【新荒】スペアバイクナイトのあれ

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大学1年の新荒です。
スペアバイクナイトの質問コーナーの中で航先生が答えたネタをもとにしています。下記情報以外はすべて私の勝手な捏造です。
 ↓
Q.クリスマスの過ごし方は?
待宮くん:バイト(バイトの後は知りません。かなちゃんいるからね)
石垣くん:バイト
新開さん&福ちゃん:一緒に鍋。バイト終わりに石垣くんも合流(バイト先の残り物?なんかも持ってくる)
金城さん:おじいちゃんの法事で一足先に帰省
荒北さん:一人で文句(「何だヨ」等)を言いながら部室でお菓子を食べている
 
荒北さん(´;ω;`)

 
「なんだヨ、どいつもこいつも浮かれやがって……なにがクリスマスだ」
 イルミネーションがきらめくクリスマスの夜、洋南大学自転車競技部の部室では荒北靖友の愚痴が続いていた。
 彼が籍を置いている洋南大学はすでに冬季休業に入っている。部活動も休みに入っているところがほとんどで、部室棟へ出入りする生徒の数も少ない。おまけにクリスマスということもあってか普段以上に人影がまばらだった。
「だいたいなァ、みんな騒ぎすぎなンだヨ。この時期はどこ行ってもカップルばっかで居づれェし」
 荒北以外誰もいない室内に愚痴が響く。
 自転車競技部も活動休止期間に入っている。年末に帰省しない部員が何人か自主練として顔を出していたのだが、一人、また一人と減っていき、19時半を過ぎる頃には荒北だけになっていた。
「いかにも予定ありますってツラで帰りやがって……」
 帰り支度をしつつ貰ったお菓子を頬張る。先に帰っていった先輩たちが『帰っても一人だろ? カワイソウだからコレやるよ』と残していったものだった。
『クリスマスくらい早めにあがっとけ。あと、彼女つくれ。な?』
『この時期、ぼっちは特に辛いだろ。合コンでも行けよ、合コン』
『待宮の彼女に友達でも紹介してもらったらどうだ? 部活もいいけど、そればっかじゃ人生つまんねーぞ?』
 好き勝手言った挙句、最終的には『彼女をつくれ』に収束する。何度も繰り返されてきたこのくだりは金城曰く“先輩たちのいじり”らしいが、荒北としてはただの迷惑でしかなかった。
「部活で散々しごかれてクタクタだってのに、遊ぶ余裕なんかあるわけねーだろッ」
 ロッカーのドアを手荒に閉める。思った以上に大きな音が出てしまい、いつもの癖で慌てて周りを見回した。そうだ、自分ひとりだったと胸を撫でおろして「セーフ」と呟きながら部室を出る。ここに上級生がいたのなら間髪入れずに注意の声が飛んでくるのだ。それも何人もの。
 ドアの施錠をしっかりと確かめて、預かった鍵を財布の中にしまう。鍵の本来の持ち主である金城は祖父の法事に出席するため一足先に実家へ帰省している。まだ静岡に残っている待宮はバイトの真っ最中だが、バイト後は彼女との予定があるかもしれない。
 人影のない構内をただただ歩く。たまにすれ違う人がいてもほとんどがグループだったりカップルだったりで一人きりは滅多にいない。
(そういやマジでひとりってのは初めてかもな……)
 中学までは家族がいた。寮生活だった高校3年間は求めていなくても誰かしらがそばにいた。荒北はひとりきりでも構わないタイプだが、寮時代の煩わしいほどの賑やかさに慣らされてしまったせいか、こんなにも静かな夜は他人の声が恋しくなってくる。
「腹減ったァ。牛丼か、コンビニか……いや、ラーメン屋でも寄って帰るか」
 吐き出す息が白い靄になって空気中に溶けていく。アウターのポケットに突っ込んだ手はまだまだ温まりそうにない。自宅にある忘れものの手袋の存在をふと思い出した荒北は、持ち主に連絡を取るべく携帯電話を取り出した。
「お」
 ディスプレイに表示されていたメッセージ受信のマーク。かじかんだ指先でタップすると、送り主は新開だった。

【今日は寿一と鍋】

 座卓の中心に置かれている土鍋はあたたかそうな湯気を纏い、その向こう側に福富が箸を持って映っている。鍋の最中でも彼の鉄仮面ぶりは変わらず、荒北は思わず吹き出してしまった。そして間を置かずに電話ボタンを指で押す。
『やあ、靖友』
 2回目のコールで新開との電話が繋がった。
「てめェ、あの写真は当てつけか? 旨そうなもん食いやがって」
『当てつけの意味がわからないけど、よく撮れてるだろ? 具材は残り物だけどな。石垣君もバイトが終わったら合流する予定なんだ』
「ハッ! クリスマスに野郎3人で鍋ってか。悲しくなるぜ」
『そういう靖友は何してるんだ? みんなと一緒?』
「あァ? ちげーよ。金城はもう実家帰ってるし、待宮はバイトだバイトォ。で、オレは自主練の帰りィ」
『なんだ、一人? でもマチミヤくんは――って彼女がいるんだったな。それじゃあ、おめさんはほんとに一人か』
「うるせー、ほっとけ。これから虚しくラーメン食って帰ンだヨ」
『……そうか。あ、寿一にかわる?』
「いや、よろしく伝えといてくれ。邪魔して悪かったな」
『べつに構わないよ。おめさんは帰り道気をつけて』
「おー、そんじゃ――
『あ、靖友』
「あ? なにィ?」
『あー……いや、なんでもない。じゃあ、またな』
 何か言いたそうな雰囲気だったが、新開が通話を切ってしまったので荒北も携帯電話をポケットにしまった。そして肝心の要件を言い忘れたことに気づいてチッと舌打ちする。
(後でメッセージいれとくか)
 お気に入りのラーメン屋を目指しながらも頭の中では鍋を囲む3人を想像していた。今自分が羨ましいと思っているこの感情は鍋に対してなのか、それとも参加者に対してか。
「……らしくねー」
 ブンブンと頭を振って情けない感情を追い払う。空腹は感情をマイナス方面に波立たせるからよくない。腹が膨れたら無駄な事も考えなくなるだろうと、足早に街中を急いだ。
 

*
 後片付けを終えて風呂に入り、ストレッチと翌日の支度を軽く済ませ、ようやく布団に寝転んだのは深夜1時近くになってからだった
 室内の照明を落として充電中の携帯電話を引き寄せる。荒北からのメッセージが0時過ぎに届いていたが、さすがにこの時間ではもう寝てしまっただろうか。

【お前が忘れてった手袋、次まで借りてていいか?】

 先月静岡に泊まった時に忘れてきてしまった手袋。高価なものではないが保温効果が高くて気に入っている。静岡の平均気温は東京よりも若干高いと聞いていたが、とはいえ向こうも充分すぎるほど寒かった。寒がりな新開にとって、冬はどこに行っても冬でしかない。
(そうだ、靖友にプレゼントしてもいいかもな)
 しかし、クリスマスプレゼントと言ってしまうと素直に受け取ってくれないかもしれない。安かったので買っておいた、いや、スペアがあるからと伝えた方が安牌だろうか。
「起こしたらごめん。もちろん使ってくれて構わないよ、っと」
 返信して数秒後に既読マークがついた。そして「サンキュー。助かる」という彼らしい簡素なメッセージが返ってくる。
「まだ寝てなかったのか。電話したいんだけどなあ、さすがにやめとくべきか……」
 携帯電話を握ったまま悩んでいると、ふいに画面が暗転して荒北からの着信を表示した。まるでこちら側の心情を察したかのような絶妙なタイミング。驚くと同時に嬉しくなり、応答第一声の「起きてたんだな」が無意識に弾んでしまう。
『そっちこそ。既読つかねーから寝たかと思ったぜ』
「ごめん、片付けしてて気づかなかったんだ。あ、手袋は遠慮せずに使ってくれよ。そっちも寒いもんな」
『マジでさみィ。地元のやつらはこの気温であったけェとかいうんだぜ? 信じらんねーわ』
「だよな。充分寒かったよ。今度はもう少し厚着していかないとな」
『ハッ! アレ以上着込むつもりかヨ。さすがに着ぶくれやべーんじゃねーの? 脱いだら笑われンぞ』
「べつにいいよ。どうせ靖友の前でしか脱がねぇし」
 耳に電話をあてたまま布団の中で寝返りをうつ。毛布を肩まで引き上げていると、
『……今の下ネタか? そういう意味で言ってるワケェ?』
と予想外な言葉が返ってきた。
「え? あ、いや、そんなつもりじゃない。当然フツーの意味で、だぜ?」
『なんかゴソゴソ聞こえてンだけどォ? オメー今布団の中だろ。変なコトしてんじゃねーだろーナァ』
「たしかに布団の中だけど、今のは寝返りの音だな。それに、電話中に変な事なんかするわけないだろ?」
『へェ。そんじゃ、電話中じゃなきゃするってことか』
「……そんな嬉しそうな声で揚げ足とるなよ。まいったな」
 情けない声に気をよくしたのか電話口の向こうで荒北が笑っている。学校帰りの電話ではなんとなくイライラした声色だったが、どうやら機嫌は直ったらしい。今はからかいつつもじゃれているような、対恋人用の甘い雰囲気が伝わってきて耳がくすぐったくなってくる。
『ワリィ、ワリィ。オメーの反応がおもしれーからついな』
「でも、実際に変なことしてたら引くんだろ?」
『あぁ? 何言ってんだ。んなことで引いてたまるか。オレも一緒にやるに決まってンだろ』
 ジョークなのか、本気なのか、どちらとも取れる声で荒北が言い放つ。今度は新開が押し黙ってしまい、『冗談って思ってんだろーけど、半分本気だからナ』と荒北が追撃して更に笑う。
「おめさんはまたそうやってからかって……ずいぶん楽しそうだな」
『おー。おかげさまでェ』
「そうだ、靖友はいつこっち帰ってくんの? 実家帰る前に会えたりする?」
『オレもそれ聞こうと思ってたぜ。明日帰んだけど、お前予定空いてんの?』
「え!? 明日!?」
『おー。明日ァ。で、お前んち行きてェんだけど』
「来るのは構わないけど、ずいぶん急だな。もしかして前から決めてた?」
『いや、今決めた』
「え、今!?」
『ハッ! すげー声。そんな驚くことかァ? なんかさァ、オメーらの鍋の写真のせいで急に帰りたくなったンだヨ。あんな羨ましいもん送りつけてきやがって』
「なんだ、鍋が理由か。てっきりオレと話してて会いたくなったのかと思ったのに。残念」
 残念と言いつつも荒北らしい理由に笑ってしまう。明日の夕飯は鍋で決まりかなと冷蔵庫の中身を思い出しかけていると、荒北が『鍋だけじゃねーよ』と言い出した。
『寮んときのうるせー感じとか、去年はお前らと一緒にいたなって思い出してたら急にそっち行きたくなったンダヨ。つまりィ、まぁアレだ。会いてェなって』
「靖友……」
 思いがけない告白に胸の辺りがじんわり熱くなる。
「オレも同じこと思ってたよ。寿一の前だから言わなかったけど、靖友が一人でいるって聞いた時に会いたいって言いそうになった。近くにいたなら一緒にどうって誘えたのに、離れてるってのはもどかしいもんだよな」
『……だなァ』
「だからこそ明日は楽しみにしてるよ。駅まで迎えに行くから、そっち出る時連絡してくれよな」
『おー、わーった。そんじゃそろそろ寝るわ。また明日ナ』
「ああ。おやすみ」
 通話を終えて目を閉じるも、気持ちが高ぶっているせいか眠気が訪れる気配がない。大きなレースの前日でさえもスヤスヤと眠れてしまうタイプだというのに、こんなことは幼少期以来だと自分自身に驚いた。このまま寝不足状態で荒北と顔をあわせたら、「あの後何やってたんダヨ」と意地の悪い顔でからかってくるに違いない。
「なんとかして寝ないとなあ」
 布団の中で何度も寝返りをうち、眠れそうな体勢をあれこれ探す。そうこうしているうちに、ふと、明日の夜は荒北が隣にいるのだと想像してしまい、新開はますます眠れなくなってしまうのだった。
 

***END***

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