【新荒】飼い主あり

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高校3年、インハイ前の新荒です。妬いたりニヤニヤしたりする、ほのぼの話。
最近オチが思いつかなくて困っています。

 

 部活に向かうべく廊下を歩いていると、昇降口の手前で女子2人組に声をかけられた。知らない顔だったので恐らく後輩だろう。おとなしそうな女子がモジモジしつつ一歩前に進み出て、友達と思しき生徒が彼女の背中を更に押す。
「あっ、あのっ……!」
 いつものか、と荒北はピンときた。この展開はうんざりするほど知ってる。
「今ちょっと……時間いい、ですか……?」
 そう言って顔を真っ赤にした女子が荒北の右隣を見つめる。言われた当人は意外だという顔で瞬きして、「ん? オレ?」と自分自身を指差した。
(おいおい、この状況でオメー以外に誰がいるっつーんだよ。つーかオメーこそよく知った展開だろーが)
「もうすぐ部活始まるしなあ」
「そのっ、ほんの少しでいいんですっ、あのっ……おっ、お願いしますっ!」
 後ろで見守っていた女生徒も友達を援護して「お願いします」と頭を下げる。それでも新開はまだ迷っているのか、荒北にチラリと視線を送ってきた。
 インターハイまでは1ヶ月をきっている。なによりも部活を優先したいという新開の気持ちも当然理解できる。
「いんじゃねーの?  聞いてやれよ、新開」
 荒北の発言が予想外だったのか新開はわずかに目を見開いた。対照的に女子2名は目を輝かせている。
「でも」
「いいから行って来いヨ。部活遅れたって死ぬわけじゃねーし、福ちゃんには野暮用で遅れるって言っといてやっから」
 行けって、とダメ押しで新開の肘を小突く。新開は数秒間沈黙した後、困ったような顔で「わかった」と頷いた。
「すまねぇ。早めに行くから」
「……おー。そんじゃ後で」
 新開の肩を軽く叩いて女子生徒の横を通り抜ける。荒北への感謝のつもりなのか彼女たちは慌てて頭を下げたが、これから告白するだろう女子の表情はすでに泣きそうになっている。
(あーあ。『早めに行く』はさすがにねーヨ。脈無しって言ってるようなもんじゃねーか。ヒデェ野郎だぜ)
 新開のあの様子だと、彼はまずい発言をしたことに気づいていないのかもしれない。自覚があったならそれはそれで厄介だが、真実は新開にしかわからないし、荒北が言われたわけでもないので今はどうでもよかった。
(まァ、オレもヒデェことしてるし、人の事は言えねーか。確実にフラれるって知ってんのに。アイツも不服そうなツラしてたしナァ……)
 多少は後ろめたさがあるのだろうか。胸の辺りが不快にモヤついている。
 靴を履き替えた荒北は普段以上に大股で部室に急いだ。とにかく今は早くペダルを回したくて仕方がない。
 
*
 一晩経っても不快感は残っていた。
 昨日、新開は宣言通りに早めに部室に現れた。告白の行方がどうなったのかは聞いていない。敢えて訊かなくても彼の表情でわかったし、そもそも良い返事をするわけがない。
(……まだモヤッとしてんなァ)
 不快感を発散させたくてペダルを回す。そのおかげか足の勢いも踏む力も衰えない。考えれば考えるほど足が動いて、車輪とローラーがものすごい勢いで回転した。
(なんだこれ……回してる最中だってのに全然回し足りねェ……なんかスゲーイラつくナァ。けど、一体どこにキレてんだ? 新開に? 告白してくるヤツらにか? いや、そもそも隠さなきゃなんねーってのが――って、そんなもん最初っからわかってたことだろーが! わかっててこうなってンだろ!? あーっ! オレの思考が一番めんどくせー! やっぱ元から向いてねーんだよ、色恋ごとってのはァ! なんであん時……アレさえなけりゃ……いやいやキレてちゃダメだ。すでになっちまってンだから過去は振り返るな。腹括るって決めたんだろーが。落ち着け。よく考えろ。……ええと、なんだっけェ? イラついてる原因か。なんかいい方法……そうだナ、こう考えたらどうだ? これはアレだ。飼い犬がめちゃくちゃ褒められてんだって考えたらいいんじゃねーか? アイツが飼い犬でオレが飼い主だろ? そんで、女に告白されるってのは人様に褒められてるってことでェ、褒められてんだからソレはつまり良いことだ。アキチャンも散歩行くとよく声かけられてたしな。カワイイからなァ、アキチャン。人気でンのもわかるぜ)
 心の平静を保とうとして、新開を実家にいるアキチャンに置き換える。そうやって無理やり自分を納得させると、なんとなくだが気分が晴れるような気がしてきた。
「……新開は飼い犬、新開は飼い犬、新開は――
「ん? オレがどうしたって?」
 突然の声に驚いて心臓がこれ以上ないくらい大きく跳ねた。いつからそこにいたのか新開が隣に立っている。
「ハァ!? っだ急にィ! ビビんだろーが!」
「急にって……ずっと話してたんだけど、まさか聞いてなかったのか?」
「え」
「はぁ……どうりで返事がうわの空だったわけだ。まあいいよ。あ、2個目のボタンかけ違えてるぜ」
「あ? ボタン? うおっ!?」
 ワイシャツ姿の自分に驚いた。ローラー台を降りた記憶はあるが、それ以降は曖昧ではっきりしない。いったい自分はいつ朝練を終えて、どうやって寮に戻ったのか。しかも器用なことにシャワーまで浴びて制服に着替え始めている。心ここに在らず、とはまさに今の状況を指すのだろう。
(マジでやってらんねー……)
 かけ違えていたボタンを直す。荒北は深々とため息をついた。
「ため息? いや、あくびかな?」
 顔を上げると洗面台の鏡越しに新開と目が合った。飄々としたいつもの顔でパワーバーを頬張りながら手櫛で髪を梳かしている。
「うっせー。あくびじゃねーヨ。ため息だ、ため息ィ」
「へぇ、珍しいな。靖友がため息」
「はぁ? オレだってため息ぐらいでるっつーの。ひとをなんだと思ってんだ、ったくよォ」
「何か悩みごと? オレでよければ話聞くけど」
「あ゛ぁ? てめェ、誰のせいで――
 反射的に新開を詰りそうになり、直前で言葉を飲み込んだ。心臓から喉元にかけて例のモヤモヤがびっしり詰まっているのだろう。呼吸がしづらくて仕方がない。だが新開が悪いわけではないし、彼を非難してもただの八つ当たりにしかならない。それに、荒北のドスが効いた声に萎縮したらしい後輩たちの視線もなんとなく感じている。
 荒北は「なんでもねェ」と呟いて鏡から視線を外した。スラックスを手に取り、ガチャガチャと音を鳴らしながらベルトを締める。
「靖友?」
「時間ねーからさっさと出るぞ。後ろつまってるし、朝飯に遅れちまう」
「でも、おめさんまだ髪濡れてるぜ? 乾かさなくていいのか?」
「そのうち乾くだろ」
 タオルを被って着替えを掴み、後輩たちに場所を譲る。脱衣所から廊下に出ると、浴室とは違った種類の蒸した空気が肌に触れた。まだ7時過ぎだというのに夏特有の暑さがすでに始まっている。
「今日もあちぃなァ……」
「学校着く頃にはまた汗かいてそうだな」
 せっかく風呂入ったのに、と窓の向こうを眺める横顔は言葉とは裏腹に表情が明るい。

『さっみ! なんか急に寒くなった気ィしねぇ? そろそろ雪でも降んのかァ?』
『みたいだな。今週中に初雪かもって予報で言ってたよ』
『どうりでオメーが着ぶくれしてるわけだ。冬って感じするわ』
『寒いより暑い方がまだマシだな。雪が降ると外で走れなくなるし、夏はグランツールもインハイもあるし。靖友は冬と夏ならどっちがいい?』
『どっちも好きじゃねェ』
『2択で訊いてるのにどっちも否定か。靖友って捻くれてるとこあるよな。素直じゃない』
『はぁ? オレはいつだって素直だぜ? さみぃのもあちぃのも嫌いだから両方って答えたンだヨ。あー、やっぱ肉まんも買っとくべきだったぜ。さみぃから今更食いたくなってきた』
『靖友は結局何買ったんだ?』
『あ? ベプシと漫画』
『なんだ、いつものセットだな』
『うっせ。いつ何買おうがオレの勝手だろ』
『もしかしておめさん……』
『なんだよ』
『わざわざついてきてくれた、とか?』
『ちげーよ。暇だったからしょーがなく、だ』
『そういう事にしとくよ』
『ハァ!? そういう事なんだヨ!』
『夜のコンビニデートもじきに終わりか。雪が降ったらついてきてくれないもんな、靖友は』
『なにがデートだ。んなつもりは1ミリもねーんですけどォ?』
『……じゃあさ……オレのことは好き? 嫌い?』
『……は? 何だソレ。脈略なさすぎンだろ』
『二択だぜ、靖友。今度はちゃんと答えてくれ』
『わけわかんねェこと言ってんじゃねーよ。冗談で言ってンならセンスねーな』
『冗談に聞こえた?』
『……しらねー。いいからさっさと帰るぞ』
『わからないなんて嘘だよな。おめさん、ほんとはわかってんだろ?』

 耳が千切れそうなほど寒かった冬のあの夜。【好きかもしれない】という曖昧な感情が、【ずっと好きだった』】という確信に変わってしまった瞬間だった。新開の表情も、自分の鼓動の変化も、肝心なところで情けなく震えてしまった声も、半年以上経った今でさえすべてが鮮明に残っている。
(未だにコイツと続いてんだから、我ながら驚くぜ)
 味噌汁を口に運ぶついでに目の前の新開を盗み見る。今朝も相変わらずの食べっぷりで、茶碗に山盛りの白米が気持ちがいい速度で減っていく。
 新開は一体いつ、どんな瞬間に男同士の恋愛を貫こうと決心したのだろうか。そして彼もまた荒北と同じように悩んだり、喜んだり、落ち込んだり、煩わしいと思ったり、そういった様々な感情に振り回されているのだろうか。
(いや、たぶんコイツはなんも考えてねーな)
 それならば、と考え事が一巡して【どうやって胸のモヤモヤに折り合いをつけるか】に思考が戻ってくる。いくら荒北が新開のことを飼い犬だと思い込んでも、荒北以外も同じように認識してくれなければ意味がない。それに新開には恋人がいると周知されない限り、彼に告白してくる者は今後も現れるだろう。
(オレのもんって言えたら即解決すんのに。せめて相手がいるって主張できりゃあなァ)
 妄想の中で新開の顔面に自分の名前を書いてみる。ついでに背中のワイシャツにもでかでかと書いてみる。少しばかりスカッとした気がしたが、「くだらねェ」と呟いて味噌汁ごと妄想を飲み込んだ。
  
「靖友。ウサ吉のとこに寄ってくから先に出てるな」
「おー」
 廊下から顔を覗かせた新開に頷き返し、壁に貼った時間割を確認しながら鞄に教科書を詰めていく。不意にある事を思いついた荒北は、手元にあったノートを開いて適当な大きさに千切った。次に赤色のマジックペンを探して引き出しの中をあちこち漁り、ようやくペンを見つけると千切った紙に大きめに文字を書いた。2度3度と上からなぞり書きをして太さを足す。
「うっし。こんなもんでいいだろ。くっつけるもんは……」
 セロハンテープの代わりはテーピングテープでもいいだろうか。とりあえず手近にあった白色のテーピングテープをポケットに突っ込んで、新開を追いかけるべく学校へ急いだ。
 
 

「おせーぞ新開。とろとろ歩いてンじゃねーよ」
 不意打ちで背中を叩かれ、衝撃で足がよろめく。何事かと思いきや犯人は荒北だったようで、新開の反応に満足したのか子供じみた笑みを浮かべながら自身の教室に入って行った。
「……あの顔は何か企んでるな」
 叩かれた背中が今になってじんわり痛い。なんだったのかもわからないまま、ひとまず新開も自分の教室に入った。
 荒北に何を仕掛けられたのかは、さほど時間を置かずに理解することになる。ショートホームルームが終わって担任が教室を出ていくと、後ろの席の男子が「それってなんかの罰ゲーム?」と新開の背中をつついてきた。
「ん? 何の話?」
「背中の張り紙」
「え。そんなのついてんの?」
「代わりに取ろうか?」
 ほら、と差し出されたものはテーピングテープがくっついた紙切れだった。赤文字で『飼い主あり』と書かれている。見覚えのある字のおかげで犯人が誰かは調べるまでもない。
「なるほどな。朝のはこれだったのか」
「飼い主って何?」
「さあな。誰が仕掛けたかはわかってるんだけど」
 背中を叩かれた時に貼られたのだろう。ニヤニヤ笑う意地の悪い顔を思い出して、新開は「やられたな」とため息をついた。
 1限目の間中、新開は“飼い主”について考えを巡らせていた。
 荒北靖友という恋人はいるが飼い主を持った覚えはない。しかし、荒北が仕掛けてきたとなれば飼い主とは彼を指しているのだろうか。
(靖友が飼い主ならオレはなんだ? ペットか? うーん、何が言いたいのかさっぱりだな。飼い主、飼うひと、主従、オーナー、所有者、持ち主……背中に貼られたってことは、オレには見えなくて周りには見えてるってわけで、オレへの悪戯にしては意味がわからな……ん? もしかして靖友なりの遠回しな牽制だったりするのか? そういや昨日の告白の時から様子が変だったな。今朝の朝練も身が入ってなかったし、返事はうわの空で、挙句にコレだ。もしコレが本当にオレ以外への牽制だったなら……やっばいな。オレ、絶対今にやけてる)
 頬杖をつくふりをしてさりげなく口元を隠す。教科書に左にずらして、下に隠してあったノートの切れ端を露出させた。
(飼い主あり、か……)
 恋人と書かなかったところが実に荒北らしい。新開はこっそり笑みを浮かべながら赤文字を愛おしく眺めた。
 
 昼休みに購買前で荒北と鉢合わせした時、「やってくれたな」とだけ告げると荒北は「もう気づいたのかよ」と不満げに唇を尖らせた。
「言いたいことは色々あるけど、今はちょっと時間がなくてね。また今度ゆっくり話そうな」
「オレは話なんてなんもねーけど」
「おめさんには無くてもオレにはあるんだよ。じゃあ、また放課後。あ、今日は機材メンテで部活が休みって覚えてるよな?」
「ハァ? んなもん聞いてねーぞ」
「……朝練後に話しただろ? おめさんはうわの空で全然聞いてなかったみたいだけど」
「え。あー……あれか」
「ちゃんと伝えたからな。2度目は忘れるなよ」
 ばつが悪そうな荒北の背中をポンと叩いてその場を離れる。廊下の曲がり角で振り向いてみると、荒北はパン選びに夢中になっていた。
 
*
「新開ッ! てめェ、なにしてくれてんだ!」
 放課後、新開が自室で着替えていると荒北がノックもせずに怒鳴り込んできた。手に持った正方形の付箋紙を新開の鼻先に突きつけて、「オメーの仕業だろ」と鼻息を荒くする。
「いつ気づいたんだ?」
「さっきだよ、さっき! 気づいたばっかだ!」
 荒北がピンク色の付箋紙を新開の頬に押しつける。それを剥がして糊の部分を触ってみると粘着力はまだ残っていた。
「へぇ。付箋って意外と長くもつもんだな」
「ハァ!? 呑気に感心してんじゃねーよ! クソッ! いつからだ!? いつから仕込んでやがった!?」
「さあな。いつだと思う?」
「知るかッ!」
 荒北の説明によると寮に帰ってくるまで誰も背中の付箋について教えてくれず、唯一指摘してきた東堂でさえも「罰ゲームかと思って、そっとしておこうか迷った」と言ったらしい。
「おかしいと思ったぜ。今日はやけに見られる気ィしたンだヨ。どう考えたってコレのせいじゃねーか!」
「注目の的だったわけだ。やったな、靖友」
「なんも良かねーんだよ! 何人に見られたと思ってンだ! 学校だけならまだしも寮帰ってくるまでずっとだぞ!? コンビニ行って、本屋寄って、野川行ってペン買って……今日に限ってあちこち寄り道しちまったじゃねーか」
 わざとらしいため息と共に荒北はベッドに倒れ込んだ。拗ねたという意思表示なのか、寝返りを打って新開に背中を向ける。
(また貼られたらどうするつもりだ?)
 新開は開け放たれたままのドアを閉じると、部屋着に着替えて荒北の横に腰を下ろした。無防備な背中を撫でて宥めつつ、ワイシャツの皺を伸ばしてやる。
「靖友? 怒ってんの?」
「うっせー、触んな」
「まさかここまで気づかないとは思わなかったんだ。その点は悪かったよ。けど、オレはおめさんの真似をしたまでだ」
「真似っつーか仕返しだろ? 5倍ぐらいガッツリ返しやがって。つーか、なんなんだよ『新開専用』ってのは」
「飼い主よりマシだと思うぜ? それにオレ専用は嘘じゃない」
 だろ?と荒北の耳にキスを落とす。荒北はくすぐったそうに首をすくめて新開をジロリと睨んだ。
「例え罰ゲームだって思われても、みんなに靖友はオレのもんだって見てもらえたからな。オレは満足だよ」
「……だろうな。オメーはな」
「靖友もオレみたいに書けばよかったのに。『荒北専用』ってさ」
「書けるもんなら書いてたっつーの。一応遠慮してやったンだよ」
「遠慮した結果が飼い主ねぇ。もしかして本当はそういう趣味でもあんの?」
「なっ!? あるわけねーだろ!」
「そうか、残念だな。靖友になら飼われても構わないのに」
「はぁ? お前なァ……マジで言ってんのか冗談なのか分かりにくいンだよ。それに、オメーを飼うには飯代がかかりすぎるからな。こっちからお断りだ」
 2度目の「残念」を呟くと、鼻で笑った荒北が下から手を伸ばしてきた。新開の首に両腕を巻きつけて、キスをしろと無言で催促する。
「明日からしばらくはみんなに揶揄われそうだな」
「オメーのせいだぞ。オメーがなんとかしろヨ」
「いいの? なんとかしても」
「……やっぱダメだ。お前に任せたらなんかダメな気ィする」
 得意の勘でも働いたのか、荒北が新開の匂いを嗅いで怪訝そうな顔をする。
「大丈夫。靖友はオレのだって言うだけだ。何も問題ない」
「バカ言うな。問題だらけじゃねーか」
 睨みつけるくせにキスは優しい。文句を言いながらも隠しきれない嬉しさが顔に滲み出ている。
「ほんと、捻くれてるな靖友は」
「うっせー。オレはいつだって素直なんだヨ」
「そうかな」
「そうだろ」
 数秒間見つめ合った後でどちらともなく笑いだす。額をくっつけてじゃれながら代わるがわるキスをした。
  

『わからないなんて嘘だよな。おめさん、ほんとはわかってんだろ?』
『…………マジに答えるんなら、どっちもだ。たぶんオレはお前に惚れてんだろーな。けど、正直言ってムカつくこともある』
『そう、か……』
『それでも、誰にも渡したくねェってのが一番の本音だ』
『……まいったな。そんなこと言われたらさ、二択外の答えでも許しちまうだろ』
 
 始まりは指先が凍えてしまいそうに寒かった冬の夜だった。
 あれから春と夏を迎え、共に過ごし、今もこうして隣にいる。誰にも渡したくないと、荒北はまだそう思ってくれているだろうか。
「何にやけてンだよ。って、にやけ顔は元からか」
「そうだな」
「あっさり認めやがって。張り合いねーヤツ」
「まあね。オレは誰かさんと違って素直だからな」
「はぁ? オレだって素直だっつーの。何回言わせんだ」
 何度でも、と返事して荒北をぎゅうっと抱きしめる。
 耐えきれずに口に出してしまった過去の自分に感謝を。そして、正直に応えてくれた荒北にもたくさんの好きと感謝を。
 
 
***END***

-ペダル:新荒
-,

int(1) int(1)