒になってしまって。切るタイミングを逃しているだけなんです』
『願掛けですか……差し支えがなければお伺いしても?』
『それが私ももう忘れてしまってね。なにせ、ずいぶん昔の話ですから』

 布団を抜け出た薫は煩わしそうに髪の毛を掻き上げ、寝巻きの襟元を正しながら【カーラ】を呼んだ。
【はい、マスター】
「今日の予定を頼む」
【今日は午前11時に○○様の訪問があります。展示会の打ち合わせの件で――
 予定の読み上げを聴きつつ【カーラ】の意識を携帯端末に移す。彼女を連れて浴室へ向かったのだが、【それと、南城様からメッセージが届いています】という思わぬ報告を受けて動作が止まった。
「は? メッセージ?」
【読まずに消去しますか?】
「……いや、読んでくれ」
【“試作品を食わせてやるから閉店後に店に来い”、です。如何なさいますか?】
「……食わせてやる? 偉そうに。何様のつもりだ、あの低脳ゴリラは」
 上から目線が普段以上に鼻につくのは夢が尾を引いているせいだろう。
「カーラ、上等なワインを用意しておけとアイツに送ってくれ。そうだな……今日は白の気分だ」
【かしこまりました】
「……ちなみに明日の予定はどうなってる?」
【明日は2件の打ち合わせが午後に入っております】
「……2件とも今日に回せないか調整してほしい」
【かしこまりました。メッセージは以上です】
「ありがとう、カーラ」
 男締をほどいて寝巻きを脱ぎ、シャワーの栓を全開にする。足元のタイルがいつも以上に冷えているのは、自分の身体が熱いのか、それともただの錯覚なのか。
「……ハァ……最悪だ」
 意識が、肌が、身体の奥深くが、あの男の感触を思い出して疼きだしている。まるで渇きを見計らったかのようなタイミングでの連絡も憎らしい。
 夢の名残を洗い流すべく、薫は頭からお湯を被り続けた。
 
*
「悪くはないが少しくどいな。一度食べたら満足する。俺なら二度は注文しない」
「……そうか。やっぱり濃いか。OK、もう少し薄味だな。他にはあるか?」
「見た目は華やかでいい。色のバランスも目を惹くものがある。お前のどこにこの繊細さがあるのか謎なくらいだ」
「うるせー。そっくりそのまま返してやる」
 不服そうに顔をしかめつつもレシピノートに薫の意見を書き込んでいく。ブツブツと唱えているのは調味料の配合比率だろうか。幼馴染かつ腐れ縁の南城虎次郎とは顔を合わせれば言い争いばかりする間柄だが、仕事に対する真摯な姿勢だけは高く評価している。だからこそ薫も真剣に応えようとして時に辛辣な意見を述べてしまい、互いに熱が入りすぎて言い争いに発展するケースも少なくない。そもそも、文句を言われるのが嫌なら誘わなければいい。それなのに、なぜか南城はたびたび薫を呼んで試作品への意見を求める。
「……今日のメニューは全体的に悪くないな」
「そりゃどーも」
 南城がカウンターに料理を差し出すたび、いい匂いが鼻先に香った。食材を焼くオイルの匂い、フランベする酒の匂い、ハーブやソースと、その中に混じるコックコートの清潔な洗剤の匂い。スケーターの“ジョー”としての彼はたくさんの華美な匂いを纏っている。彼自身がつけるトワレの匂いだったり、彼の取り巻きたちがつけている匂いだったり、夜の時間特有の様々な匂いが彼をベタベタに彩っている。これまで口に出したことは一度も無いが、薫はそれらが好きではない。
(食材の匂いにまみれている昼間の方がずっといい……)
 アルコールが効いてきたらしい。南城への視線に熱がこもり始めているのを自覚していた。はぁ、と密かに漏らす吐息も湿って熱い。
「おい」
「ん?」
「客のグラスが空だぞ」
「客ってなぁ……っていうか飲みすぎじゃねーか? 貴重なワインをグビグビ飲みやがって。お前が白って言うからなぁ、オレが大事に大事に取っておいた秘蔵の自腹コレクションから――
「酒が進む料理をつくるお前が悪い」
 早くしろの意味を込めて空のワイングラスを揺らして見せる。すると南城は目を丸くして薫をまじまじと見つめた。
「なんだ? もう飲ませないつもりか?」
「いや……今のは褒められたってことでいいのかな?」
 南城がカウンターに頬杖をついて少しだけはにかみ、薫の指ごとワイングラスを受け取った。重なる指から伝わってくる彼の体温。ふたりを包む空気が“そんな雰囲気”に変わり始めている。
「……好きにしろ」
 南城がどちらの意味で受け取るのか一種の賭けのようなものだった。ただの誉め言葉と受け取るのか、ベッドへの誘いと受け取るのか。
「ワインのおかわりは上に置いてある。そろそろ別の品種も飲みたくなってきたんじゃないか?」
「……好きにしろと言っただろ」
「じゃあ先に上がっててくれ。新しいグラスを用意したらすぐに追いつく」
 こちらを見つめるまっすぐな視線に欲情の色香が混じり始める。期待通りの反応に満足して薫は薄く笑った。
 元から今日はそのつもりでここに来たのだ。準備だってしてきたし、南城が乗ってこなければ更に誘いをかけるつもりでいた。しかし目の前に立つ憎らしい幼馴染は、桜屋敷薫という人物のことを充分すぎるほど理解している。
「客を待たせるなよ」
 それだけ告げて薫は席を立った。
 

2.   
 初体験からひと月と経たないうちに南城には彼女ができた。それからはひっきりなしに相手が変わって、現在でも女遊びは続いている。彼の取り巻きもその辺は許容しているそうで、むしろ交代制でジョーとの一夜を楽しんでいるらしい。割り切った楽しみ方に口を挟むつもりも、否定する気もないが、『ソイツの初体験は俺の尻だぞ。そんな男が相手でいいのか?』とジョーを取り巻く彼女たちを不憫に思うことも稀にある。
「薫、力抜け」
 太い指がさらに1本追加された。中をいじる指はこれで2本目。優しく、じれったいくらい丁寧な愛撫が続いている。その慣れた手つきが女性経験の豊富さを連想させ、ついうっかり「お前、女でも抱いてるつもりか?」と言わなくてもいい嫌味が出てしまった。
「女? なんで」
「優しくするな、気持ちが悪い。女と同じ扱いはやめろ」
「はぁ? オレは今お前を抱いてんだよ。女じゃないなんてわかってるし、お前だからこそ丁寧な下準備が必要なんだろーが」
「下準備? フンッ、得意の料理でも始めるつもりか?」
「ある意味そうかもな。これからお前を美味しくいただこうってんだから」
 南城はわざとらしく自身の唇を舐めてみせると、すでに気崩れしている着物の合わせ目を掴んだ。衿を引っ張って強引に前をはだけさせ、胸板の上に唇を点々と押し付ける。散々舐めて遊んだ乳首に再び吸い付くと、甘噛みしたり舌で押しつぶしたりと容赦ない刺激を与えてくる。
「んぅっ……! もうっ、もうそこはいいからっ」
「んー? ここいじられんの好きだろ?」
「だ、誰がっ……言いがかりだ」
「こんなに締まるくせに。なあ、たまには滑った後にヤろうぜ。オレ、そっちの方がヤりたくなるんだよな」
「いや、だっ……断る」
「なんでだよ。お前だってバトッた後の方が興奮してんじゃねーの?」
「いいからっ、んぅっ……! ハァッ、あっ……さっさと挿れろ、このウスノロ」
「はいはい、わかったよ。気持ちいいんなら素直にそう言やあいいのに。ったく、可愛くねーんだから」
 南城は渋々といった態度で胸から離れ、薫の脚を開かせて股の間に腰を下ろした。帯をほどく手順も手慣れたもので、あっという間に裸にされた。ようやく挿入する気になったのかと思いきや、指はまだ中にいる。
 視界の中でフッと南城が沈んだ。同時に股座に吐息がかかり、陰茎が柔らかくて熱いものに包まれていく。
「うぁっ……! 何してっ――待て、ち、ちがっ……やめろバカ虎っ、咥えるなッ」
 根元まで一気に咥えられ、予期せぬ快感が内腿を震わせた。口内の濡れた粘膜も、裏筋に張り付いてくる舌も、わざと聞かせるような唾液の音も、すべての刺激が薫の口から甘い声を出そうとする。おまけに指での愛撫も再開したものだから、我慢しきれずにとうとう身悶えして喘いでしまった。
「んぅっ、ふっ……う……はぁっ、あッ」
 薫の声に合わせて、いや、それ以上の声を引き出そうとして南城が強めに吸い付いてきた。窄ませた口で陰茎をしごき、根元から亀頭まで余すことなく刺激を与えてくる。尖らせた舌先で鈴口を優しくえぐられると、より強い快感が下肢に奔った。足の指をぎゅっと丸めても抑えきれない。ヒクヒクと腿が震え、もっととねだるかのように自然と腰が揺れてしまう。
「あっ、はぁ、ぁッ……くそっ、こんな声……ん、んんッ! はぁッ……!」
 体内に潜っていた指が一番弱いポイントを捉えた。太くて骨張った指が遠慮なしに押してくる。中からも外からもひっきりなしに快楽を与えられ、唇を一文字に結ぼうとしてもすぐにほどけて緩んでしまう。このままでは耐えきれない。射精してしまう前に南城の頭を押さえてやめさせた。
「なんだよ。邪魔すんな」
 いいとこなのに、と拗ねた顔で南城がジロリと睨む。
「俺は挿れろと言ったはずだ」
「挿れたぜ? 口ん中にな」
「ふざけるな! 早くそのデカブツを挿れろと言ってるんだ!」
 薫は足の裏で南城の股間の膨らみに触れた。とっくに硬くなっていて、下着を内側から窮屈そうに押し上げているくせに。いつまで待たせるつもりだ、とグリグリと足で愛撫してやる。
「くっ……うぅ……っ」
「ほう、足蹴にされても元気だな。最近いつ抜いた? 女遊びはしてないのか?」
 たまらず南城は指を引き抜いて薫の足首を掴んだ。
「ほんっとに、お前なぁ!」
「どうだ? その気になってきたか?」
「言われなくてもとっくにその気だ。久しぶりなんだから少しは楽しませろ、このせっかちメガネ」
「サービス業の本質は客の要望に応えてこそ、だろ?」
 両脚を上げ、左右の尻肉を自ら掴む。焦らされて疼いている穴を広げて「ほら、さっさと来い」と挑発する。
「……来てください、の間違いだろ?」
 フンと鼻で笑ったものの南城はTシャツと下着を脱ぎ捨てて、今度こそ言われた通りにコンドームをつけ始めた。
「お望み通り挿れてやるよ、お客様」
 不敵な笑みが薫の上に覆い被さってきた。
 
*
『あーあ、傷なんかつくりやがって。せっかくの顔が台無しじゃねーか』
『……先に手を出してきたのは向こうだ。俺は悪くない』
『だからって殴り返すなよ。筆持てなくなったらどうすんだ。で? 今度はなんて言われた? 喧嘩の原因は?』
『……髪……女みたいだって……』
『はぁ? またそれか。お前もいい加減慣れるかシカトしとけよ』
『だって――
『あのなぁ、髪の長さがなんだってんだ? どんなでも薫は薫だろ? それにオレは好きだぜ薫の髪。長髪が似合う男なんてそうそういないんだから自信持てよ。グダグダうるせー奴には好きに言わせときゃーいい。それでも絡んでくるバカがいたら、そん時はオレに言え。代わりにぶん殴ってやる』

 ニッと歯を見せる無邪気な笑い方。あの笑顔に何度救われてきたかわからない。励まされて、ホッとして、彼のことがこんなにも好きなんだと改めて思い知らされた。
「薫」
 声に反応して束の間の放心状態から意識が戻る。いいところばかり執拗に突かれたせいで、絶頂の手前の気持ちいい状態から長いこと抜け出せていない。一思いにイかせてくれればいいものを、南城はいつまでも“お預け”をして遊んでいる。
「薫? 生きてるかー?」
「……も……むり」
「じゃあやめるか?」
「……イヤだ。もっと……」
「わがままぁ」
 アルコールも作用して、意識と身体はグズグズになりかけている。薫は南城に身を任せ、彼の膝の上で大人しく揺すられていた。
 うなじを隠す髪の毛を南城の指先が掻き分けた。いつでも自分に自信が持てるように、いつまでも彼に好かれているように。そう願いを込めた髪の毛は当時に比べたらずいぶん長くなった。今となってはただただ重い存在でしかないのだが、髪を切るという決断を薫はまだできずにいる。
「髪、伸びたな」
 摘んだひと束に南城がキスを落とす。その延長で彼は顔を近づけ、「似合ってる」と囁いた後で唇を塞いできた。ソフトに、かつ強引に舌先が差し込まれ、ふたりの吐息が口内でひとつに溶けていく。
(ほんの少しでいい……お前が女を抱くとき、長い髪に一瞬だけでも俺を重ねてしまえ)
 唇が離れてしまうと途端に名残惜しさに襲われた。すぐ目の前にいるというのに触れられたくてたまらない。しかし南城は目線を外して顔を傾け、唇ではなくうなじにキスをしてきた。露わになった肌に押し付けられる肉厚な唇の感触。濡れた舌がうなじを這い、下から上へ、ゆっくり、ゆっくり、耳元まで舐め上げてくる。
「薫、かおる……」
 甘い声がくすぐったい。
(バカなやつ……今この瞬間もお前は俺に呪われているんだぞ)
 呪いをかけられているとも知らず、加害者を優しく抱きしめてくれる愚かな幼馴染が愛おしい。
 好きとは言わない。自分をこんな風にした責任を取れとも言わない。だからせめて、これからも大人しく呪われてくれ。
「なあ、薫。オレ、そろそろやばい……かもっ」
 耳に捩じ込まれる声と呼吸が薫の全身をゾクゾクさせた。打ち付けられる腰が速くなる。相手ありきのセックスから、射精するためだけに特化した荒い抽送へと変化していく。その荒っぽさが薫の中にある被虐的な部分を煽ってきて、途端に耐え難い大きな波を連れてきた。
「こじ、ろっ……ッ!」
 薫は南城の背中にしがみつき、名前を呼び返して静かに果てた。
 

3.
「カーラ起きてるかってAIに聞く事じゃねーな。その前にオレの声でも反応すんのか、コレ」
【……一応は。何かご用件でも?】
「うおっ、びびった。なあコイツ、いや、お前のマスターの今日の予定は?」
【本日は何もございません】
「え。マジで? なんも? コイツ、ちゃんと仕事してんだよな?」
【ジョーと――いえ、南城様とお会いになる翌日は予定を入れないことにしております】
「はあ? もしかして今までずっと?」
【はい】
「なんだよ……マジでそういうの言わねぇからなぁ薫は。それじゃあ次は休みの前に誘うか。ちなみに今日は目覚ましかけてんの?」
【はい。午前8時に】
「じゃあさ、それ解除しといてくれ。たまにはゆっくり寝るのもいいだろ。コイツに怒鳴られたらオレに無理やり脅されたって答えていいから。な? 頼むよ」
【……わかりました】
「あー、それとコイツが起きたら飯食わせてやって。冷蔵庫に作り置きが入ってるから、適当に選んで食べろって」
【かしこまりました。マスターは南城様の作られる料理は気に入られているように感じます】
「だろ? オレ以外の飯が食えなくなるように丹精込めて呪いをかけてるからな」
【……呪い? それは本当でしょうか?】
「んなわけねーだろ。ジョークだよ、ジョーク」
 手早く着替えを済ませたが、名残惜しくてなかなか部屋を出て行けない。南城はベッドに近づくと傍に屈み込んで寝顔を眺めた。
「……予定無しならそう言えよ。こっちは買い出しと仕込みで泣く泣く出かけるんだぞ? 休みだったら目一杯甘やかしてやんのに。まあ、お前は嫌がるだろうけど」
 頬にかかる髪の毛を指先でそっと払う。可愛くない言動ばかりする意地っ張りな幼馴染。彼のそういう捻くれたところが昔から可愛くて仕方がない。

『気位の高い相手が理想だな。トリックもそうだけど、難易度が高ければ高いほど絶対キメてやるって気になるだろ? それと同じだ。手に入らなそうな相手ほど絶対に落としたくなるし、これ以上なく燃えるね』

 いつだったか酒の席で好みのタイプを聞かれ、こう答えたことがある。たまたま近くにいた薫がそれを聞いていて、『身の程知らずが』と冷ややかな言葉を投げてよこした。お前のことだよと腹の中で思いつつ、『今に見てろ。実行してみせるぜ?』と答えた時にはますます怪訝な顔を返された。
 少しずつ、着実に手に入れる。そのための下地はすでに充分すぎるほど作ってきたはずだが、相手は底なしの意地っ張りだ。そう簡単には落ちてくれない。
「……どう足掻いたって逃げられやしないんだから、いい加減諦めろよ。なんせオレとお前は腐れ縁だからな」
 この先何度キスをしたら王子様は目覚めてくれるのか。期待と願いを込めて、今日もまた秘密のキスを寝顔に落とした。
 

***END***

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