【新荒】忘れても好きなひと【記憶喪失】

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高校3年の新荒です。
記憶を失くした高3荒北さんが新開さんに「抱いてくれ」と迫る話。【R-18】

《含まれている成分》
・「彼女いるよ」って新開さんが嘘ついてます
・襲い受け気味
・攻めから受けへのイラマチオ
・攻めフェラ(お掃除)

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・以前アンケートをとらせていただいた、記憶喪失話の荒北さんバージョンになります。→『拍手へのお礼&アンケ(終了しました。6/3追記あり)』

 
1.
 一目見た瞬間に惹きつけられて、わけもわからず欲情した。何がなんでもモノにしたい。そう望んだ時には口が勝手に動いていた。
「世話んなるならアンタがいいんだけど。そっちの茶髪のォ、ええと、シンカイクンだっけェ? 同じ3年なんだろ? しかも寮住みィ」
「そう、だけど……」
 思いがけない指名だったのかシンカイと名乗った彼は戸惑っているように見えた。もしかすると記憶を失う前はたいして親しくなかったのかもしれない。しかし、今の荒北には過去の付き合いなどどうでもよかった。欲しいものを目の前にして何もせずに逃がすわけにはいかない。
「いいだろ? よろしくナ」
 敢えて空気を読まずに強引に事を進めてみる。するとシンカイは少しばかり悩んだ後で、「まあ、いいか。こちらこそよろしく」と荒北の世話役を承諾した。それが約3週間前のこと。
 
 9月末の土曜日、荒北は昼食を買いに行くつもりで自室を出た。
 けだるさの漂う足音が人影がない寮内に響く。3年生の多くは夏のインターハイで部活動を引退し、日々の目標を大学受験へと切り替えている。週末や連休前ともなれば塾通いで実家に帰る生徒も多く、下級生が部活に出た後の寮内は信じられないくらいに静まり返る。
(お。新開じゃねーか)
 玄関ホールに向かっていく後ろ姿。今週末は帰省するつもりだと数日前の夕飯時に話していたので、これから寮を出るのかもしれない。だが、ハーフパンツのポケットに財布が入っている以外は他に何も持っていない。
「新開」
「ん? やあ靖友。どっか行くの?」
「昼メシ買いにィ。そっちは? つーかまだ残ってたんだな。これから帰んの?」
「いや、帰るのはやめたんだ。おめさんも残るっていうし」
「え。マジでェ?」
「ああ。寿一も尽八もいないし、オレまでいなくなったら寂しいだろ?」
「んなわけねーだろ。清々するぜ」
 憎まれ口を叩きつつも思わぬ展開に気分が上がる。しかし、長続きはしなかった。
「それに、ウチには受験生がいるんでね。邪魔しないためにも帰らない方がいいかなって」
「受験生? ってお前だろ?」
「中3の弟がいるんだ。兄弟揃って受験生ってわけ。ま、アイツなら大丈夫だと思うけど念のためにね」
「……フーン」
「やっこさんには長いこと避けられててさ。前はもっと色々話してくれたんだけど……ある種の反抗期ってやつなのかもな」
 話しながら弟のことを思い出しているのだろう。困ったような、切ないような表情を浮かべつつ、それでもどこか嬉しそうに新開が笑う。彼の様子を見るに、寮に残る理由の8割くらいは弟のためなのだろう。自分のためじゃないと知ってガッカリしたが、思わぬチャンスがきたと荒北は心の中で拳を握った。
「なんだよ、居るならいるで言ってくれりゃーよかったのに。オメーも飯か? なら一緒に行こうぜ。旨い店とか教えろヨ」
「そうだなあ……それじゃあラーメンはどう? おめさんが好きだった店にでも行こうか。何か思い出すかもしれないし」
「麺か。いいねェ、ノッた」
 ラーメン屋に向かう道中、新開は学校周りにある飲食店や寄り道の定番コースなど、記憶を取り戻す手がかりになりそうなネタを聞かせてくれた。
「こうも暑いと夏が終わった気がしないなあ」
「だな。もう9月が終わるとか信じらんねェ」
「引きこもって勉強するにはもってこいかもな。外に出たくなくなるしさ。おめさん午前中は何してた? やっぱり勉強?」
「あー……まあ、いろいろ」
「ふうん? そうだ、最近体調はどうだ? 頭打ったとこは?」
「問題ねーよ。体調はフツーだナ」
「生活に不便は?」
「べつにィ。お前らがいてくれるからスゲー助かってるし」
 素直な気持ちを告げると新開は照れくさそうに視線を逸らした。そしてホッとした顔で「なら、よかった」と荒北に向かって笑みを浮かべる。
――!」
 まただ、と思った。と同時に心臓がキュンと高鳴ってしまい、今度は荒北が視線を逸らす番だった。
 夏休み明け早々に荒北は記憶を失くした。体育の授業中、自身の蹴ったサッカーボールがゴールポストで跳ね返り、それが顔面に直撃したことで軽い記憶喪失になったらしい。
 記憶が戻る気配はまだない。が、荒北自身は現状に焦っても困ってもいなかった。高校入学までの記憶は残っているので、そのうち思い出すだろうと楽天的に考えているせいかもしれない。
(そんなことより……)
 隣の新開をチラリと見る。
 無意識なのかもしれないが、たまに新開はドキッとするような目で見つめてくる。その視線に友人以上の好意を期待したくなるのだが、残念なことに彼には付き合っている人がいるらしい。

『シンカイくんさァ、付き合ってるヤツいんの?』
『え?』
『カノジョだよ、カノジョ』
『……いきなりだな』
『ま、聞くまでもねーか。どーせいるんだろ?』
『まあ、そうだな。いるよ』
『なんだよ、やっぱいんのかよ。つまんねー』
『つまんないって言われてもなぁ……』
『相手はうちの学校? まさか同じクラスだったりしねーよなァ?』
『いや……今はちょっと離れてて』
『へー。アレか、遠距離ってやつゥ?』
『そんなところかな』
 
 彼女の有無は世話役を頼んだ当日に確かめた。不躾な質問にも関わらず正直に答えてくれた彼は元から人が良いのだろう。予想通りの答えに落胆しつつも好感度は上がる一方で、おまけに遠距離恋愛と知ってしまっては余計に欲しくなってくる。
(問題はどーやって手ェだすか、だよナァ)
 今のところ具体的な策は思いついていない。荒北にとって記憶を取り戻すよりも、よっぽどの重要事項だった。
 
 

2.
 昼食後は新開の部屋に場所を移して、数学の課題をみてもらうことになった。
 テーブルを挟んでノートを広げる。まずは荒北が問題を解いていき、わからない箇所を新開がサポートする形で進めていく。
「なぁ、ここってコレ入れんじゃねーの?」
「ん? ああ、そこは問1で導き出した数値をココに入れて、Y軸の値を先に計算するんだ」
「あー、なるほど」
 助言通りに解放手順を踏んでいく。ふと視線を感じた気がして顔を上げると、頬杖をつく新開と目があった。
「なに。なんか間違ってたァ?」
「いや、『教えた方がわかりにくい』っておめさんに言われたことがあってね。それを思い出してた」
「オレが? フーン……そんときの“オレ”に理解力がなかっただけなんじゃねーのォ? 今のオレはちゃんとわかってるけど」
「ならよかった」
「けど、ジッと見られんのはちょっとな。ムダにキンチョーすっから」
「え、ああ、ごめん、そうだよな。じゃあオレは本でも読もうかな。わからないとこがあったら遠慮なく声かけて」
「おー」
 ノートに視線を戻してしばらくすると、向かい側からはページを捲る音が聞こえてきた。こっそり目だけを上げて盗み見る。新開はベッドを背もたれにして文庫本を読み始めていた。
 9月も終わるというのに夏の暑さはまだ衰えない。室内に差し込む陽は煌々として明るく、髪の毛を揺らすエアコンの冷風が心地いい。
(あ? なんだっけ、これェ)
「それは問3の応用だな。ここの数式にコレを当て嵌めてみて」
 解き方に詰まっても、質問する前にヒントが飛んでくる。新開に見守られているという安心感が嬉しくて、これが勉強会じゃなければと何度も思った。
 目の前には気になる男。室内にはふたりきり。好都合なことに今週末は両隣も帰省して不在らしい。だが、戦略も練っていないうちに勢いだけで手をだすわけにはいかない。ひとまずは邪念を追い払って宿題を片付けることに専念した。
 どれだけ時間が経ったのだろう。シャープペンシルの芯がポキッと折れて、その瞬間に集中力が途切れてしまった。手厚いサポートのおかげで課題はほぼ終わりかけている。
「なぁ、ちょっと――
 休憩しようぜ、と声をかけるつもりで顔を上げた荒北は何も言わずに口を閉じた。いつの間に寝てしまったのか、新開は文庫本を持ったまま気持ちよさそうに寝息をたてている。荒北は物音を立てないよう静かに頬杖をついて、初めて目にする寝顔を観察し始めた。
(……寝ててもサマんなるとかムカつくぜ。つーか、気ィ抜きすぎなんじゃねーのォ?)
 他人がいても眠ってしまう無警戒さに思わず笑みがこぼれる。荒北は何もしないと信じているのだろうか。自分に対する信頼の厚さを喜ぶべきところだが、彼にとって荒北は本当に友人のひとりでしかないという事実でもある。
「……んなことはわかってンだけどさァ」
 柔らかそうな唇についつい目がいってしまう。あれを独占できる存在が妬ましくて羨ましい。
 初めて出会った時から荒北は新開に強い劣情を抱いている。彼を思うたびに胸の辺りが締めつけられ、腹の奥深くが彼を求めて疼きだす。新開の唇に触れてみたい。吐息混じりに名前を呼ばれたら、どれほど興奮するだろう。あの唇に首筋を吸われたい。肌を舐められて、耳を齧られたい……。卑猥な願望が次から次へと浮かんできては理性をじわじわと蝕んでいく。
(あー……なんかの間違いが起きて1回くらい抱いてくんねーかなァ)
 荒北は頬杖をつく手を変えて深々とため息をついた。
 新開との妄想に耽る時、自然と荒北は抱かれる側を想像していた。まるで抱かれた経験があるかのように細かい部分まで思い描けてしまうので、ひょっとすると自分は記憶を失くす以前も新開に対して並々ならぬ好意を抱いていて、人には言えない妄想で自らを夜な夜な慰めていたのかもしれない。
 自室に隠されていたアナル用のローションボトルも好意の裏付けになりそうな一つだった。
 新開を想う時、つまりは彼に欲情した時、荒北は自分の尻が疼くのを感じている。検証という名目でローションを使ってみた結果、どうやら自分には受け入れる側としての素質があり、且つ、尻で快感を得た経験があるらしいことを知った。
 新開に彼女の有無を確認した際、自分の恋人についても一応聞いてみたのだが、残念なことに荒北には彼女はいなかった。携帯電話の履歴やメッセージを確かめてみても恋人らしき人物は確かに見当たらなかった。ということは尻の開発は恋人とのプレイのひとつではなく、元からの趣味ということになってくる。自分で楽しんでいただけなのか、それとも、抱かれる機会を夢見てのものなのか。なんにせよ、今の荒北にとって抱かれるための身体は好都合でしかない。
 それにしても、と荒北は新開を眺めながら思った。
 肉体的な意味で新開を求めているのは確かだが、そこに恋愛的な意味での“好き”が含まれているのかがわからない。ひと目見た時から強烈に惹きつけられていはいる。だがそれは“好き”という甘ずっぱいものではなく、独占や執着という生臭い感情な気がしてならない。荒北は2度目のため息をついた。
(……つーか全然起きねェな)
 少し前に文庫本が滑り落ちたが、それでも新開はまだ目を覚まさない。エアコンの風に髪を揺らされながら気持ちよさそうに眠り続けている。その寝顔を見ているつもりが、どうしても唇に目が向かった。
 今ならキスをしてもバレないかもしれない。
 邪な思いつきが頭をよぎる。にわかに鼓動がペースを上げて、荒北は知らず知らずのうちに唾を飲み込んだ。
 頭の中で『したい』と『無理だ』が入り混じる。新開までは数十センチ。身を乗り出せば簡単に届いてしまう。
 とりあえず荒北は頬杖を外した。しかし次の行動への踏ん切りがつかず、結局は目線を無理やり外して全部なかったことにした。
(いやいや、何考えてンだ! バレるに決まってんだろ!? あー……とりあえずコイツ起こすか……)
 ローテーブルに片手をつき、身を乗り出して新開の肩を掴む。
「新開、起きろ。おい。新開」
 名前を呼んでも肩を揺さぶっても新開は反応しない。一度寝入ったら目を覚ましにくいタイプなのだろうか。再びの誘惑に襲われかけたが、奥歯を噛み締めて邪念を殺す。今度は強めに肩を揺さぶってみると、目の前の瞼がようやく動いた。「んー……」と不快そうに眉をひそめながら新開が目を開ける。
「起きたか? 座ったまま寝てっと身体辛くなるぞ。寝るならちゃんとベッドで――
 突然腕を引っ張られた。姿勢を崩した身体が前に流れ、気がついた時にはふたりの唇が重なっていた。
 あまりにも近すぎて目の前のすべてがぼやける。ぬるりとした温かいものに下唇を舐められ、ギョッとした瞬間にソレが唇の合わせ目から侵入してきた。
「んんっ!?」
 荒北は二重の意味で驚いていた。キス自体はもちろんだが、新開の唇やキスの仕方に対して意味不明な懐かしさを感じている。毎夜の想像が原因だろうか。それにしては既視感があまりにも生々しい。
 戸惑う荒北の口内を新開の舌先が一方的に愛撫する。上唇を吸い、顔の角度を変えて下唇も吸い、舌を挿し込んで上顎を舐める。自分とは厚さが違う唇の感触は、やけに肉感的でゾクゾクした。
(ヤベェ……なんだこれ……)
 唇で灯された熱が全身に回り始めていた。耳元で心臓が鳴っている。理性が性欲でブレかけた瞬間、荒北は突き飛ばされて尻餅をついた。
「って……! 何すんだてめェ」
「な、えっ、今……!?」
「はぁ? オレじゃねーよ。そっちがしてきたくせに被害者ヅラかァ?」
「え、オレ、が?」
「あぁ? 覚えてねーのかよ!? おいおい、舌までバッチリ入れといてそりゃねーだろ。口ん中ベロベロ舐めまくってさァ。スゲー積極的でまいったぜ」
 茶化す荒北とは対照的に、信じられないという顔で新開が自分の口を手で覆う。
「そうか……すまねぇ……間違えた」
 動揺した末に心の声が漏れたのだろうか。独り言のような『間違えた』が荒北の心を鋭く抉った。
「ハッ! 間違えただァ? 寝ぼけててめェの女にでも見えたか? ふざけてんじゃねーぞ」
 カッとなった勢いで口調が荒くなる。先ほどの既視感もキスの余韻もすでに頭の中から飛んでいる。
「しかも最初疑ったよなァ? 被害者はこっちだっつーのによォ」
「あれは気が動転してて――いや、悪かった。謝るよ」
「いきなりキスされた挙句、突き飛ばされたオレの身にもなってみろ。ケツも打ったし……あー、マジで痛ェ」
「ほんとに悪かったよ。ごめんな。打ったとこ大丈夫か?」
 新開の申し訳なさそうな態度が気持ちいい。奇妙な高揚感に気づいてしまった荒北は、「謝るだけじゃ誠意が足んねーなァ」と敢えて意地悪な言葉を口にしていた。
「もっとなんかあんじゃねーのォ?」
「ええと……なんか、ってのは?」
「そうだなァ……」
 具体的に何かを考えていたわけではない。が、悪知恵というものはこういった時にこそ良い働きをするもので、瞬時にあることを思いついてしまった。
 荒北が無言で距離を詰めると、警戒しているのか新開の表情がこわばった。それを無視して真向かいに腰を下ろし、膝が触れ合う位置までにじり寄る。
「や、すとも? ……やたら近いな」
「もっかいやらしてくれたら許してやるヨ」
「……ん? もっかい、ってのは?」
「今したばっかだろ。ねちっこいの」
 新開の唇に視線をロックしてキスしようと顔を近づける。すると新開は慌てて腰を浮かせ、後ずさりしながらベッドの上に逃げた。
「逃げんなヨ」
「それはっ、それはダメだ。できない。無理だ」
「なァんでだよ。1回してんだから、もう1回くらい変わんねーだろ」
「さっきのは事故なんだ。ほんとに悪かった。いくらでも謝るから勘弁してくれ」
 頼むよ、と新開が困り顔で眉を下げる。さすがに調子に乗りすぎたかと思ったが、新開の様子を見るにどうやら拒絶されているわけでもないらしい。彼はどうにかして回避しようと必死になっているだけに見える。
「……あー、アレか。もしかして女にワリィとか思ってんの?」
 ピンときた荒北がそう告げると新開の表情がわかりやすく変化した。
「ハッ! こんなん気にするとかマジメかよ」
「当たり前だろ。おめさんの方がどうにかしてる」
 トゲを含んだ視線と声のトーン。新開が初めて見せた態度に思いがけず感情が高まった。彼女への罪悪感をもっともっと植えつけたら、一体どんな一面を見せてくれるのか。
 新開を追ってベッドに乗ると膝の下でマットレスが軋んだ。荒北が一歩進むごとに新開が後ずさりする。壁際へ追い詰めたところで「本気じゃないよな?」と新開が焦りの滲む顔で薄く笑った。
 チャンスだと思った。この先、二度と訪れないだろう千載一遇のチャンス。手に入らないと思っていた存在に指先が届きかけている。
 荒北には他人のものを奪う趣味はない。面倒ごとに自ら首を突っ込んでいくタイプでもない。しかし今は“寝取る”という属性をなんとなく理解できそうな気がしている。スリルが心臓を痛いほどに震わせている。この興奮を一度味わったら最後、痛い目を見るまではやめられなくなるのかもしれない。
 うねる茶髪の隙間から右耳が覗いている。その真横の壁に手をつくと、新開がビクッと肩を揺らして荒北を凝視した。
「浮気し放題な見た目してホントは一途ってか。愛されてンなァ、カノジョは」
「……ふざけてるならやめてくれ」
「あのなァ、マジになんなヨ。こんなもん浮気したうちに入んねーって。相手はオレだぜ? 野郎同士の遊びなんかノーカンだろ。ただのオフザケ。わかるゥ? それに今はオレとお前しかいねーんだ。お前が黙ってりゃバレるわけがねェ」
「いや、そういう事じゃないんだよ」
「たかが数秒でチャラにしてやるっつってんだ。黙ってりゃすぐ終わる。それとも、いつまでもネチネチ嫌味言われてーかァ?」
「靖友聞いてくれ」
「新開。いい加減黙っとけ」
 片手で新開の顎を掴み、逃げないよう押さえながら唇を重ねた。真一文字に固く結ばれた唇には1度目のような柔らかさはなかった。新開は唸るばかりで頑なに口を開こうとせず、荒北も益々意地になって決して唇を離さない。新開が身をよじって抵抗すれば荒北は逃げる彼を追いかけ、ふたり揃ってずるずるとベッドに倒れ込む。布団をクシャクシャにしながら攻防は続き、最終的には荒北が新開に馬乗りになっていた。
(……ん?)
 ふと、とある変化に気がついて荒北はキスをやめた。顔を上げた瞬間に新開と目が合い、彼の瞳がハッとしたように見開かれる。
「……なんだよ、もしかして溜まってンじゃねーの?」
 尻肉に触れている塊。これが何なのか、確認するまでもなく男なら誰もが知っている。言われた新開もとっくに自覚しているのだろう。散々舐められた下唇をきゅっと噛み、何も言わずに視線を逸らした。
「カノジョとは遠距離だもんなァ。どんぐらいヤッてねーんだよ」
「……」
「おい。訊いてンだろ」
「……言うわけないだろ」
「ハッ! そりゃそーか。まぁ、男にベロチューされたくらいで勃っちまうんだから、だいぶ空いてんだろーけど」
「……」
「そこもダンマリかよヨ。まあいい。…………そんじゃーさァ、オレが相手してやろうか?」
 衝動的に口にしていた。意味がわからなかったのか、もしくは今は理解する余裕がないのか、新開はバツが悪そうな顔のまま荒北を見つめている。
「わかってんだろ勃ってンの。抜いてやるヨ」
 右手を筒状にして上下に振る。すると、何の暗喩か理解したらしい新開が露骨に眉をひそめた。
「そういう冗談は好きじゃない。からかうのはやめてくれ」
「からかってねーって。マジで言ってんだけど」
「どこがだ? 面白がってるようにしか見えないな。とにかくオレはそういうのは好きじゃない」
 嫌がる表情でさえも興奮材料になってくる。怒った顔も悪くない、と嗜虐心が刺激されてしまった。
「なあ、なんでオレが世話役にお前を指名したか教えてやろうか?」
「……今度はなんの話だ? なんでって、同じ3年で寮も一緒だからだろ」
「それだけじゃねェ。最初っから“そういう”つもりで選んだっつったらどうする?」
「ソウイウツモリ? ん? どういう意味だ?」
 返事代わりに再び唇を押しつける。新開は咄嗟に口を閉じたが、早々に酸素を求めて唇を緩めた。その隙につけ込んで舌を差し入れ、無遠慮に口内を舐めまわす。息を切らせる新開を力で押さえつけて、硬くなった自らの下半身を組み敷いた腹部にすりつけた。
「んんっ! うぅ、うっ!」
 新開の抵抗が大きくなる。上に乗った荒北を振り落とそうとして全身を左右に捻り始めた。しかし荒北もマウントポジションを譲るわけにはいかない。体重で押さえつけ、更には手を伸ばして新開の下腹部を服の上から握った。
「だめ、だっ……! や、やめてくれ!」
「やめるわけねーだろ」
 荒々しい手つきにもかかわらず、萎えない陰茎が手のひらを押し返してくる。
 手を動かし続けながら、息を乱す新開の顔を覗き込んだ。戸惑いと非難と怒りが混じった瞳が荒北をまっすぐに見つめ返してくる。その瞳の中には欲情しきった荒北の顔が映っていた。エアコンが効いた室内で全身が熱くてたまらない。
「ヤリてーんだよ……お前見てるとスゲーヤリたくなる」
 はぁ、と深く息を吐いて新開の首筋に鼻先をうずめた。これから吐き出そうとしている醜い欲求。目を合わせた状態でそれを口にする勇気はなかった。
 スンスンと匂いを嗅いで、湿った声で「新開」と呼ぶ。
「……なァ、抱いてくんねーか」
 荒北の手の中で握られっぱなしの陰茎がピクリと反応した。
「1回きりでいい。……たぶんすぐ入っから時間かかんねェと思うし……お前もこのまんまじゃおさまんねーだろ? ただの性欲処理ってことで……頼む」
 頼む、が緊張して情けなく震える。ぎゅっとしがみついた荒北の耳元で、新開の汗ばんだ喉がごくりと鳴った。
 
 

-ペダル:新荒
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int(1) int(2)