【新荒】Eat Me.

◆◆ caption ◆◆
高3新荒の足舐め話です。
※新開さんが荒北さんの足を舐めます。

前回の更新からずいぶん空いてしまいました。
創作自体が久しぶりなので、リハビリとして書いた短い話です。今回も記憶喪失ネタではありません。すみません。
(8月以降の拍手やメッセージ、ありがとうございました)

 
 足の指を舐められていた。
 咥える指は丁寧に1本ずつ。指と指の間にまで舌先が潜り込み、時間をかけてゆっくり舐めていく。
「……っ! う、うぅ……ッ」
 下唇を噛み、それでも耐え切れないときは腕を噛んで、漏れでる声を必死に抑える。くすぐったいだけだった感触は、もはや性的興奮の一種にまで変化していた。荒北が隠そうとすればするほど下腹部は意思に反して膨らんでいくばかりで、新開はそんな荒北を一瞥しつつ、なおも丁寧に舌を這わせ続ける。
「おい、マジで長ェからァ! しつけェぞ!」
 言っても無駄だとわかっていても荒北は言わずにはいられなかった。
 これ以上続けたらダメになる。
「う……んぅっ……!」
 ねっとりした粘膜の柔らかさが焦燥感を覆い隠していく。
「……気持ちいいかい?」
 足の指を舐められていた。
 
*
 事の発端は2週間前まで遡る。
 疲労回復のために部活動が休みになる“休息日”。デートを兼ねた休日をのんびり過ごすため、荒北と新開はとある恋愛映画をレンタルしていた。その映画は30年前に流行った作品をリメイクしたもので、際どい性描写と映像美、SNSを使用した宣伝方法などが世間的に話題になっていた。ストーリーも現代風にアレンジされていてわかりやすく、見終えた後は誰かにシェアしたくなるような面白さがあった。
「どうだった?」
 エンドロールが流れ切ったところで隣に座る新開が話しかけてきた。
「まー悪くねェな。期待してなかったけど、騒がれるだけあって意外とおもしろかったぜ」
「それはよかった。借りてきた甲斐があったよ。まあ、おめさんが寝ずに起きてるってことこそ、この映画が面白いっていう1番の証拠だな」
 デートに限った話ではないが、荒北は映画鑑賞の最中に眠ってしまったことが何度かある。新開は過去のあれこれを暗に仄めかしているようだが、荒北からしてみればそれはストーリーが面白くないせいであって自分が悪いわけではない。
「蒸し返すんじゃねーよ、しつけーぞ。眠くなる内容なのがワリィんだヨ」
 心外だとばかりにしかめっ面をして見せたのだが、新開は「ふぅん」と思わせぶりな表情を浮かべただけだった。
「そういう事にしておこうか。それじゃあ、どのシーンがベストだった?」
「え、ベストォ? あー……あれだ、中盤のカーチェイスんとこだナ。スピード感の見せ方がうめェんだろーな。ダウンヒルでぶっ飛ばした時に似てるっつーか、なんかこう、血がたぎる感じィ?」
 スピード狂の自覚はないのだがカーチェイスを思い出しただけで妙な高揚感が湧いてくる。そんな荒北を見て「おめさんらしいチョイスだな」と新開は目を細めた。
「なんだよ、そういうオメーはどうなんだヨ」
「『Eat me』、だな」
 新開が迷いなく答えたものは、主人公の少女がピアノの師でもある叔父に肉体関係を迫るシーンでの台詞だった。
「あ? それェ? そこがベストかよ」
「ああ」
「まあ、確かにアレはインパクトあったけど」
「だろ? 靖友に言わせたいって思った」
「なにバカなこと言ってんだ。いや、そこを挙げた時点でそうくるんじゃねーかって気はしてたけど、マジで言うとはな」
 呆れ顔を作って大袈裟にため息をついてみせる。しかし新開は一向に気にしない様子で荒北の右腕を強く引っぱった。
「うおっ!?」
 バランスを崩した身体が横に流れる。うまく抱きとめられたから良かったものの、運が悪ければ新開の肩に鼻を強打していたかもしれない。非難を込めて睨みつけても新開は涼しい顔のままで謝りもせず、それどころか「今から言わせてみせようか?」と冗談とも本気とも判断つかない口調で言ってきた。
「バカ言うな。そうやってすぐからかってくんじゃねーよ。オメーの悪い癖だぞ」
「からかってない。オレは本気だぜ」
「ハァ? まだ昼間だぞ。少しは言う時間帯ってもんを――
 荒北はハッとして口を閉じた。これを言ってしまったら、昼以外ならOKだという誤解を与えかねない。
「へぇ。夜ならいいんだな」
 新開が案の定の反応を見せる。意図的に無視した荒北は肩に回された腕を払うと、DVDをノートパソコンから取り出して「これからどうする?」と無理やり話題を変えた。
「これから? たった今提案したばかりだぜ?」
「却下ァ。だいたいナァ、日曜の昼間っから寮内でできるわけねーだろ。ぜってーバレるし、リスクがデカすぎる」
「そんなの、チャレンジしてみないとわからないだろ。おめさんが声ださなきゃ意外とバレないんじゃないか?」
「……オメー、マジで言ってんの?」
「もちろん」
 ニッと良い顔で微笑んだ新開が荒北を見つめたままベッドに頬杖をつく。
「……無駄に良い顔すんじゃねーよ。つーか腹減んね? DVD返すついでにラーメンでも食いに行こうぜ」
「え、もう返す気か?」
「1回観たらもういいだろ」
「そりゃそうだけど……今日はまだ出かけたくない気分だな。久しぶりにふたりきりなのに」
 頬杖を肘枕に変え、新開が上目遣いで見つめてくる。甘えた仕草もそれなりに様になってしまうところが恐ろしい。キュンとした荒北は一気にほだされそうになったが、ハッと思い直して「いや、とにかくヤんねーから」と新開と自分に言い聞かせた。
「じゃあ、キスしてくれよ」
「あ?」
「キスならいいだろ? おめさんがしてくれるまで部屋から出ないぜ」
 そう言って新開はベッドによじ登って寝転んだ。わかりやすい抗議はそれだけでなく、荒北を一瞥した後で背中を向ける。
「おい」
「……」
「新開」
 こうなってしまうと新開は目的を果たすまで続ける。今は“フリ”をしているだけだが、この状態が長引けば本気で拗ねてしまう可能性も無くはない。
「しーんかい」
 背中に浮いた肩甲骨を指でつつく。ビクッと反応したものの新開はまだ振り向かない。
 素直に要求を叶えてやるのは負けた気がして面白くないが、口喧嘩は望んでいないし、新開以外の誰かと休みを過ごすつもりもない。ここは自分が大人になることにして、荒北は身を屈めて目の前の頬に軽いキスを落とした。
「したぞ。これで気ィすんだナ?」
「ダメ。口がいい」
「はぁ? した途端に調子乗んなヨ。場所は指定してねーだろ」
 約束通りにキスはしたのだから自分は間違っていない。これ以上は譲らないという意志を込めて仁王立ちで腕組みする。アピールが効いたのかそれとも諦めたのか、新開は渋々といった表情で身体を起こした。
「よし、そんじゃーとっとと出かけようぜ」
「靖友」
 新開がベッド上で胡坐をかき、自分の前のスペースをポンポンと叩く。ここに来いと言う意味なのだろう。怪訝そうに片眉をピクリと動かした荒北に向かって「もうちょっとだけ。な?」と手招きする。
「……っんだよ」
 仕方なく指定された場所に腰を下ろすと、新開は思った通りに抱きついてきた。肩を抱き、背中をさすって、頬を首筋にすり寄せてくる。
「ハッ! オメー、今日はずいぶん甘えたチャンじゃねーか」
「うん」と答えた厚ぼったい唇が荒北の頬に触れる。ちゅ、ちゅ、と押し付けられる柔らかな感触は悪くない。気がつけば唇を塞がれていて、ぬるりとした温もりを交わし合っていた。
 頬に生じた火照りと下半身に広がる窮屈さ。若さゆえの素直な反応は、日中の明るさの中ではただただ居心地が悪い。
「……だから昼間はヤなんだっつーの」
「……うん。すまねぇ。けど、おめさんを見てるとさ、全身にキスして、うんと甘やかしたくなっちまうんだ。靖友はそうならない?」
「残念ながらなんねーナァ」
「じゃあ、オレがおめさんの分も合わせてたくさんキスするから」
「おい、なんでそうなるンだよ。『なんねー』っつったろ」
 ふたりきりの秘密が部屋から漏れてしまわないよう、小声でクスクスと笑いあう。ふと何気なく目が合った瞬間に笑い声がやんで、新開が真面目な顔をした。
「靖友、おめさんは誰の彼氏だ?」
「は? 急にどうしたァ?」
「そう、オレのだ。だからオレには靖友の全身にキスしていい権利がある」
「まだなんも答えてねーんだけどォ。しかもソレってさっきの映画のセリフじゃねーか」
「もちろん、おめさんもオレを好きにしていいからな」
 新開という男はどうしてこんなにも強気でいられるんだろうか。ストレートに愛情をぶつけてくるのでうっかりときめいてしまう事も稀にあるが、スッと通った鼻筋を掴んで謎の自信をへし折ってやりたいと思う瞬間もある。残念ながら荒北の今の気分は後者だった。
「へえ、じゃあ試しに爪先にしてくれヨ。床に這いつくばって頼むわ」
「わかった」
 冗談で言ってみただけなのに新開は床に降りて膝をつき始めた。
「ハァ!? おい、おい、マジでやんのかよ!?」
「ああ。おめさんも足を下ろしてくれ」
 驚く荒北とは対照的に新開はそれがどうしたと言わんばかりの顔で頷く。からかっているようにも見えなくて、荒北の嗜虐性は一瞬にして消え失せてしまった。
「本当にするバカがいるか? ありえねーだろ」
「まだ未遂だけどな。けど、靖友がやれって言うんならできるよ。そのくらいおめさんに本気なんだ。な、もっかいキスしてもいい? もちろん唇に」
 荒北を見上げながら新開が頬を緩める。唐突に柔らかい表情で微笑まれて、不覚にも胸の辺りがキュンと震えた。愛情たっぷりの目線がくすぐったくてたまらない。
 荒北には照れ隠しが下手だという自覚がない。隠しているつもりでも振る舞いが雑になるので周囲にはバレバレだった。
「勝手にしろ」
 素っ気ない返事をして、新開にぶつかる勢いで彼の隣に座り直す。普段なら眉を顰めた新開が小言を漏らすところだが、なぜか彼は文句も言わずに荒北の視界の端で小さく肩を揺らして笑っている。
「何がおかしいんだヨ」
「いやあ、幸せを噛みしめてるんだよ。全部大好きだぜ、靖友」
「……オメーなぁ、よく恥ずかしげもなく歯の浮くような言葉を次々と……聞いてるこっちが恥ずかしくなるぜ」
「ん? オレの言葉は全部本物だぜ? 全身にキスしたいってのも誇張表現じゃなくて本気だからな。必ず制覇してみせるよ」
「へーへー、そーかよ。って、まさかいっぺんにする気じゃねーだろーな? 終わる頃にはきっとこんな風に腫れあがるぞ」
 荒北は唇をタコのように突き出してみせた。からかったつもりだが新開は動じず、それどころか「いっぺんにするのがいいか、一箇所ずつがいいか、どっちがいい?」と選択肢を投げてくる。
「……やんねェっていう選択肢はねーのかよ」
「もちろん。で? どうしたい?」
 どうしたいと言われても答えは出ない。なんと返すのが正解なのか迷っていると、荒北が答えるより先に新開が口を開いた。 
「決めた。今夜から寝る前に一箇所ずつキスしていこうか」
「え」
「時間帯も守ってる。文句ないだろ?」
 
**
 宣言通りにその日の夜からキスが始まった。
 キスする場所は新開が決めて、消灯時間前にくちづけていく。一箇所で済むなら別にいいかと荒北もされるがままに受け入れていたのだが、6日目くらいから徐々に様子が変わってきた。
「……なァ、ちょっと長くね?」
「時間までは決めてないだろ」
「それはそうだけ――……っ!」
 右肩に生じた未知の感触。驚いて言葉尻が消えて失くなる。
 キスのルールはたったの2つ。“消灯時間前”と“一箇所”だけというシンプルなもの。回数や時間については制限を設けなかったのだが、いや、そこまでは思いつかなかったが正解かもしれない。
 荒北はキスを甘くみていた。触れられる場所がわかっているなら、どこにキスされようとも余裕だと高を括っていたのだ。
 しかし、実際に始まってみると余裕はあっさり崩された。場所を知っているからこそ、意識がその一点に集中してしまう。触れるだけだったキスにいつしか舌が加わり、舐めたり吸いついたり甘噛みしたりと様々なバリエーションが付け足されていく。軽いキスだけでもゾクゾクしたというのに舐められた時はそれ以上で、自分で触れた時とも、肩を組まれた時ともまるで違った。意図しない声が漏れてしまうほどに刺激が強い。
 右手の甲から始まったキスは転々と場所を変え、日を追うごとに触れる時間が伸びていった。
 手のひら、肘、二の腕、背中、肩、太腿、膝、首筋、脇腹……様々な場所を愛されて14日目。この日新開が選んだのは左足の指だった。
「足!?」
「ああ。そのまま寝てていいから、足だけ貸してくれるかい?」
「貸してって……本気か? もっと他にも場所があるだろ」
「例えば?」
「え」
「どこ? 他にあるんだろ?」
 新開が目線で返事を催促する。しかし荒北は口ごもるだけで答えられない。そんな荒北に新開は意地の悪い微笑みを口元に浮かべて、「胸がいい?」と訊いてきた。
「それはオメーがしてェだけだろ」
「いや、しないよ。キスだけじゃ終わらなくなっちまうし、楽しみは最後にとっておかないとね。……あれ、もしかして……?」
「……なんだヨ」
「期待してた?」
「するかッ! バカじゃねーのォ!」
 寝返りを打って背中を向ける。これでキスは回避できたかとニンマリしたが、しばらくすると背後からゴソゴソ動く音が聞こえてきた。頭をもたげて様子を伺えば、キスをするつもりなのか新開が荒北の足元に移動している。
「靖友。足」
「……本当にすんのかよ。きたねぇとか思わねーの?」
「さっきシャワー浴びたんだから汚くない。それに、キスし始めてから念入りに身体洗ってるだろ?」
「は? 一緒に入んの避けてンのに、なんで知ってんだよ!? もしかしてどっかで見てやがったのか!?」
「まさか。けど当たったみたいだな」
「なっ……!? くそっ……ハメられた」
 かまをかけられたのだと知って顔面が一気に熱くなった。更に新開はそんな荒北に追い討ちをかけるように、「おめさんのことならなんでもわかるよ」と自信満々に笑う。
「このッ……ニヤケや――
「ニヤケ野郎? そのニヤケ野郎に惚れてるくせに」
 さも当然のように言われてカチンときたが、事実は事実なので何も言い返すことができない。負け惜しみで「自惚れんナ!」と吐き捨てた荒北は、抱きかかえた枕に顔をうずめた。
 確かに荒北の入浴時間は長くなっていたが、新開は少しだけ間違えている。身体を丁寧に洗うようになったのはキスをし始めてからではない。新開に自分のすべてを初めて委ねた日から、荒北はずっとそうし続けている。
 性的な意味でのベッドインはすでに経験済みだ。しかし、挿入を前提としたセックスはまだ数えるほどしかない。これは荒北が拒んでいるわけではなく、新開の方が挿入行為をあえて避けているように思えた。
 新開は彼の大事な恋人をとても優しく抱く。荒北が少しでも痛がる素振りを見せればすぐに手を引くし、無理強いも、傷つけたりも絶対にしない。初めての夜こそ上手くいかなかったものの、以降は慎重かつ丁寧に愛してくれた。おかげで荒北には挿入の有無に関わらずセックスに対して気持ちいい記憶しかない。だからこそ新開にも同じくらい気持ち良くいてほしいと願い、いつでもOKなように念入りに準備を済ませているのだが……新開は恋人を気遣って“優しく”遠慮する。
 バニラセックスも充分幸せで嬉しい。けれど、他人を気遣うばかりでなくたまには好きなようにしたらいいのに、とも思う。受け入れる覚悟ならとっくに済ませているのだが、そこだけはなぜか伝わっていないらしい。
「触るよ」
 新開が言うとほぼ同時に荒北の左足が浮いた。慌てて引っ込めようとしたが足首をしっかりと捕まえられていて動かせない。抵抗してもがくほど、新開の指先が足を離すまいとして皮膚に甘く食い込んでくる。
「大丈夫。ほら、リラックスして」
 いつもより熱く感じられる手が子供をあやすかのように足の甲を撫でる。くすぐったくて身をよじれば新開はさらにソフトに撫でてきた。
「っ……! おい、くすぐってェんだけど」
 笑いながら枕を投げつけてみたが新開は器用に躱した。「すぐに慣れるさ」と足を撫でる手は止まらない。
「……慣れるって本当かよ……なあ、いつもより手ェ熱い気ィすんだけど大丈夫か?」
「熱いのは靖友に興奮してるから」
 新開は荒北と目を合わせたまま、自身の唇を手の中の足に触れさせた。押し当てられた唇は指でマシュマロを挟んだ時のようにゆっくり潰れて、同じくらいの時間を使って再びふっくらと形を取り戻していく。たっぷり時間をかけたキスは唇の弾力感や新開の息遣い、皮膚を通して体温が混じり合う感覚を荒北にこれでもかと伝えてきた。
 当然今夜も一度のキスで終わるはずがなく、親指から順に小指へ向かってチュッと軽い音を立て始めた。
 5本の指の上をキスが流れる。何をされるのかが読めなくて、荒北は知らず知らずのうちに息を潜めていた。腹部にかけていた薄手のブランケットを顎の近くまで引っ張り上げ、両手で固く握りながら新開の動向を見守る。ドキドキして胸が苦しい。
 肉厚な唇の隙間から赤い舌先が現れた。まさか、と荒北が喉を鳴らすと同時に新開が指の先端に舌を這わせた。
「……ッ! な、めっ……やめろ、新開ッ!」
「んー?」
「マジで舐めんのかよ!? きたねェって!」
「汚くないのはおめさんが一番よくわかってるだろ」
 足の指の間を舌先がチロチロと動く。温かくて、ぬるりとしていて、信じられないくらい柔らかい。未知の感触に対してゾワゾワと肌が粟立ち、喉をせり上がってくる気持ちよさを噛み殺して耐える。
 足の指を舐められていた。咥える指は丁寧に1本ずつ。指と指の間にまで舌先が潜り込み、時間をかけてゆっくり舐めていく。
「……っ! う、うぅ……ッ」
 下唇を噛み、それでも耐え切れないときは腕を噛んで、漏れでる声を必死に抑える。くすぐったいだけだった感触は、もはや性的興奮の一種にまで変化していた。荒北が隠そうとすればするほど下腹部は意思に反して膨らんでいくばかりで、新開はそんな荒北を一瞥しつつ、なおも丁寧に舌を這わせ続ける。
「おい、マジで長ェからァ! しつけェぞ!」
 言っても無駄だとわかっていても、荒北は言わずにはいられなかった。
 これ以上続けたらダメになる。
「う……んぅっ……!」
 ねっとりした粘膜の柔らかさが焦燥感を覆い隠していく。
「……気持ちいいかい?」
(いいからヤベーんだろーが……!)
 心の中で悪態をついて、実際には声を噛み殺す。
 下半身に溜まる熱が気になって仕方がなかった。
 キスが始まってからはバニラセックスすらしていない。執拗なキスのせいで身体は反応してしまうのでが、いつも半端なところで消灯時刻を迎えてしまう。その先を一人でしようかとも思うのだが、何となく気が引けてしまって、結局は自分で処理もしていない。フラストレーションが溜まりにたまっている状態のせいか、指への愛撫は性器を咥えられたときにとてもよく似ていた。
(今日こそマジでやべェナ……)
 今夜こそひとりでしてしまうかもしれない。いや、そもそもの原因は新開なので彼に気兼ねなくしてしまおうと決意した直後、ふくらはぎを支えていた新開の手が滑らかに動いた。膝裏まで移動して、皮膚の薄い場所にそっと添えられる。
「あッ……!」
 予期しなかった刺激に細く高い声で喘いでしまった荒北は、慌てて上半身を起こした。
「てめェっ」
「んー?」
「膝っ……! いッ、一箇所の約束だろッ」
「キスはしてない。約束は守ってる」
「あぁ!? っざけんな、膝の指……っ!」
「指? 指がどうかした?」
 知っているくせに。とぼけながらも新開の指が膝裏を確実にゆっくり撫でる。普段他人に触られない場所は与えられた刺激を従順に拾い、その気持ちよさを性器に直結させてくる。
「あ、あっ……さわッ、ん、なァ……ッ」
 左足の親指が新開の口の中に消えていく。口内の柔らかい粘膜や、吸い付いて来る舌の熱さ。耳をくすぐる唾液の音と、喉元を掻きむしりたくなるような“どうしようもない”快感。
 無理だった。
 これ以上はとてもじゃないが耐えられそうにない。
 机に置かれた時計に素早く視線を投げ、タイムリミットを確認する。
「喰ッ、えよ、新開……たのむ、からァッ……喰ってくれ、今すぐッ」
 吐息まじりな上にところどころ掠れてしまったが、精一杯の感情を込めて願い求める。恥ずかしさはもちろんある。けれど、それ以上に新開の手で触ってほしくてたまらない。
 キスをして、手で触って、中へ潜らせて、深い部分まで愛されたい。 
「は……喰ってくれとはね。そうくるか。けど、おめさんも準備が――
「してある。っつーか……いつもしてる」
「え……」
「だから、早く。喰えヨ、新開」
 驚いたと思えば深々とため息をつき、挙句困ったように「まいった。おめさんの勝ちだ」と新開が眉を下げて笑う。
 一瞬だけ新開の視線が逸れた。彼も残り時間を確認したのだろう。再び視線が合った時には、その端正な顔に『足りない』という文字が張り付いていた。
「消灯後にまた来りゃいいだろ」
 今はわずかな躊躇ですらももったいない。
「それじゃあ、遠慮なく……」
 自由になった左足が静かにベッドに下ろされる。丁寧な仕草とは不釣り合いに、見下ろしてくる瞳の中にはいつもの余裕がない。新開は急いた匂いを滲ませながら荒北の身体に影を落としてきた。
 
「いただきます」
 

***END***

-ペダル:新荒
-,

int(1) int(1)