【新荒】チョコより甘いもの

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・付き合っている高3の新荒です。
・遅すぎますがバレンタインの話。

 
 新開は顔に似合わず割と酷い。いや、あの顔だからこそ酷いのかもしれない。

『今年こそチョコが欲しいな』
『あ? チョコォ?』
『去年はもらえなかっただろ? オレ、楽しみにしてたんだぜ?』
『……まだ根に持ってンのかよ。あの後買ってやったじゃねーか』
『だいぶ後になってからだし、オレが催促し続けたからだろ。今年こそおめさんから自主的に渡してほしいんだよ。ほら、今年が最後だし』

 最後に。最後だから。
 年が明けてから新開は『最後』をよく口にするようになった。どうやらアイツは、その単語を付けとけば何でも聞いてもらえると思ってる節がある。たかが高校を卒業するだけじゃねーか。死ぬわけでもあるまいし。

『ぜってーヤだ。めんどくせー』
『頼むよ。な?』
『しつけェぞ。オレがやんなくても、どうせ貰えんだろーが』
『靖友のが欲しいんだよ』
『やだっつーの。つーか、くれって言うんならオメーも寄越せ。それなら考えてやってもいいぜ』
『ほんとに? わかった。それでいいんだな?』
『え』
『用意しておくから期待しててくれ。ってことでおめさんも頼んだよ。絶対だぜ?』
『いや、まっ――
『いやあ、嬉しいな。おめさんのチョコ、すげー楽しみ』
 
 スゲー楽しみとか言ってたくせに。そんな嬉しそーに受け取ってンじゃねーよ。ひでぇ野郎だ。
 2月14日の昼休み。とある教室の前で回れ右したオレは、そのまま足早に行く先を変えた。スラックスのポケットに両手をつっこんでいるせいか、コンビニの袋が足に当たってガサガサうざい。ベプシと、パンと、アイツのために買ってきたチョコレート。どの種類がいいとか、どの味が人気とか、そういうのはまったくわかんねーから、とりあえずラッピングされてるのを適当に選んで買ってみた。……こんな感じで選ばれたものより、ちゃんとした店のソレ用のチョコの方がどう考えたっていいに決まってる。
「……バカみてーに貰ってたな。あの野郎」
 新開のためを思って準備されたんだろうチョコの数々。適当に買ってきたオレとは全然違う。気合入ってんだろうなって、パッと見でわかるタイプのヤツ。
 わかってる。つーか、わかってた。どうせこうなるってわかってたじゃねーか。だからヤなんだよ、こういうイベント的なもんは。
 ビニール袋の中の赤い包みがなんだか惨めに思えてくる。おまけにソレが今の自分みてーだなって気になってくるから、なんでオレがこんな思いしなきゃなんねーんだって感じで余計にムカついてくる。
「ハッ! なにがバレンタインだ。浮かれるヤツの気がしれねェ」
 中庭に移動して昼飯の総菜パンにかじりつく。無言でガツガツ食いまくって、ごみをまとめようとしたら袋の中のチョコと目が合った。

『おめさんのチョコ、すげー楽しみ』

 いやいや、こんなん貰って嬉しいかよ。女子が渡してたみてーなマジっぽいチョコのがどう考えたって嬉しいだろ。オレが新開の立場なら断然あっちを選ぶと思う。
 どーすっかなぁって考えながら赤い小箱を手に取った。ボール代わりに上に向かって何度も投げれば、キャッチと同時に渡す意思が失せていく。
 今年も買い忘れたってことにするか? いや、なんかそれは逃げたっぽくて気に入らねぇな。つーか、そもそも当日寄越せって言われたわけじゃねーし、とりあえずコレは渡さねぇことにして後でちゃんとしたヤツ買いに行ってもいいかもな。
「うっし、決まりだナ」
 そうと決まればあとは証拠隠滅を図るのみ。雑な手つきで包装紙を破り取り、中のチョコを次々に口の中へ放り込む。甘ったるい味と匂いに咽せながらベプシと一緒に飲みくだした。
「……あっま」
 久々にガッツリ食ったせいかチョコの匂いが口の中から消えてくれない。甘いは甘いでもアンパンだったら余裕なんだけど、アレは日本人だからか? やっぱ和だよな、和。とか、どーでもいい事を考えてたら後ろからいきなり肩を掴まれた。
「うおっ!?」
 ビビりすぎて心臓が弾けたかと思った。身体の真ん中がめちゃくちゃ痛む。犯人はこっちの反応に満足したらしく、ニヤニヤしながら隣に座ってきた。
「探したよ。まさか外とはな。寒くねぇの?」
「いや? べつに」
「まあ、今日はまだあったかいから――ん? チョコ食べてる?」
 新開が鼻をクンクン動かす。咄嗟にゴミを隠そうとしてコンビニ袋を握りしめたせいか、結果的に新開の視線を手元に誘導してしまった。
「それ、やっぱチョコだよな? 誰かから貰った?」
「え、あー……いや、これはなんつーか……」
「まさか告られたりはしてないよな?」
「はぁ!? んなわけねーだろ!?」
「オレが一番に渡したかったのに……やっぱり朝のうちに渡しとくんだったな」
 短くため息をついた後で、新開が制服のポケットから茶色の包みを取り出した。
「オレからの」
「お、おー。サンキューな」
 差し出されたチョコを受け取ろうとした瞬間、掴む寸前でチョコが逃げた。遊んでんじゃねーぞって目で新開を見ると、トゲのある視線が返ってくる。
「フツーは彼氏のを先に食べるだろ? それとも、そのチョコにやましい気持ちでもあった? まさか証拠隠滅してたわけじゃないよな?」
 やましさも、証拠隠滅も、まさにその通り過ぎて無意識のうちに視線が泳ぐ。どうやって誤魔化すか、どうやってこの場を乗り切るか、今はそれしか頭にない。
「あー、いや、マジでそういうんじゃねーんだよ。なんつーか色々あって」
「色々? 具体的に聞きたいところだな」
「ぐ、具体的ィ? あー……」
「そうか。言えないようなことだったか」
「ちげェよ! そんなんじゃねーから!」
「じゃあ何?」
 じっとりした目が鬱陶しい。このまま隠し続けるのも面倒で、オレはため息まじりに「わーったよ」と降参した。
「正直に話すけど、オメーマジで笑うなよ」
「ん? 笑わないと思うけど、笑うことなのか?」
「……オメーは笑いそうだからな。いいか、マジで笑うなよ。フリじゃねーぞ」
「わかったって。笑わないよ。で、何?」
 すでにニヤけ気味な顔が気に食わないが、しょうがねーから全部正直に話してやった。
 コンビニでチョコを買ったこと。適当に選んだから渡す直前で怯んだこと。女子に貰ったチョコを見てムカついたこと。全部自分で食べたこと。念のためにコンビニのレシートを見せてやると、新開は「ほんとだ」とだけ呟いて黙り込んだ。
「これで信じたろ? ……おい、何か言えよ。笑うなっつったけど、黙ってられんのも困んだヨ」
 新開の肩をわざと強めに小突く。すると新開はようやくこっちを見て、
「悪い。ちょっと嬉しくて。笑うなって言われたから堪えてた」
って、はにかみやがった。
 照れくさそうな顔が照れくささを伝染させる。耳んとこがチリチリして、夏でもないのに顔が熱い。
「……靖友、今日の放課後は何か予定あんの?」
「え。あー……別に。なんも」
「じゃあ一緒に帰ろうぜ。コンビニのでいいから、もっかいチョコ買ってよ」
「構わねーけど、コンビニでいいのか? もっとちゃんとしたヤツでも――
「いいんだ。なんかどうしても今日中にチョコが欲しい。あと、ものすごくキスしたいから、できれば早めに帰りたい」
 コイツのちょっとだけ余裕がない顔はオレがスゲー好きな顔。いつの間にこんな顔になってたんだよって、少なからず動揺した。
「なっ!? オメーなァ、こんなとこで言うんじゃねーよ」
「来る途中は誰もいなかったよ。晴れてるけど、さすがに2月だからな。……言ってるそばから寒くなってきた」
 新開が首をすくめて両腕をこする。「靖友は寒くねーの? すごいな」って困ったように笑うから、その表情にグッときてしまった。いつも我ながら意味不明なタイミングでスイッチが入る。今すぐ連れて帰りたくなったけど、あと5時間はお預けだ。
「おい、ホームルーム終わったらソッコー玄関集合な。ソッコーだぞ、ソッコー」
 チョコなんかよりずっと甘そうで、もっと旨そうな、噛みつきたいものが目の前にある。ソイツは嬉しそうに緩くほどけると、「オーケー」って甘い言葉を囁いた。
 

***END***

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